P!NKライヴ@シドニー・エンタテインメント・センター
Music Sketch 2009.07.23
海外と日本で最も温度差のある女性シンガーといえば、P!NK(ピンク)でしょう。4年くらい前まで、特にアメリカの女性アーティストに取材すると、尊敬するアーティストとしてグウェン・ステファニーの名前が最も挙がっていたけれど(マドンナは別格)、ここ数年は必ずといってP!NKの名前が挙がります。
圧倒的な歌唱力は当然のこと、自分の人生を赤裸々に作品に表現し、そのうえ、セレブと呼ばれる女性たちを歌の中でたっぷり皮肉ったり、ブッシュ元大統領には「ディア・Mr.プレジデント」という歌で公開書簡を送ったりと、シニカルかつメッセージ性の強い歌は各方面から注目されてきました。自分らしく生きることの大切さを、歌詞や歌からは当然のこと、ファッションなどオリジナルのスタイルを貫くことで身をもって示し、この他、早くから動物愛護運動やホームレスの支援など社会的な問題にも取り組んできていました。
そして、昨年発表した『ファンハウス』のワールド・ツアーが今年2月にフランスのニースからスタート。現在、全10カ国115公演と、総動員数は130万人を超える大規模なアリーナ・クラスのワールドツアーが行われているのですが、日本に来る兆しがないのでオーストラリアへ見に行ってきました。P!NKはオーストラリアでは特に異常な人気で、5月後半から8月末まで52公演も行われるのです。私が行ったシドニー・エンタテイメント・センターだけでも10公演ですからね。
私が行った7月17日は、ちょうどDVD撮影の日とあり、また復縁したP!NKの夫ケアリー・ハートのバースデーとあって、盛り上がること必至。オープニングアクトのEVERMOREの演奏後にMCが登場し、「今日はDVDのシューティング用にカメラを24台入れていて、今日集まった2万人のお客さんを全員撮影するから、みんな盛り上がってくれよ~!」と煽るし、アリーナはスタンディングとあって、バトルフィールドと化していました。
小型のデジカメながら、撮影してきたので、ざっと公開しますね。
オピニオン・リーダーとして支持されているように、グイグイと荒削りながらどこまでも突進していく部分と、非常にナイーヴな一面をピアノとヴァイオリンの演奏に合わせたバラードで見せる部分など、そのバランスも見事でした。ミュージシャンにはアジア系の女子(サイド・ギター&キーボード)をはじめ、ベースとヴァイオリンに2人の女性を交え、ダンサーも含め男女比も良かったし、そして1人のシンガーがここまでやるの?と驚くほどのパフォーマンスぶり。パートナーのケアリー・ハートがそれこそアクロバティックなモロクロス・ライダーということにも十二分に刺激されているのでしょうが、危険な演技なのに全く命綱を付けないし、ずっと歌い続けるし、とんでもないプロ根性だと思いました。
一緒に行ったオーストラリア人の友人は、行く前は「そんなに好きじゃないけど」と言っていたのに、見た直後から熱狂的なファンと化し、毎日会う人に「素晴らしいライヴ!」と話し、P!NKの歌を連日歌っていたほど。エンターテインメントとしても楽しめるショウなので、リピーターが増えて、ロングラン公演になっているのでしょう。また、オーストラリア出身のAC/DCの曲やディヴァイナルズの名曲「アイ・タッチ・マイセルフ」を取り上げているのも、オーストラリア人を熱狂させている一因になっていると思います。実際、アリーナは若者やキメキメのファッションで来場した熱狂的ファンばかりでしたが、スタンド席には50代過ぎの世代がかなり座っていたように感じました。
シルク・ド・ソレイユに影響されたシンガーとしては、サラ・ブライトマン、ラスベガスでのショウを大成功させたセリーヌ・ディオンが有名ですが、まさかP!NKがここまでやってしまうとは!そして、これだけのステージセットだったら、日本で見れないのは仕方がないのかも、と、残念に思ったり......。おそらく年内にはこの日の公演模様を収めたDVDが発売されると思うので、ぜひ楽しみにしていてください。P!NK、すでにグラミー賞を2度受賞していたり、ニール・ヤングなどからもそのメッセージ性ある歌が高く評価されていますが、このツアーで名実ともにビッグスターの仲間入りを果たしましたね。
*to be continued
音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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