コトリンゴの最新作は『birdcore!』 【後編】
Music Sketch 2014.05.10
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引き続き、アルバム『birdcore!』に関するインタビューを。できれば聴きながら読んでいただけると、より楽しんでいただけるはず。

コトリンゴの音楽の、さまざまな魅力が詰まった『birdcore!』
■ 音楽も歌詞もストーリーテラーのように
----「読み合うふたり」は不思議な曲で好きです。
コトリンゴ(以下、K):「最初はチャイナっぽいメロディを書きたい、リズムもタイコ隊みたいのと合わせたいというのがあって。そのアイデアだけで始めたから、しっくり来るまでに結構難しくて。最初にリズムを自分でサンプリングを切り貼りして作ったものを入れていたんですけど、あんまりしっくりこなくて、ようやくイメージに合うものがまとまった時に、ドラムの神谷(洵平)君に"こんな感じがいいな"って聴いてもらって。リズムと音の他に、ベースとピアノをどう入れるか試行錯誤して、ストリングスも凝って入れました」
----曲調がどんどん変わっていって、数を数えていくあたりも好きです。
K:「数えるところからはシチュエーションから作っていって、ドラムで"あんまり喋れない2人が一緒に出かけて、お互いを伺いつつ、ちょっとどうしよう"っていう感じで進めていきました(笑)」
----歌詞の並べ方も意味ありげにしているし。
K:「そうですね。歌詞もとても考えました」
----曲作りということ自体がストーリーテラーですよね、楽しそう。歌詞だけでなく、ベースラインなど一から全部作っていく感じ?
K:「私はそれが凄く好きです。今回は日本語で書きたいというのがあって、でもあまり説明し過ぎないようにしようというのもあって。起承転結でなくても別にいいわけだから。今までは"まとめよう、まとめよう"としていたけど、そこを投げてしまって、1個の言葉を繰り返すだけでいいんだなと思うようになりました」
■ 夏目漱石やE.E.カミングスからの想像力
----わかりすぎる歌詞だと、コトリさんの曲そのものも魅力も半減してしまうから、想像力を掻き立てるくらいの歌詞が合っていると思います。続く「絵描きと雲雀」は夏目漱石の小説『草枕』がきっかけになったという。
K:「アメリカにいる時に日本の名作をたくさん買って読んでいて。でも『草枕』は読んでいなくて、たまたま読んだら、音楽的で綺麗だと思ったんです。もともと川端康成の文章が好きなんですよ。少女雑誌にも書いていたみたいで、"あら、いやだわ"とか、可愛い言葉遣いがあって(笑)。『草枕』は絵描きがずっと考えているとことに雲雀が飛んでくる最初の風景が音楽っぽくて好きで、別に曲が『草枕』に関係しているわけではなくて。あと、"〜かろ"は使いたかっただけです(笑)。今は綺麗な日本語というか、日本語をもっと勉強したいと思っています」
----"千の傷み"とか?
K:「自分の中のイメージなんですけど、一個の言葉で意味が広がるのが好きです」

昨年の10月31日に横浜市開港記念会館で行なわれた「古い建物の響き」コトリンゴ with 金子飛鳥ストリングスの写真。撮影: Kentaro Minami
----"「ballooning」も好きです。ジャズの本領発揮というか、コトリさんらしい曲だと思いました。歌詞が、天井から降りてきた蜘蛛がきっかけになったというのも(笑)。ここでも言葉の感覚を楽しんでいますよね。
K:「これはNY制作(笑)。映画『新しい靴を買わなくちゃ』のサウンドトラックを作っていた時に使われなかったので、トラックだけ先にあった。歌はなかなかできなくて、最後の最後に入れました」
----ウィスパー系で大人っぽい。センシュアルというか。
K:「そうですね。意識していたのが今のジャズの若い人の曲調なんですけど、そこにとても上手な人の歌を入れたら凄くしっくりくると思うけど、でも私はそうじゃないから、歌詞と歌い方をすごく考えて、こうなりました」
----最後の方は音数が多いよね。
K:「盛り上がっちゃって(笑)」
----9曲目の「o by the by」はエレクトロニカ系で。
K:「これは2年前の《WORLD HAPPINESS 2012》でAOKI takamasaさんと一緒にやった曲。AOKIさんからリズムトラックをもらって、それに合う曲を作っていきました。歌はE.E.カミングスさんの詩で録り直しました」
----この詩を選んだのは?
K:「たまたま買っていたんですけど、ただの詩集ではなくて、"何故こんな書き方をしているんだろう"という楽しみ方とか解説とか書いている本で、シンプルなんだけど、いろいろな取り方ができて、面白いアートっぽい書き方が凄いなと思って。特にこれは"空に自分の希望を投げてどんどん飛んでいって"というイメージの詩で、その開けた感じがすごく好きで」
----サウンドそのものにもファンタジーな響きがあって、聴いていて楽しいですよね。
K:「思わぬエフェクトを音源のお陰で発見することがあって。たとえばこの曲の最後の方のホーンで、曲はインテンポなのに、ホーンはちょっとテンポが外れているような入り方になっているのは、音源の自然なエフェクトで面白いんですよね」
■ 自宅でリラックスしながら録音した歌も
----あたま、こころ」を書くにあたっては、何か注文はありました?
K:「MIKIKOさんから『ツバメ・ノヴェレッテ』に入っていた『かいじゅう』みたいな曲を、と言われて。"モザイク"というキーワードはオーダーです。MIKIKOさんにもらったシナリオを参考に"脳みそ対こころ"という設定にして、自分の素直な気持ちや素直な欲求は心の方にあって、いつも余計な心配とか茶々を入れたり、考えすぎて素直に行けなかったりって、惑わせるのはいつも頭の方という設定にして歌詞を書いて」
----"革命前夜"というのは?
K:「頭軍が心軍を攻めてくる(笑)。頭軍と心軍の戦いというふうにしてるんです。最後の砦も心の砦だから守りたい感じで」
----心は移植できないから重要ということ?
K:「そうです。守りたいけど、ちょっとしたことでこころは揺らいじゃうし、というのも書きたくて」
----後半はセンシュアルな歌い方が多いですよね。
K:「声もどんどん変わってきたから、できたら私も後半の歌い方の方が好きなんですけど、アルバムの前半はライヴで歌う時の私なりにはっきり出す歌い方、後半は囁いている感じでやっています。特に9曲目と10曲目は家で録ったから、スタジオでは出ないリラックス感があってテンションとか声の雰囲気が違うと思うんです」
----その感じ、わかる(笑)。私は「読み合うふたり」以降が凄く好き。
K:「やっぱり(笑)。なんかパキッと反応が分かれて、後ろにいくにつれて大人っぽくて、あとははっちゃけてますよね(笑)」

2014年3月21〜23日に青山スパイラルホールで行なわれたelevenplayのダンス・インスタレーション『MOSAIC』より。コトリンゴが書き下ろした「あたま、こころ」が使われたシーン。撮影:Shizuo Takahashi
----ラストの「moon's a ballon」は、さくっとできたのでは?
K:「そうですね。ずっとピアノを弾きながら録音をしっぱなしで、そこから(笑)」
----この曲が最後にくることで、また最初から聴きたくなります。
K:「それは嬉しいですね」
気心の知れたミュージシャンとの楽しそうな生演奏や、コトリンゴの頭の中を覗くようなファンタスティックなオーケストレーションなど、選び抜かれた言葉と共に音楽の楽しさを味わえる『birdcore!』。新緑の季節に、緑の妖精になった気分で野外で聴いたり、現実と白昼夢を行き来するような気分で聴きたくなるアルバムです。
*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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