LILI LIMIT に注目!!!

1曲目の演奏が終わった時に、「凄いバンドを見つけてしまった!」と興奮を覚えたのがLILI LIMITとの出逢いだった。先月のことだ。私は相変わらず洋楽邦楽ジャンルを問わず、有名であろうとライヴ経験の浅いミュージシャンであろうと、気になればライヴを見に行っている。その日は知り合いのバンドを見に行ったものの、瞬時にこの未知のバンドに魅せられ、その後もライヴに2度足を運んだ。

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山口県で生まれ、福岡県で今のメンバーが揃ったLILI LIMIT。


まずは「in your site」を聴いてほしい。リムショット(スネアドラムの淵をコンコンと叩く音)好きの私は、この音を軸に始まる2本のギターとベース音の緻密なアンサンブルからまず惹かれてしまう。温かみ溢れるヴォーカルに合わせて楽器が躍るように高揚し、エレクトリック・ピアノが前面に出て歌詞が日本語に変わるとサウンドスケープが広がっていく。後半のギターのカッティングを合図に一気にエモーショナルに転じ、最後は壮大にコーラスを響き渡らせていく。言葉で説明するより、ヘッドフォンから注入してもらった方が早いと思う。各楽器演奏を追っていくだけでも楽しめるし、ましてやこの曲をライヴで浴びた時の醍醐味はクセになるほど感動的だ。

「in your site」 会場限定販売の『140731』に収録。


■ 山口で結成し→福岡→東京へと移住

LILI LIMITの結成は2012年に山口県で。牧野(G&Vo)と黒瀬(B&Cho)、ギターとドラムによる4人組だったが、後者2人が就職のために脱退。たまたま牧野は知り合いだった福岡県在住の土器(G&Cho)に電話する機会があった時に、「(それなら自分がギターを)やりたいかも」と土器から言われ、牧野も彼のギターに興味があり、福岡にも住みたかったからと、LILI LIMITは福岡へ引っ越すことになる。

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牧野純平(G&Vo)


そこへ土器とバンドを組んでいた丸谷(Dr)が当時はサポートとして参加、曲を構成していく中で「ギターだけの音楽は飽きてきた」(土器)「キーボードを入れたらもっと広がるよね」(牧野)と考え、当時LILI LIMITのファンで練習を見に来ていた志水(Key&Cho)を誘う。2013年のことだ。

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土器大洋(G&Cho)


しかしバンドは福岡に安住せず、1年後には上京を決意する。

「東京へ行く事を決めた時は、『A-E』が残響ショップで売れていて、注目もその界隈であって、しかもタイミング良く全国流通(という形でアルバムを出す)のお話を頂いたので、東京で活動できない限りバンドの先はないなと思って。音楽をする環境は大切だと僕は思っていて、おそらくLILI LIMITはその名の通り、"きわっきわ"な東京という街が合っていたんじゃないかなと、今ではこの決断をして良かったなと僕は思います」(牧野)

「Document / ±0」 1stミニアルバム『A-E』に収録され、全国流通盤となった2ndミニアルバム『modular』にリテイクで収録されたナンバー。2分強の曲の中で、各楽器が歌声と対峙しながらも美しく力強く収束していく。


3月15日にLILI LIMIT主催のライヴを開催した2日後、牧野は東京へすぐに引っ越し、残りのメンバーは5月迄に全員上京。先日聞いて驚いたのだが、女子2人は未だ20歳。なかでも黒瀬は、高校卒業してからバンド活動のために山口→福岡→東京と一年毎に移住していて、実にフットワークが軽い。

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黒瀬莉世(B&Cho)


■ 歌心ある5人が奏でるサウンドスケープ

曲作りの作業は、牧野が歌とメロディなどをiPhoneに録音してアイデアと共に土器に送り、土器がコンピュータのlogicというソフトを使って構成を考えてメンバーに渡し、そこからスタジオへ入って形にしていく。その手法そのものは珍しくはないが、聴いてもらえばわかるように曲の発想は斬新だ。そこにはこれまで聴いてきた音楽の影響もあるだろうが、それを如実に意識させないほど、自分たちの個性として昇華している。たとえば「in your site」が、最初の『MUTE MUTE MUTE』に収録された時から土器のリアレンジと今の5人によるライヴパフォーマンスを経て身体性を帯び、今一番良い形となって『140731』に再収録され、しかもREMIXまで生まれているように。

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丸谷誠治(Dr)


話を聞いていて面白かったのは、全員ギターの経験があること。ギタリストの土器は中学3年の頃に父の知り合いからギターをもらい、当時から好きだったストレイテナーやLITEなど聴きながらバンド活動を続けてきた。牧野は中学2年でバンドを始めた時はギター担当だったが、高校2年の頃に急遽ヴォーカリストの代わりに歌わなくてはならないハプニングがあり、作詞作曲していたこともあって以降は歌うことに決めた。丸谷も高校の軽音楽部でギターとヴォーカルを担当。しかしドラマーが脱退したのを機にドラムを叩いてみたら、ハマッてしまったという。18歳のことだ。

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志水美日(Key&Cho)


黒瀬は最初ギターを手にしたものの、すぐに向いていないと判断。中学の吹奏楽部ではパーカッションを叩くが、当時好きだった邦楽バンドを聴いている時にドラムのキックの音や重低音が好きなことに気づき、ベースを始めた。志水は4歳からピアノを習い、中学では吹奏楽部でトランペットを担当してコンサートマスターもするほどクラシックに没頭。しかし部活が禁止だった高校では一転して友人から借りたGalileo Galileiのファンになり、ヴォーカルの尾崎雄貴をきっかけに洋楽に興味を持ち、フェニックスやMEWを聴き始める。一時期ギターで曲作りもしていたが、初バンドのLILI LIMITに加入してからは鍵盤の前に再び立つことになった。

曲作りの核となる牧野と土器以外の3人もいろいろなパートを聴く耳を持つからだろうか、複雑に楽器が絡み合っているようでいて、歌の活きる、歌心のある演奏が構築されている。

「RIP」 Tシャツ付きシングルとして発売もされた、『modular』の1曲目。


■ 日常の見方を変える、牧野純平が紡ぎだす歌詞とメロディ

何より魅力なのは、シンガー・ソングライターとしても成立する牧野が書く歌詞でありメロディであり、表現力、歌声である。彼は中学2年の時の担任がロック好きで、授業でレッド・ツェッペリンの「天国への階段」を聴いて衝撃を受け、すぐにバンドを組む。父親もハードロックバンドをやっていたこともあり、環境は恵まれていた。LILI LIMITとして最初のメンバーと発表したdemo『MUTE MUTE MUTE』ではアジテーションのように感情をぶつけシャウトした曲があるが、今のメンバーになった『A-E』からはポップというか、甘さを含んだ温かみのある声や、気持ちを高揚させる声質を活かした曲調に変化している。

「昔の自分が嫌いだったというか、『MUTE〜』の頃の自分は人として凄い尖っていたんですよ。それが(曲に)そのまんま出ていると思うんです。当時は楽しかったし、メンバーもお客さんも楽しいって言ってくれたけど、1人で凄いもがいている感があって。過去を見ていたら悲しくなってきて、"俺はこんなことをやりたいわけじゃない、大人になりたいな"って思って、今のメンバーでは大人になろう、みんなでもっと楽しめるようになりたいと決めていました」(牧野)

「Tokyo Noise」会場限定販売の『140731』に収録。


特筆すべきは、着眼点豊かな歌詞とそのメロディとの相互作用だ。

"きっとそれでも、手に付着した汚れを誰かの服で拭って そんな毎日が、実は刺激的な日々になっていたりね"(「△」)

"逃げる言葉は洗濯機であらって衣替えをしよう、そうしよう"(「Tokyo Noise」)

......全部抜き出したいくらいだが、普段の彼がそのまま話しかけるような自然体の歌い方でありながら、サビのメロディに乗って覚醒し、耳に脳裏に言葉が刻まれていく。

「現実的なことしか言いたくない、とは思うんです。日常的なことしか言いたくない。僕が身近で寄り添えたらいいなっていう、まぁそういう感じだし、リスナーにとっても身近に寄り添えるものだったらいい」(牧野)

「必ずしも全部ポジティヴで終わっているわけではないですけど、自分を生きやすくするために音楽を作っている感じ?」と訊くと、「そうですね。ハハハ。そんな感じでもあります」とも、笑って答えてくれた。

「三浦しをんさんや、『時効警察』や『インスタント沼』の映画監督の三木聡さんの、日常のコメディみたいな。ああいう感じが凄い好きなんです。こういう日常の見方あったな、みたいな。案外そういうのって見落とすじゃないですか」(牧野)

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左から、志水、丸谷、牧野、黒瀬、土器。強風の中での撮影だった。Photo:伊藤香織


■ 楽器とともに広がる尽きないアイディア

「今もなんですけど、こういう感じの音楽をやろうと、あまり考えていない。考えるつもりもないんですけど。そこを修正してくれるのが(いつも)ギターの人だったんですよ。(曲を)バンド寄りにしてくれたりとか。今は、彼(土器)の才能が音楽に出ている」(牧野)

確かにAメロ・Bメロ・サビといった規定の枠に当てはまらず、かといってマスロックにもこだわらず、どの曲も予想のつかないワクワク感を持って展開され、聴き終えた時には新たな感情や感覚を心に残してくれる。その自由度の高さもこのバンドの魅力だ。土器が曲構成の全体像と細部を決めて、スタジオで意見を交わしながらまとめていくが、彼の細やかな音選び、エフェクトのこだわりは芸術的と言っていい。なかでもユニークな「Youth=Sleepyhead」はセッション中にみんなからアイディアが出てできたフレーズが多く、女子のコーラスにも遊び心が感じられるナンバー。メンバーもお気に入りといい、今後はセッションから完成する曲も増えそうだ。

「最近面白いと思うのは、いろんな楽器を使っていて、突拍子もないアイディアをやっている人たちとか、おもちゃみたいな楽器をどんどん繰り出してきて多重録音したりとか。トクマルシューゴさんとか小山田圭吾さんがやっている音楽だったり、好きですね」(土器)


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全国で購入可能の『modular』全7曲入り。HPやアートワークはデザイナーである牧野の兄が手掛けている。

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音を楽しむという"音楽"をたっぷり堪能できるLILI LIMITの楽曲は、多様な音楽ファンのアンテナに引っかかると思うが、特にMEWやTEAM ME、シガーロスのヨンシーのソロなど、北欧の音楽が好きな人たちには魅力的に聴こえるはずだ。まだまだ具現化したいことにパフォーマンスが追いついていない部分はあるけれど、数年後には海外で認められそうな、そんな可能性を秘めたバンドだと思う。名前は語呂合わせから生まれたというものの、LIMITなく、このまま伸びていってほしい。

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撮影中の1コマ。バンドを牽引する牧野は今年23歳になった。Photo:伊藤香織


LILI LIMITのHP(ライヴ情報含む)はコチラ
http://lililimit.tumblr.com/

Live Photo:後藤壮太郎

* To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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