ベン・クウェラー インタビュー③
Music Sketch 2012.06.19
ポップ・ミュージックにこだわりつづけるシンガー・ソングライターのベン・クウェラーに、引き続き曲作りについて聞いてみました。
------歌詞の話を続けると、先日取材したフローレンス&ザ・マシーンのフローレンス・ウェルチの話をすれば、彼女は歌詞を無意識の中で書いていて、"気がつくとヴァースが疑問になっていて、サビの部分で回答しているという自問自答形式になっている"と言うんですね。ベンの場合はポジティブな方向に向かって歌詞が出てくるの?
「どうだろう・・・。曲を書いた時は何について書いたかわからないんだけど、6カ月くらい経ってから、"Oh No!!! この曲は自分の未来のことを歌っていたんだ!!!"って不思議に思うことがあるんだ。僕も無意識の中で書いているから、だから曲はある意味、僕にとっては夢のようなものなんだ。とっても不思議だよね」
2月に東名阪でジャパン・ツアーを実施。みんなでワイワイ楽しむような温かい雰囲気でした。写真は2月25日@下北沢GARDENでの模様。LIVE PHOTO:Kazumichi Kokei
------音楽的に良い音(響き)で終わりたいように、歌詞についても良い方向で終わりたいと決めています?
「そうだね。全部が良いコードで終わっているとは思わないけど、90%は終わっていて、バランスは取れていると思う。歌詞と合わせてね。悲しい曲でも、最初の半分は"悲しい"と歌っていても、後半は"大変だったね〜、でもこれからは大丈夫だよ"、"トンネルを抜けたら明かりが見えるよ"、という終わり方にしたいというのはある」
------では、自分の中でポップ・ミュージックのツボというと、何だと思います?
「良い質問だね。よく聞いてくれたね(笑)。僕の前のアルバム『Changing Horses』は、まさにポップだと思うし、僕のカントリー・ナンバーである『FIGHT』みたいな曲はポップだと思うんだけど、"ポップ"はジャンルじゃないんだよね。音楽の歴史でいえば、もちろんポップと言うのは、"ポピュラー=人気のある音楽ということ"という歴史的なネーミングがあるんだけど、いわゆるジャンルでいうポップの音楽の中で人気がないものもあるよね」
------確かに、そうですよね。
「僕にとってのポップ・ミュージックというのは、ポップ・アートみたいなもので、"POW!!!"みたいに瞬間にパンチされたインパクトのあるものと一緒だと思っている。だからポップ・ミュージックとは、印象に残るもので、キャッチーで、良いフックがあって、惹き付ける力のある曲であって、曲が終わってからも歌を覚えていて未だ歌えるような、そんな要素を持っている曲がポップだと思う。ただ、音楽の中にも大好きなソニック・ユースとか、モグワイとか、ポップとはいえない違う感じのものがあるけど、それらも素晴らしい音楽であることには間違いないよ。だからポップと言うのは、最初から人の注目をゲットできて、終わってからも忘れないものがそうだと思う」
------なるほど、明解な意見ですね。では、"ベン・クウェラー音楽賞"として賞を挙げたいポップな曲というと、どんな曲になりますか?
「それもいい質問だね(笑)。考えるのは楽しいけど、たくさんあるから難しいよね。『スタンド・バイ・ミー』は最初からキャッチーだよね。あとはヴァン・モリソンの『ブラウン・アイド・ガール』とかね。トム・ペティーにもそういう曲がかなりあるよね」
知らなかった曲でも、1番を聴いたら、2番から一緒に歌えるようなキャッチーなメロディーが特徴。LIVE PHOTO:Kazumichi Kokei
------だとしたら、「ジェラス・ガール」も、サビの部分とか一度聴いたら忘れないものを意識して作ったのですか?
「そうだよ。この曲はとてもポップだよね(自信満々な表情で)。僕はADD(注意力欠陥障害)だから、自分が集中できるようなメロディーでないと、自分が飽きてしまうんだ(笑)」
ポップであることにこだわりを強く持っているだけに、"ポップ"に関して熱く語ってくれたベン・クウェラー。そしてアヴリル・ラヴィーンをはじめ、ミュージシャンにADDである人は少なくないのですが、だからこそインパクトの強いキャッチーな曲を作るのに適しているというベンの考え方にも、なるほど、と、うなずいてしまいました。
会話が弾んだので、最後に雑談も掲載しますね。
*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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