『MIETA』から始まる木村カエラの次なるステージ(後編)

デビュー10周年イヤーのイベントをライヴで終了し、プライベートレーベルELAからのアルバム『MIETA』から新たなスタートを切った木村カエラ。後半のインタビューではアルバムに収録した曲を中心に訊いた。
インタビューの前編はこちら≫

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小さい子供から70歳過ぎの方まで来場するほど、人としての魅力も溢れるカエラの世界。《KAELA presents GO!GO! KAELAND 2014-10years anniversary-》10月25日公演より(写真:上飯坂一)

■ 面白いと思わせてくれるもの

―このアルバムをリリースする前に、シングル「OLE!OH!」を最初に出していますが、この曲でアメリカのバンド、POP ETCのクリストファー・チュー(以下、クリス)と一緒にやるようになったきっかけは何だったのですか?

木村カエラ(以下、K):「『ROCK』というコラボカヴァーアルバムを作る時に、プロデューサーの候補の一人として名前があがっていて、クリスの曲を聴いたら、もうどこの国の曲かわからない、ちょっと変わった音作りをしていて、そこに凄くピンと来てやり始めた感じです」

「OLE!OH!」


―「MAKE THIS DREAM REAL」でのスティールパンのサウンドとか、トーンが明るいですよね。私も面白い曲だなと思って。たとえばカエラさんがティム・バートンの映画作品を好きなように、カエラさんを面白いと思わせるものって、どういうものなの?

K:「明るいんだけど、暗さがあるもの。今まで組んできた人たち、たとえばしのっぴ(渡邊忍)の曲には"この人、大丈夫かな?"みたいなダークさがあるじゃないですか。でも人を元気づけようとするパワーも(歌詞のついてない)曲から感じられるくらい凄くある。私は"その人を感じられるもの"だったり、"この人はどんな風に生活してきたんだろう"って思うようなものを作る人にとても興味があるんです。クリスの作る曲には暗さはないと思う。ただ音のチョイスがヘンだったり、音の組み合わせの違和感とかありつつ、めちゃめちゃポップなものを作ってて、今まで会ったことのない人っていう感じがしていますね。自分にない明るさを曲で作ってくれるし、凄くそれが面白いなと思いますね」

―しのっぴさんでいえば「TODAY IS A NEW DAY」のイントロのギターのコード感からしていいですよね。

K:「しのっぴの手癖とか音は彼でしかないから、他の人じゃ弾けないんですよね」

「TODAY IS A NEW DAY」


―撃鉄の森岡義裕さんの曲「RUN」は遊び心もあって楽しめます。

K:「彼のギターは凄い変わってて、変態度が凄い(笑)。それで面白かったから一緒にやりました。アルバムは基本的にポジティヴなものを作っていて、最初はアルバムタイトルを『CLEAR』にしようかと思っていたからクリアなもの、何かが見えてくる感覚、だから勢い走っているものがほしいと思ってたんだけど、飛び道具の曲がほしいと思った時にこの曲があったので入れたんです」

―私はこういう当て字が好きで、歌詞の最後に"LEARN"がきて、もう言うことないと思いました。

K:「アハハ。もう、ワァ〜って言いながら書いてて。ずっとふざけていたみたい」

―「Satisfaction」は?

K:「なんか懐かしい感じ。あとデモテープで作曲者のNomsonさんが歌っているんだけど、革ジャンを着ている感じがすっごいして。ワルな感じっていうのか、男になれる曲だと思った」

―男になれる曲というと?

K:「年々歌っていくと、自分の声が優しくなってくるというか高い声も出るようになって、でも逆に野太い昔の低い声みたいのがあんまり出なくなってきたんですよ」

―たとえば女性ホルモンが関係したり?

K:「わからないけど、何を歌っても軽やかになってきて、カッコ良く歌いたくてもちょっと女の子っぽくなってしまうのが時々残念に思えて。でもこの曲を聴いた時に、革ジャン感と男の人感、歌った時に低い声で歌うのがすごいしっくりきたので、強くいけると思って選びました」

―80'sぽい感じもしました。

K:「そうです。"ニュー・ウェーヴ感を出そう"とアイゴン(會田茂一)さんと話していて。演奏人もその時代をリアルに知っている人にやってもらおうと、恒(恒岡章)くんと高桑 圭(カーリー・ジラフ)さんにお願いしました」

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デビュー前からバンドで歌っていたほど、カエラはロックも大好き。10月25日公演より(写真:上飯坂一)


■ 新たなチャレンジの曲「MIETA」

―不思議な曲でいったら、アルバムタイトルにもなった口ロロの三浦(康嗣)さんの曲。どんなふうに始まったんですか?

K:「10周年のなかで今までやってきたA×S×Eさん、ミトさん、しのっぴとかアイゴンさんがいて、そしてその10周年のなかで新しい人たちともやりたいというのがあって、三浦さんが先ず候補としてあがり、デモテープを作ってもらったんですね。その時点でアルバムタイトル曲を三浦さんの曲にしたいというのを、曲が未だできてもいない時に何となく思っていて。でも上がってきた曲を聴いたら"これ私歌えないよ、壮大すぎる"って、何の歌詞を載せていいのかわからなくって」

―シンフォニックで映画音楽やミュージカルみたいですよね。

K:「そうなんです。三浦さんと話して、"過去にはわからなかったことも今になればわかる。急に何かのきっかけで自分が変わって見えることがある"ということをテーマにしようとは思って。しかも三浦さんに挑戦したいアイディアがあって、『ダダダダ〜という音で1年が過ぎるということを表したい。2回鳴ったら2年経ったことにしたい。時の経過を音で表してそれを効果的に使う実験をしたい』と言ってきて」

―凄いアイディアですね。

K:「そうなんです。ただ歌詞をMIETAに掛けて、恋愛で変化を描くことにすると、"あなたを愛したから私は救われた"的なことで終わってしまうから恋愛のテーマはやめようと思って。元々私が歌ってきた歌詞の内容が、"自分一人のなかでいろいろ乗り越えていかないとならないけど、人は一人じゃ生きていけない。人がいることによって、自分のダメなところやいいところが鏡となって気づかされることがよくある。自分の中で向き合って考え続けていたら世界は狭いけれど、人がいることによって世界はもっと広がる"だったので、その感覚を歌詞に落としたいって思って作っていきました」

―そう聞くと最後に収録した「eye」に繋がりますね。

K:「そうですね、はい」

―どっちの曲の方が先にできたの?

K:「『MIETA』です」

―振り返るという点でいえば、「Wake up」もたぶん繋がるかも。

K:「そうですね」

―このあたりの曲は"前へ前へ"だけではなくて、「MIETA」は"ちょっと立ち止まって鏡になっている"し、「Wake up」や「eye」というのは"振り返ったり、違う見方をしたり"っていう広がりのある曲だと思うんですけど、こういう歌詞を書こうと思ったのは「MIETA」がきっかけになったのですか?

K:「『Wake up』は結構前に書いていて、でも曲を作っていくモードは変わっていないんです。"昔はわからなかったことが今はわかる""昔経験した辛いことも今があり、自分が強く生きていける"という、自分を立ち上がらせる気持だったり、過去を蘇らせるその記憶だったり、そういうのをこの曲で書いていて、『MIETA』に繋がるものを自然と書いていってたんですよね」

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10年間の思いを込めたというタイダイの衣装。10月26日公演より(写真:川田洋司)


■ 夜よりも日射しの似合う曲が増えた

―「Wake up」の歌詞の"連れて行ってくれそうな水色"というのは、色で表現できる木村カエラとしてはどういう世界なんでしょう?

K:「笑。空の青空がホントに好きで。その晴れている感覚って、見ているだけで自分の心も晴れ渡っていくような感じ。その"水色"のきれいさって、自分をそこの気持ちへもっていってくれる色。自分の気持ちがちょっとどんよりしていても、見上げた空に水色が見えてて、"あっ、私もそこに行くわ"って、自分の道が開けるみたいな笑。なんかそういう感覚にさせてくれるっていう空っていうのがありますね」

―以前より、夜より日射しのある時間帯が似合う曲が増えましたね。

K:「そうですね。前は夜でしたね」

―ファンタジーという意味も含めて、夜な感じがしたんですけど。

K:「あ~確かに。そうですね。意識してないけど。今回はあんまり夜っぽいのがないですね。『Satisfaction』は夜だけど、そんなに夜中っていうのを感じない」

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今年の10月で30歳を迎えた木村カエラ。アートもファッションも大好きなため、ヴィジュアルに対するこだわりも強い。


■ 同じことはやりたくない。何かを振り切りたい。

―「c'mon」で、"new age frontier is myself"と歌っていますが、新しいことをやっていこうと意識してやっていることはありますか?

K:「意識してやっているのはないですけど、同じことはやりたくないという感覚はずっとありますね。だからそれが新しいことになっていくんだと思う。私、凄く飽きやすいんですよ、ずっと同じ自分でいられないというか」

―小さい時から好奇心旺盛だったということ?

K:「そうだと思います。好奇心ばっかりで大変だったって、親が言ってました笑。隣にいたと思ったら、興味ある方に走っていってしまうから、すぐ行方不明になっているって」

―ではROCKなマインドとして持っているものは?

K:「どんなことをやってもずっと同じバンドメンバーでやるのは絶対で、いつ何年経ったとしてもライヴハウスで続けたいですね。大きいところも経験してできるようになったけど、私はどっちかというとライヴハウスが好きだから」

―レーベルとしては? これまでも《オンナク祭・オトコク祭》といった男女それぞれ限定したイベントを開催したり、Perfumeを早くから推したり、いろいろやってきたように、誰かをプロデュースする予定などありますか?

K:「いずれですね。どこまでかかわるかわからないけど、結局私が変わっていくのも自分自身をプロデュースしているわけじゃないですか。それに、いろんなものを自分で決めて表現しているから、それを人に向けたらいったいどうなるんだろうなということに凄い興味がありますね」

―ほかには?

K:「絵本を書いてみるとか、アートが好きなので、TVにも出られないような変わったメイクをして、それをアートとして映像に残していく作業とか、ちょっとしたことでもいいから何か自分を楽しめること、で、人が見たら刺激がもらえるものっていうのは何かできたらいいですね。何か振り切りたいんですよ。シングルを出す時も振り切れるんだけど、どこかで皆がちょっとわかりやすいものをやっていて。それはすごく大事なことだと思うけど、もっと奇抜にもう1回なりたい。振り切ると気持いいし、それを求めている人も世の中には絶対にいると思いますし」

―もう時間ですね。一気に喋ってもらってしまいました。ありがとうございました。

K:「途中、隣の部屋から歌声が入ってきたので、負けてらんないなと思って話してました(笑)。ありがとうございました」

*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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