人気プロデューサー/DJのラスマス・フェイバーにインタビュー 後編
Music Sketch 2013.01.18
前回に引き続き、スウェーデン出身のプロデューサー/ミュージシャン/DJのラスマス・フェイバーのインタビューを。10代の頃からジャズ・ピアニストとして多くのセッションに参加してきた彼は、ハウス・ミュージック系のアーティストのレコーディングに参加したことからハウス・ミュージックにも傾倒。最初にイギリスのレーベルから発表した「Never Felt So Fly」(2002年)が大ヒットになり、自身のレーベルから出した「Ever After」(2006年)もビッグ・アンセムに。待望のファースト・アルバム『Where We Belong』(2008年)を発表後は、自分のルーツであるジャズと日本のアニメを融合させた『Rasmus Faber pres. Platina Jazz』企画をスタートさせるなど、多岐にわたった活躍をしている。

■ スウェーデンはアメリカやイギリスに続く、音楽輸出国。
----スウェーデンの音楽シーンというとジャズシーンも活発ですが、古くはABBAをはじめ、カーディガンズなど元々メロディを重視したポップ/ロックが盛んな印象があります。昨今のプロデューサーでいえば、アヴリル・ラヴィーンやケイティ・ペリーなど人気アーティストを多数手掛けているDr.Lukeやスターゲイザーが有名ですが、世界的に活躍しているケースが多いですよね。
「最近のスウェーデンは、スウェディッシュ・ハウス・マフィア、アヴィチーなど世界で活躍するDJも増えてきた。もちろん彼らはアメリカでも活躍していて、スウェーデンのクラブシーンも大きくなっている。スウェーデンにはたくさんのミュージシャンやソングライターがいるけど、地元のマーケットは小さい。だから音楽業界の人々は外で活躍しないとやっていけないんだ。もちろん地元ならではの音楽はあるけど、それは本当に小さなマーケットだから聴く機会はないと思う。メジャーな人々は親しみやすくてインパクトの強いメロディで、インターナショナルなサウンドをアメリカのビッグマーケットに向けて書いているよね。スウェーデンはアメリカやUKに次いで、音楽輸出国なんだ」

----海外で活躍することを念頭に音楽活動をスタートさせているような?
「そうだね。日本だったら、まず最初に日本のリスナーのことを考えるだろう? でもスウェーデンは国内マーケットのサイズに比べてミュージシャンやプロデューサーが多いので、外へ出て行かざるを得ない。他の国の人のために音楽を作るというインターナショナルな文化に対応できる形でないと、生計を立てられないから、自動的にそういう発想になるんだ」
■ 鳥肌を立たせるようなもの。それが僕のゴールなんだ。
----ラスマスは、もう数え切れないほど日本に来ているそうですが、日本のアニメ、日本の音楽シーンなど、どのへんに興味がありますか?
「日本でいろいろなコラボレーションができていることに感謝しているよ。日本の言語やアニメそのものに興味あるわけではないけれど、僕が生み出すコードはアメリカでは複雑に考えられるのに対し、日本は僕のメロディやハーモニーに対しオープンに評価してくれるよね。それがとてもありがたい。面白いのは、ヨーロッパにはインディなメンタリティがある。キュートでも美しくもない音楽で、とてもダークで捻くれているような音楽が評価されるけど、日本の女性アーティストはキュートじゃないとダメでしょ(笑)。ミュージシャンやソングライターはたぶん違うタイプのエモーションがある表現できると思うから、僕はもっと複雑でキュートな音楽を作りたい。広い間口のある、パレットでいうともっとカラフルな色彩の音楽をね」
----最新アルバム『We Laugh We Dance We Cry』の中で一番チャレンジだったのはどの曲ですか?
「一番大きいチャレンジは、今風のクラブフレイバーを持たせること。特にアルバムタイトル曲はハードだった。ロックな部分があったり、ロマンチックだったり、エレクトロだったり、違った面を1つの曲に入れたので、そのバランスが難しかった。この曲の歌詞はとても自然に閃いたんだけど、笑って、踊って、泣いて、という時系列ではなく、人生が幸せから悲しみ、また悲しみから幸せに戻っていくといった状況、決して途切れることのないサイクルヤジ分ではコントロールできない状況を歌にしてみたかったしね」
----自分の作品の中に、共通する美意識のようなものはありますか?
「鳥肌を立たせるようなもの。それが僕のゴールなんだ。映画でも鳥肌が立つものが好き。バスケットのゴールの瞬間もダンス・ミュージックも緊張と弛緩があるだろう? 悲観から幸福へといった、全然反対の状況から心境が変わる、緊張から放たれる瞬間のようなものが好きなんだ」
----ラスマス自身も感受性が強くて、鳥肌が立ちやすいタイプ?
「たぶんね(笑)。アックスウェル(スウェディッシュ・ハウス・マフィアの一員)も同じ考えなんだ。同じことを話していた。彼が言うには"Goose bumps never lie(鳥肌は嘘をつかない)"。曲にアップ&ダウンがあるからこそ、いいメロディが来て伝わるものもあるんだよね」
最近は進化心理学(evolutionary psychology)や人間動物学(behavioral history)に関する本を読み漁っているというラスマス・フェイバー。このあとしばらく彼の鳥肌論や幸福論について、雑談がしばらく続き、それも興味深かった。

*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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