『フィガロジャポン』 8月号の特集「真夏のエレクトロ」から(後半)
Music Sketch 2015.07.24
8月を前にして、既に猛暑たけなわという日々が続いています。皆さん、お元気ですか? 前回に続いて今回ご紹介するのは、涼しくなるというより個性派アーティストたちの音楽で、特にミュージックヴィデオ作品に到っては、さらにインパクトの強いものになっています。
■ 神秘系エレクトロ
○ FKA Twigs(FKAツイッグス)
独創的な音楽はもとより、自ら監督した作品を含めた衝撃度の高いミュージックヴィデオを毎回発表し、時代の寵児となったFKAツイッグス。スペインとジャマイカの血を引いていて、アートアークでも自分の魅力を最大限に引き出しているかのよう。作品同様にかなり個性の強い性格かと思いきや、今年1月の初来日時にインタビューしたところ、想像していたよりも小柄で華奢で、とにかく良く喋る気さくな人でした(どちらかというと、おばちゃんぽいかも)。
「Two Weeks」 監督はナビル
本人も、作品とのギャップを次のように喋っていました。
「実際に会った人からは、"ツィッグスは素晴らしい。ショウもすべてにおいて淀みがない。でも、喋り出したらガッカリね"、なんて書かれていたりするのよ。要するに、私は喋る時も特異な生き物のような存在であることを期待されているみたいなんだけど、私に言わせればそんなのバカげてて、私だって喋る時は普通だし、人間なんだし......(笑)。でも、それは自分のせいでもあるんでしょうけどね。自分自身をすごく操作して見せているわけだから。みんな、それと私という人間を結び付けられないんだと思う」。
ロバート・パティンソンとの交際も順調に続いて、今年4月には婚約。歌詞から想像するに、嫉妬深かったり激しい面も多そうですが、このまま良い関係を続けてほしいです。
「Pendulum」監督はFKAツイッグス
元々はプロのダンサーを目指していたのでパフォーマーとしての意識も高く、ステージやミュージックヴィデオでの彼女を見ていると、エキゾチックでミステリアスな存在そのものがアートのよう。最新作『EP2』からもわかるように、歌唱力はもとより、官能的な独自の発声法も心得ていて、奇才アルカをプロデュースに迎えての意表を突くような音遣いやビート、そこへ重ねていく息遣い、声の使い方も巧みで、ちょっと聴いただけで、彼女の音楽だとわかるほど独創的な作風になっています。
○ Ibeyi(イベイー)
イベイーはナオミとリサ=カインデという双子のディアス姉妹による2人組。キューバに生まれ、2歳の時にパリへ移住し、自分たちのルーツミュージックとジェイムス・ブレイクなど最先端ミュージックから受けた影響とをうまく融合させた音楽を創り出しています。以前このコラムで紹介しているのでここでは説明を省きます。「River」「Mama Says」「Ghost」をパフォーマンスしたライヴ映像があがっていたので貼っておきますね。
Live Deezer Session
○ BANKS(バンクス)
こちらもロシアとルーマニアの血が入っているエキゾチック美人。デビューアルバム『GODDESS』の多くの曲を手掛けているのが新進気鋭のイギリスのミュージシャン/プロデューサー陣のため、その音からもヨーロッパを拠点に活動していると思われがちですが、生まれも育ちもロサンゼルス。元々はピアノの弾き語りをするシンガー・ソングライターなので歌や曲はしっかりしていて、そこにエレクトロな作風が加わっています。初来日時に取材したところ、写真も撮られ慣れているモデルのような佇まいで、ミュージッククリップをディラン・ナイトやバーナビー・ローパーらの芸術性の高いクリエイターが手掛けているのにも納得しました。
「This Is What It Feels Like」監督はエリス・バール
次の映像を撮影しているのは、その後、ラナ・デル・レイの恋人として騒がれたイタリア人の著名写真家フランチェスコ・カロッツイーニ。服や映像など黒を基調としているのは、本人曰く「黒という色には全部の色が含まれているという魅力があるわ。それって感情が層のようになっている複雑な性格の私そのもの。それに黒は闇であり、無限で心地良く、真夜中の象徴でもあり、パワーがある。特に黒い服は、スペシャルなものを感じられる私の居場所だと思っているの」とのこと。バンクスには全体的にミステリアスな雰囲気もあり、そういう意味でも黒という色は彼女の人生の一部になっているほど溶け込んでいるように思えました。
「Waiting Game」 監督はフランチェスコ・カロッツイーニ
■ 躍動系エレクトロ
本誌では躍動系と称しましたが、この欄ではサウンドメイクやビートの作り方で最先端を行き、新たな生命力を感じさせたり、刺激されて自分の中で細胞分裂を起こすような、そんな音楽をクリエイトするアーティストを挙げています。
○ Arca(アルカ)
アルカはベネズエラ出身でロンドン在住、今年25歳になる近未来感覚のアーティスト。デビューアルバムとなった『Xen』は、無重力の宇宙空間で金属やガラスの破片の音までもコラージュしているような斬新さで、正直、全てにおいて比類するものがなく、ミュージックヴィデオを見ていると新生命体、宇宙人のような感覚にまでとらわれます。
「Xen」
その才能に早くからカニエ・ウェストが注目し、FKAツイッグスと組んで一大センセーションを起こしてからは、ビョークの最新アルバムに誘われるなど新旋風を巻き起こしている天才ぶり。映像はジェシー・カンダとコラボしていて、その流れからFKAツイッグスの映像もアルカ絡みの曲で手掛けています。
「Now You Know」
○ Jam City(ジャム・シティ)
ロンドン郊外に住むジャック・レイサムのプロジェクト。最新アルバム『Dream A Garden』は"自分たちが安心できて、平和を感じることができる自分たちの居場所を作る"というテーマで作られ、過去の作品よりも温かみの増した作品になっています。今年インタビューしたカインドネスもこのアルバムを大絶賛していて、「自分と同じように70年代のソウルミュージックを意識していると思う」と話していましたが、確かに親しみやすさを感じるのは、そういったフィーリングが根底に感じられるからかもしれません。打ち込みと生演奏の混じり具合も程よい心地良さです。
「Unhappy」
○ Prefuse 73(プレフューズ 73)
アメリカのアトランタ出身で、数々のプロジェクトで活躍する奇才クリエイター、ギレルモ・スコット・ヘレンのプロジェクト。Prefuse 73名義ではエレクトロニック・ヒップホップとして知られていて、かつてはレディオヘッドが影響されたと語っていたことも。約4年ぶりとなるアルバム『Rivington Não Rio』は、メロディの美しさに重きを置きながら、彼らしいサウンド、リズム、ビートといったディテールを細やかに丁寧に扱いつつ、音楽を紡いでいます。1つ1つの音や声を手で掬いあげられるような感覚もあり、その優しさも魅力でとても聴きやすいと思います。
「Infrared (feat. Sam Dew)」
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なお、本誌のこの特集の後半では、中納良恵さん(EGO-WRAPPIN')、沙田瑞紀さん(ねごと)、蓮沼執太さん、Seihoさんの4名がFIGARO読者に向けてスペシャルな選曲リストを組んで下さっているので、そちらもチェックしてみて下さい。より涼やかな夏の音楽時間を過ごせる、素敵なセレクトになっています!
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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