BOYという名の女性2人組

今、発売中の『フィガロジャポン』8月号にBOYのインタビュー記事を掲載しています。日本では、この6月にデビュー・アルバム『ミューチュアル・フレンズ』が発売になったこともあり、世界的に注目されるきっかけになった「リトル・ナンバーズ」がヒット中。せっかくなので、本誌に書き切れなかったことを書き足しておきます。

BOYの大ヒット曲「リトル・ナンバーズ」


スイス出身のヴァレスカ(Vo、G)とドイツ生まれのソーニャ(B、G)が偶然知り合ったのは、2005年にハンブルグの芸術学校で。ここでは春休みや夏休みなどに若手のミュージシャンを集めたワークショップを行なっていて、2人はそこで知り合いました。さまざまな参加者とバンドを組んで、昔の曲の演奏や作曲に励みながら、その時から2人は気が合うとお互いに感じていたそう。

130628_music_01.jpg左がソーニャ、右がヴァレスカ。


ヴァレスカ「ワークショップは3月に3週間、8月に3週間と、合計6週間行なったの。私はその時はリード・シンガーとして参加していて、ギターやピアノは少し演奏するくらいだった。その時からソーニャとは、いくつか結成したバンドの中で一緒になったりしたけど、すぐに2人で何かを始めるということはなかったわ。私はスイスのチューリッヒに住んでいて、ワークショップが終わったら母国に帰っていたし」

ソーニャ「私はそこではチェロとベース、ギターも少し弾いていた。いろんなバンドを組んでいろんなことにチャレンジするという感じだった。ワークショップが終わってからは、自宅に小さなスタジオを作って、そこでコンピュータなど使って曲作りに専念するようになったの」

ヴァレスカ「そしてそれから1年半経った2007年に私がハンブルグに移住し、ソーニャに"今はハンブルグにいるの"って連絡したのよ」


最初はバンドを組んでみたもののうまく行かず、曲作りも順調に進まず、結局、メロディも歌詞も書けないソーニャが自宅でバックトラックを作り、それをヴァレスカにメールで送り、そこにヴァレスカがメロディと歌詞を乗せて送り返すという方法で制作。せっかく同じ街に住んでいながら、顔を合わせて曲作りすることは少なかったそう。しかもソーニャは歌詞が完成するまでずっと待っていたため、アルバムを作るための曲が集まるのに4年もの歳月が掛かってしまったとのこと。

BOY「スキン」(アコースティック・ヴァージョン)


ただ、試行錯誤が長かったために、良かった点もありました。今回プロデュースを担当したフィリップ・スタインキーは、ソーニャの昔からの友人であり、早くから曲作りに協力してくれたミュージシャン。ソングライターであり、ピアニストとしても優秀。さらに気鋭の映画音楽の作曲家としてドイツで注目されていて、それだけに音を重ねていく手法などに定評がある人物だそう。理解のある彼が加わることで、楽曲のアレンジに幅が広がりました。

ソーニャ「フィリップにとって、BOYはプロデューサーとして初めての仕事だったけれど、プロデューサーって第3の声だし、彼は本当にパーフェクトだったわ。例えば、『スキン』という曲にクラリネットを入れるアイディア。最初は"えっ?"って感じてほっておいたんだけど、しばらくして聴き直したら、すごくクールだと思ったの。新鮮な耳で聴き直せたのね。最初は自分たちのベーシックなアレンジが好きだったけど、彼のお陰で曲の輝き方が全然違ってしまったから」

ヴァレスカ「『シルバー・ストリーツ』は20ヴァージョンもあったのよ。そのアレンジも全く違うもので、パーフェクトなものを探すのに時間がかかったわ。私達とフィリップで決めていって2人がOKでも1人がダメだったら、完璧なヴァージョンができるまで、ずっと取り組んでいったの。だからこそ、このアルバムには心底納得した曲だけが収録されているの」


他にも、フェニックスなどのサポートをしているドラム奏者のトーマス・ヘッドランドをはじめとしたミュージシャン、また撮影やアートワークの制作にも親しい友人達が参加。なので、昨秋にヨーロッパで発売したアルバムタイトル『ミューチュアル・フレンズ』(共通の友人)には、"彼らがいたからこそ完成した"という意味が込められています。

130628_music_02.jpgデビュー・アルバム『ミューチュアル・フレンズ』には、安堵感の広がる女性ヴォーカルに、ヴィブラフォンやクラリネット、フレンチホルン、チェロなど優しい音色が加わり、爽やかな風を届けてくれる作品になっています。


そして本誌にも書きましたが、YouTubeから世界的に火のついた大ヒット曲「リトル・ナンバーズ」は、アルバムの収録曲を全部完成し終え、レコード会社から契約の電話がかかって来ないか待っている時に、短時間で書き上げたナンバー。焦る気持ちを、恋人からの電話を待っているロマンチックな気持ちに置き換えています。そんなきっかけで生まれた曲がこんなに大ヒットしてしまうのだから、2人が今やヨーロッパやアメリカ、ましては日本でもCDが発売されて注目されるとは思っても見なかったそうです。

ソーニャ「本当に、どうしてこんなにヒットしたのかわからないわ(笑)。アルバムを作る時に全体的に意識したことはとにかく心を込めて丁寧に作ることと、ハードな時期を過ごしている人の気持ちを癒してくれるような音楽にしたかったことかな」

ヴァレスカ「これはとても楽観的なアルバムで、ポジティヴフィーリングに溢れているわ。何曲か悲しいメランコリックな曲はあるけどね。明るい気分を届けてくれるはずよ」

130628_music_03.jpg近影。左がソーニャ、右がヴァレスカ。2人とも長身です。


現在ヴァレスカは故郷スイスに、ソーニャはハンブルグに住んでいますが、基本曲作りはメールでのやり取りなので、支障がないそう。そしてライヴやプロモーションで各国をまわる時は、仲の良い姉妹のようにして過ごしているそうです。お互いの性格の好きなところも語ってもらいました。

ソーニャ「ヴァレスカは音楽作りに関して辛抱強いし、情熱的なのがいいわ。私達に共通する一番大きな部分は音楽なので、何よりもそこが大事。彼女のことは本当に大好きよ」

ヴァレスカ「ソーニャに対して最初から感じていたのは、仕事の部分でも人間的な性格の部分でも自分が何を欲しているかを、自分自身でちゃんとわかっていること。それをきっちりと見極める力があって、すごくダイレクトに発言する部分もある。それは私にはない部分で素晴らしいと思う。正直だし、誠実だし、何事にも真摯に取り組むのがいい」

130628_music_04.jpg今年5月に初来日した時のショーケースライヴの模様。8月にはビルボードライヴ大阪(8/3)と同じく東京(8/4)で、バンドセットでの来日が決定。


それでいて完璧主義であり、一方でユーモアにも溢れている2人。まさにステキな女友達が増えたような気持ちで聴けるBOYの音楽です。メロディも歌も、そしてサウンドも美しくて、世界的に絶賛されているのに納得できる、私もお気に入りの一枚でもあります。

*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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