虚弱。というガールズバンドが凄い!②

自主制作盤を既に2枚制作し、共に500枚を完売(多くはライヴ会場で販売)というインディーズ界でも知られた存在だった虚弱。は、メンバー間で費用を捻出して自分たちの資金でファーストアルバム『孤高の画壇』を完成させた。


ただ、私が最初に買った自主制作盤2nd demo『donguribouya』(5曲入り/廃盤)からは、ざっくりながらライヴでのダイナミズムを体感できたので、最初に『孤高の画壇』を聴いた時は音質含め全体に綺麗に音をまとめた感が強く、とても戸惑った。前回も書いたように、それぞれのパートのフレーズを聴いているだけでも楽しめるほど主張のある演奏が絶妙に混ざり合って成立している音楽ゆえ、音量や音圧のバランスが違ってくるだけで曲の聴こえ方が驚くほど違ってくるからだ。でも、これはリスナーの感受性を試されているのかもしれないと、最近思うようになってきた。


120710kokounogadan.jpg虚弱。のデビューアルバム『孤高の画壇』。アートワークは『心の悲しみ』『神の子供』などで知られる、西岡 兄妹に依頼。

『孤高の画壇』というアルバムタイトルについて説明してもらった。


まにょ「壷内が結構ノリで出してきたんだけど、"あっ、いいね!"ってみんなでなって。曲作りに関して絵を描いているイメージをすごく大切にしてきていて、それこそ曲にも『網膜における抽象画』とか絵にちなんだタイトルがあったので、"やっぱり画壇っていうのがいいね"ってなって。あとは最初に壷内から『孤高の画壇』って聞いた時に、私はすごいゴッホを連想したんですよ。なんか自分の信じていることをひたすら信じて・・・」


壷内「ゴッホは他の画家たちの集まりに呼ばれなくて、ある種、孤高の存在で。それを苦に自殺しちゃって」


まにょ「自殺しちゃったんですけど、最終的には認められたじゃないですか。自分で言うのもなんだけど(笑)、この年齢のガールズバンドでインストをやっているっていうこと自体が孤高だと思っていて、他と違うから良い面もあるけど、企画イベントとかで浮いてしまうような違う面でのデメリットもあって。でも自分たちのやりたいことを信じてやってきたら、ゴッホみたいにいつかは報われるんじゃないかみたいな。死にたくはないけど(笑)」


kyojaku. / tetsugakusya no ronpa 虚弱。- 哲学者の論破 from Kobayashi Daisuke on Vimeo.

デビューアルバム『孤高の画壇』のオープニングを飾る「哲学者の論破」。ライヴでも盛り上がる1曲。PVも好きですが、音だけ聴いてみることをまずはオススメ。


「哲学者の論破」というタイトルについて。


壷内「すごく難しい感じのタイトルをつけたいなって思っていて、その曲自体が速い、(曲を書いた)高校の時はもっと速い曲で畳み掛けるような、哲学者がバーッと喋っているような印象があったので、難しい響きと、あとそのイメージっていうので哲学者が論破しているから『哲学者の論破』にしました」

アルバムには自主制作盤に収録されていて人気の高い「網膜における抽象画」「nennen」の2曲が新たにリアレンジされて収録されているが、当然新曲も多い。


曲を作っていく手法はそれぞれだが、基本、壷内さんがフレーズを完成させ、スタジオでバンドが形作り、そこからまた壷内さんが続きを考え、またみんなで足していくという。スムーズにできるものもあれば、(言葉では説明し難い)"虚弱。らしさ"を追求するあまり、非常に時間が掛かってしまうものもあるという。


210J8151.jpgこちらも画壇を意識したアーティスト写真。(上から時計回りに)壷内佳奈、海野稀美、新井深雪、まにょ。PHOTO:今井美奈


「コスモナウト」は、アニメ『秒速5センチメートル』の中で宇宙に関連している回「コスモナウト」があり、そのなかでのロケットが打ち上げられるシーンのイメージで制作。キャッチーさを意識し、同じフレーズが繰り返されて耳に馴染みやすいようにと考えられた。最後は宇宙に旅立っていくなかで、"さようなら、孤高の画家たちよ"という意味のモールス信号を入れている凝りようだ。


「terra」は東関東大震災のことも含め、それ以前からメンバーに家族や友人が亡くなるなど不幸が続いた頃に、作るべくして生まれた楽曲。タイトルにもなったモチーフは、漫画『地球へ...(テラへ)』(竹宮惠子作)から。


まにょ「この今の感情をどうにか良い方向に動かしたいねって、前半部分を作ったんですけど、全体の構成は壷内から聞いてて、"最初はすごく暗いイメージだけど、後半は前を向く方向でいきたい"みたいな。歩いていくイメージでドラムも4つ打ちだったりとかして」


壷内「地球に帰るぞ、的な。いろいろ辛いことがあって、それを全部含んでいる、森羅万象というか、地震もそうだし大地とか・・・」


まにょ「個人個人でみたらすごく大事だけど、でもあるべき流れというか、そういう物の一部だったんだなって思うことで、前を向けるというか。ありがちだけど、自分の悩みごとに関しては地球単位で考えたら"ちっぽけだな"みたいな感じになれるし、自分以外にも辛い思いをしている人はたくさんいるし、それこそ地震だったら地元の人たちは私たちよりももっと辛い環境にいると思うと、やっぱり、じゃあ頑張らなきゃなっていう気持ちになれる。だから視野を広げよう、みたいな感じかな」


新井「私は違ったな。もう本当に何もしたくない状態になって、ちょうど落込むことがあった時にこの曲を作り始めたんですけど、余計になんか、"いやもう無理"みたいなのはあって。でも、作っていくことでみんなが同じ方向を向いているだけあって、イメージがはっきりしていた。私はギターのアルペジオにベースをつけるっていう、いつもとやっていることは変わらなくても、そこにひとつの"悲しい"みたいなフィルターがあるから、余計にスムーズだったんですよね。ベースをつけて、"馴染むなあ" "気持ちがいいな"ってなっていくうちに、だんだん大丈夫になってきた、というか。もう全部のパートがすごく綺麗にハマっていると思っていますね」


まにょ「今まで皆で共有して作っていた感情とは比にならないぐらいその時の心に秘めていた感情が大きかったし、この曲は本当に大切に作らなきゃダメだと思って、フィルも1つとして同じものがなくて、コピーしにくいように凝って作りました」


一緒にライヴを見に行ったラジオ番組の制作ディレクターが、「この年齢なのに、よくここまで深みのある曲を作れるよね。よっぽど何か背負ってきたものがあるのかなぁ」と話していたが、深く感じ取ったものを複雑な構成という表現方法に委ねるのではなく、個々の想いを昇華して音とビートに託し、互いに会話し、ひとつの音楽にまとめあげていく、この努力と才能は素晴らしいと思う。


次回も引き続き、虚弱。のユニークな曲作りについて。


虚弱。のHP→ http://kyojaku.com/
最新ライヴは 7月11日(水)渋谷WWW→ http://www-shibuya.jp/index.html
START19時30分 前売り券2,500円、当日券3,000円(共にドリンク代別)


*To be continued


音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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