映画『NINE』での歌いっぷり
Music Sketch 2010.03.17
大ヒット映画『シカゴ』を手掛けたロブ・マーシャル監督が、次に手掛けた作品として注目を集めている『NINE』。この作品の誕生までには、フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』(1963年にアカデミー賞受賞)があり、それをミュージカル舞台へと発展させた『NINE』(1982年に初演)......、そして最近までリヴァイヴァル上演などを重ねて進化してきたわけですが、このミュージカル映画『NINE』は、そういった背景を知らなくても十分に楽しめます。誤解を恐れずに大胆に言ってしまえば、ストーリーを気にしなくても、ファッションにイタリアの風情、歌に踊りといったパフォーマンスを観ているだけで、とても堪能することができます。
華やかな映画界を描いたミュージカル映画『NINE』。
映画館に足を運ぶ前にオリジナル・サウンドトラック『NINE』を聴いて予習していってもいいかもしれませんが、私は先に映画を観て圧倒されてから、今はそれぞれのシーンを思い出しながら、自宅で過ごす時間や運転中に何度もCDを聴き直しています。華やかな女優たちの歌を聴いているだけで、ゴージャスな場面の数々が脳裏に甦ってくるのですから、1粒で2度美味しいどころか、贅沢な気分に何度も包まれることができます。
BEPのファーギーも出演しています。
ブラック・アイド・ピーズの紅1点であり、ソロ・アーティストとしても活躍しているファーギー。彼女の歌唱力が素晴らしいのは当然ですが(ステージ上で側宙するほど運動神経も抜群!)、意外な役柄で登場し、インパクトの強いメイクと共に魅了してくれます。
ペネロペ・クロスは、相当練習を積んだのではないでしょうか。
ものすごく歌のうまい、マリオン・コティヤール。
今回、再びアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたペネロペ・クルス(『それでも恋するバルセロナ』で受賞)も鍛え上げた素晴らしいパフォーマンスを披露しますが、最近『パブリック・エネミーズ』でハードな一面を演じていたマリオン・コティヤールは、『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』で主演女優賞を受賞しているだけに、歌唱力が圧倒的。素晴らしい! ニコール・キッドマンに関しては言うまでもなく、「どうしてもこの映画に出演したかった」と語っていたケイト・ハドソンの熱演、そしてジュディ・デンチの歌いっぷりにも魅せられました。ソフィア・ローレンは、75歳とは信じられないほど、美し過ぎます!
ケイト・ハドソンはこの役を演じ、とても得した気がします。
貫禄のソフィア・ローレン。美し過ぎます。
主演のダニエル・デイ=ルイスもステキなのですが、まぁ役柄が役柄だけに線の細さが出てしまい(それだけ演技が達者ということですね)、とにかく女優陣の本気度120%の歌と踊り、そして群舞を含めた贅を尽くした衣装は何度見ても飽きることがありません。そして、私は主人公グイド・コンティーニの愛車アルファロメオのオープンカーが、色といいデザインといい、あまりにキュートなので、気になって仕方ありませんでした。
サントラ『NINE』。しっかり楽しめる充実の内容です。
試写会でいただいた資料に、作詞・作曲を手掛けたモーリー・イェストンの言葉が掲載されていたので、一部引用しますね。『VOGUE』誌の記者ステファニー役を演じ、「Cinema Italiano」を歌ったケイト・ハドソンに向けてのコメントです。
「ケイトは華やかな歌声の持ち主であり、素晴らしいダンサーだ。そこで彼女にはダンスも歌も贅沢で、さらにアップテンポな1曲をパフォーマンスしてほしいと思ったんだよ。この曲はあからさまに観客にアピールするような1曲にならず、いい曲に仕上がった。つまり1965年当時、イタリア映画がニューウェイヴをもたらして映画界で頂点を極めていたのかを、観客にウィットと楽しさを交えながら伝えることができる1曲になったということだ。さらにイタリア映画が新たな映画スタイルだけでなく、新たなファッションスタイルを世界にもたらしたことも表現できたよ。細いネクタイにスピーディなスポーツカーというスタイルが世界中の人を夢中にさせたということもね。ケイトはそれらすべてを実に見事に実現してくれているよ」
桜開花の華やかなこの時期に、ファッショナブルなイタリアン・テイストのミュージカル映画『NINE』を楽しんでみてはいかがでしょう。
3月19日(金)より 丸の内ピカデリー1 他 全国ロードショー
公式サイト:http://nine-9.jp/
角川映画、松竹
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*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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