虚弱。というガールズバンドが凄い!①

虚弱。というバンドが面白い。女子4人によるインストゥルメンタル・バンド(歌がなくて演奏のみ)というだけでも珍しいが、ひとつの楽曲の中に5拍子や8分の6拍子、7拍子といったリズムを織り交ぜながらも、主軸となるメロディがキャッチーなために聴きやすく、その変拍子が全くといって気にならない。かといって、ふた昔前に流行ったニューエイジ系の音楽とはほど遠く、根底にあるのはロックであり、しかも予測不可能な展開で、キーボードが奏でる優美さとは対照的に、リズム隊やギターが爆音で一気に畳み掛けてくるハードな面も持ち合わせる。


1曲にいろいろな要素が詰め込まれていて、しかもちょっとしたフレーズにも情感が籠っていて、曲全体を聴いていても、各楽器の演奏を追いかけていても飽きないのだ。それぞれがメロディを歌っていると言ってもいいし、聴くたびに新しい感情に出逢えるといっても過言ではない。ましてライヴは4人の楽器演奏から生まれるケミストリーが毎回違うので、それが面白くてたまらない。今年だけでも9回はライヴ会場に足を運んでいる。


音楽的にはポストロックや、その変拍子やコード進行といった点からマスロック(数学の意であるmathematicsなロック)として括られることもあるそうだが、本人たちは全くそんなことは意に介していないと思う。


FIGARO145A.jpeg(左から)新井深雪、壷内佳奈、まにょ、海野稀美。ベレー帽と額縁は、アルバムタイトルの『孤高の画壇』にちなんで。Photo : 今井美奈


メンバー全員が平成生まれであり、好きで聴いてきたミュージシャンとして名前が挙がるのは日本人ばかり。かつての変拍子の代名詞ともいえる、プログレッシヴ・ロックやジャズ・フュージョンなどとも当然無縁だ。なかには普段はインストゥルメンタル系を全く聴かなかったり、ゲーム音楽が好きというメンバーもいるほど。4人のキャラもバラバラで、普通ガールズバンド(最近はギャルバンとも呼ぶ)は"クラスの仲良し4人組"のような雰囲気が漂うが、虚弱。の場合もちろん接点はあれど、きっと同じクラスだったらバラバラな立ち位置であることを想起させる。


結成の中心人物である壷内佳奈(ギター)は高校の軽音部に入った時に、それまでピアノを習っていた経験からキーボードを担当したかったものの、ギタリストが足りなかったことからギターを始めることに。最初のバンドではELLEGARDENやASIAN KUNG-FU GENERATIONをコピーしていたが、次第にバンド内でやりたい音楽性が分かれ、「虚弱。」を結成。一時はヴォーカル兼ギターを担当していたが、次第に凛として時雨などやNUMBER GIRL、ZAZEN BOYSなどコピーしつつ、インストのオリジナルを作るようになった。


海野稀美(ピアノ、シンセサイザー、グロッケンシュピール他)は3歳からピアノを習い、軽音部に入った頃はL'Arc〜en〜Cielや、ヴィジュアル系で人気のJanne Da Arcのコピーをやり、一方でモーニング娘。といったアイドル系も聴いてきた。1年生の終わりに、3年生だった壷内のバンドに誘われ、虚弱。に参加している。


虚弱。のライヴを見て気に入り、自ら加入希望した新井深雪(ベース)。高校3年の時に友人に頼まれてベースをはじめ、日本のバンドを好んで聴いていたものの、初心者ながらオリジナル曲を演奏していたそう。「ピアノは弾いていましたが、ベースは弾いたこともないから、コピーをやったことが無くて。だからはじめからオリジナルでやっていました。フレーズを作る時もコードからとりあえずルートの音だけ拾って、そこから合いそうな他の音を探して、良さそうなメロディにして、っていう感じで作っていました」


まにょ(ドラムス)は、小学校ではマーチングバンドで3年間パーカッションを叩いていたものの、本格的にやるようになったのは高校の軽音部に入部してから。しかも「爪が長くても演奏できるから」というのが選んだ動機だ。一番好きなバンドは高校の頃からtoeだが、聴いている音楽はメンバーの中で特に幅広い。


このように2008年に結成された虚弱。は、幾度かのメンバーチェンジを経て、2009年から新井さんとまにょさんを加えたこの顔ぶれで活動している。ギターにしてもベースにしても、楽器が上達する以前の早い段階からオリジナルを演奏していたために、型にはまらない独創性が強いのだと思う。


FIGARO145B.jpegライヴは変拍子に身体を躍らせるファンから、立ち尽くすように聴き入るファンまで、さまざま。Photo:長谷川怜実


インストの魅力について、最初に曲のフレーズを考えてくるという壷内さんは次のように話す。


壷内「私は解釈が無限にあると思っています。具体的な歌詞があるとイメージが固定されてしまうけれど、私たちの曲ではしっかりかっちり定義をしているわけではないので、その点この曲はどういう気持ちが籠っているのかとか、この曲の流れの変化からシーンとか風景とか、リスナーそれぞれが自由に想像を膨らませて考えなどを補完して聴くことができるのかなって思っています」


新井さんは演奏する側として、こう話す。


新井「歌ものバンドをやっていたこともあるんですけど、ベースという楽器の性質上、どうしても(前に出るのではなく後ろに)引かなきゃいけないと思って。"そう弾くと歌と(ぶつかって)喧嘩するから良くない"と言われたりして。でも、そうすると演奏していてつまらなかったし、それがベースという楽器が地味だと言われる理由だなって思ったり。でもこのバンドだと別に何をしてもいいし、みんながどう出るかだけのバランスだけ考えればいいじゃないですか。ここどうしても出たいっていう時に引いてくれるし、うまいことバランスが取れるんですよね」


次回は、虚弱。が、今年3月に発売したデビューアルバム『孤高の画壇』について説明を。


虚弱。のHP→http://kyojaku.com/
最新ライヴは 7月11日(水)渋谷WWW START 19:30

*To be continued


音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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