P!NKライヴ@シドニー・エンタテインメント・センター

海外と日本で最も温度差のある女性シンガーといえば、P!NK(ピンク)でしょう。4年くらい前まで、特にアメリカの女性アーティストに取材すると、尊敬するアーティストとしてグウェン・ステファニーの名前が最も挙がっていたけれど(マドンナは別格)、ここ数年は必ずといってP!NKの名前が挙がります。

圧倒的な歌唱力は当然のこと、自分の人生を赤裸々に作品に表現し、そのうえ、セレブと呼ばれる女性たちを歌の中でたっぷり皮肉ったり、ブッシュ元大統領には「ディア・Mr.プレジデント」という歌で公開書簡を送ったりと、シニカルかつメッセージ性の強い歌は各方面から注目されてきました。自分らしく生きることの大切さを、歌詞や歌からは当然のこと、ファッションなどオリジナルのスタイルを貫くことで身をもって示し、この他、早くから動物愛護運動やホームレスの支援など社会的な問題にも取り組んできていました。

そして、昨年発表した『ファンハウス』のワールド・ツアーが今年2月にフランスのニースからスタート。現在、全10カ国115公演と、総動員数は130万人を超える大規模なアリーナ・クラスのワールドツアーが行われているのですが、日本に来る兆しがないのでオーストラリアへ見に行ってきました。P!NKはオーストラリアでは特に異常な人気で、5月後半から8月末まで52公演も行われるのです。私が行ったシドニー・エンタテイメント・センターだけでも10公演ですからね。

私が行った7月17日は、ちょうどDVD撮影の日とあり、また復縁したP!NKの夫ケアリー・ハートのバースデーとあって、盛り上がること必至。オープニングアクトのEVERMOREの演奏後にMCが登場し、「今日はDVDのシューティング用にカメラを24台入れていて、今日集まった2万人のお客さんを全員撮影するから、みんな盛り上がってくれよ~!」と煽るし、アリーナはスタンディングとあって、バトルフィールドと化していました。

小型のデジカメながら、撮影してきたので、ざっと公開しますね。

ito_a.jpgAC/DCの「ハイウェイ・トゥ・ヘル」の音楽をBGMにして、P!NKが家に火を点けてからバイクに乗って荒野に飛び出していく映像がスタート。会場にせり出した花道の中央からサーカスのように紐に吊り上げられてP!NKが登場。

ito_b.jpg1曲目の「バッド・インフルエンス」から熱唱。

ito_c.jpg「フー・ニュウ」「ドント・レット・ミー・ゲット・ミー」などの過去のヒット曲を前半に。

ito_d.jpgよく見るととってもセクシーな衣装です。

ito_e.jpgP!NKやダンサーの黒手袋にライトが埋め込まれていて、とてもキレイ。このアイディアは今後も活かされそう。

ito_g.jpg前半で早くも盛り上がった大ヒット曲「ソー・ホワット」。当時別れていたケアリー・ハートがPVに登場したことでもウケていたこの曲、実際に男性ダンサーの服を脱がして、女子たちでコテンパンに枕で叩きまくり、会場いっぱいに羽毛が舞い上がりました。

ito_i.jpg中盤はアコースティックも。このTシャツもセクシー度満点。

ito_k.jpgステージは幻想的になり、一瞬バレエからアクロバットな展開に。

ito_m.jpg目隠しされたまま、空中ブランコへと引き上げられるP!NK。

ito_p.jpg空中曲芸師であるセバスチャン・ステラのサポートの下、命綱なしに空中ブランコに挑戦し、しかもずっと歌い続けるP!NK。 

ito_q.jpgクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」やナールズ・バークレイの「クレイジー」のカヴァーを熱唱。

ito_u.jpgファンハウス・ツアーにふさわしい、終盤の盛り上がり。サーカスのようであり、カーニバルのようであり、今回のアルバムのコンセプト"人生=ファンハウス"そのものの人生の悲喜こもごもをたっぷりと表現。時には鏡に映る自分を覗き込むなど、P!NK自身もこのメタファーをタップリ楽しんでみせます。

ito_z.jpg「ゲット・ザ・パーティ・スターテッド」で盛り上がる中、もうシルク・ド・ソレイユとしか思えないアクロバティックなパフォーマンスに挑戦するP!NK。何があっても歌い続ける根性もすごいと思いました。

ito_z4.jpgアンコール前に、夫ケアリーの生誕からモトクロス選手として活躍する現在までの写真をスクリーンに映して、彼のバースデーを祝い、最後はアルバムでも最後に収められていた「グリッター・イン・ジ・エア」で終演。シルク・ド・ソレイユでお馴染みの布を使った空中芸で魅了します。

ito_z5.jpg一度、身体を水(お湯)に浸して、そのしずくをライティングに反射させるなど、どこまでも細やかな見せ方で芸術度を高めていきます。

ito_z6.jpgまるで夜空にP!NKが吸い込まれていくような、非常に美しいエンディングでした。

オピニオン・リーダーとして支持されているように、グイグイと荒削りながらどこまでも突進していく部分と、非常にナイーヴな一面をピアノとヴァイオリンの演奏に合わせたバラードで見せる部分など、そのバランスも見事でした。ミュージシャンにはアジア系の女子(サイド・ギター&キーボード)をはじめ、ベースとヴァイオリンに2人の女性を交え、ダンサーも含め男女比も良かったし、そして1人のシンガーがここまでやるの?と驚くほどのパフォーマンスぶり。パートナーのケアリー・ハートがそれこそアクロバティックなモロクロス・ライダーということにも十二分に刺激されているのでしょうが、危険な演技なのに全く命綱を付けないし、ずっと歌い続けるし、とんでもないプロ根性だと思いました。

一緒に行ったオーストラリア人の友人は、行く前は「そんなに好きじゃないけど」と言っていたのに、見た直後から熱狂的なファンと化し、毎日会う人に「素晴らしいライヴ!」と話し、P!NKの歌を連日歌っていたほど。エンターテインメントとしても楽しめるショウなので、リピーターが増えて、ロングラン公演になっているのでしょう。また、オーストラリア出身のAC/DCの曲やディヴァイナルズの名曲「アイ・タッチ・マイセルフ」を取り上げているのも、オーストラリア人を熱狂させている一因になっていると思います。実際、アリーナは若者やキメキメのファッションで来場した熱狂的ファンばかりでしたが、スタンド席には50代過ぎの世代がかなり座っていたように感じました。

シルク・ド・ソレイユに影響されたシンガーとしては、サラ・ブライトマン、ラスベガスでのショウを大成功させたセリーヌ・ディオンが有名ですが、まさかP!NKがここまでやってしまうとは!そして、これだけのステージセットだったら、日本で見れないのは仕方がないのかも、と、残念に思ったり......。おそらく年内にはこの日の公演模様を収めたDVDが発売されると思うので、ぜひ楽しみにしていてください。P!NK、すでにグラミー賞を2度受賞していたり、ニール・ヤングなどからもそのメッセージ性ある歌が高く評価されていますが、このツアーで名実ともにビッグスターの仲間入りを果たしましたね。

*to be continued

ito_jaket.jpgP!NK『ファンハウス』

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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