トミー・ゲレロ 来日インタビュー 前編
Music Sketch 2012.11.05
以前にもご紹介したことのある日本でも人気の高いトミー・ゲレロが、10月にコンサート来日した。9月末にリリースした最新アルバム『no mans land』でもほとんどの楽器を自分で演奏し、レコーディングをしているものの、アルバムタイトルから想像できるように今までで一番内省的な作品になっている。
最新アルバム『no mans land』。曲名は西部劇の映画のタイトルをもじったものが多いそう。デザインはデイヴ・キンジー(http://www.kinseyvisual.com/)。
「このアルバムを制作したのは、自分の人生の中でとても辛い時期だった。一番最初に『phantom rider』という曲を書いて、それがアルバムのトーンを決めたんだけど、それがダークな曲だったんだよね。だから、もうちょっと別な方向にしようかと思ったんだけど、そうすることは自分には自然なことではなくて、だから感じるままに制作していったんだ。でも、完成して聴き直してもみても、相当ダークだなと思ったよ(笑)」
このアルバムはどこか西部劇のサウンドトラック的な雰囲気を醸し出しているが、それはトミーが買ったまま放ったらかしにしておいた60年代のGibson Falconというギターアンプのせいらしい。ある日、そのアンプ大音量を出して使ってみたところ、ユニークなサウンドが出ることに気づき、リヴァーブやディレイ、トレモロを効かせたギターのフレーズを何気に奏でていたら西部劇っぽい音になっていたので、その音色を活かして制作していったそうだ。
「もちろん西部劇は好きさ。僕はクリント・イーストウッドが出ている映画がとても好きで、子供の頃からよく観ていたんだよね。西部劇には必ず善人と悪党とがいて戦っている。そしてクリント・イーストウッドは正しい理由で悪党を殺しているけど、それでも人殺しには変わりないよね。僕はそういう二面性が、人間的で好きなんだ。黒か白かではなくて、グレーなエリアがある部分に惹かれるというかね。映画音楽という意味でいえば、西部劇は映画音楽によって映画のムードが作られている。特にマカロニ・ウエスタンのサウンドトラックのギターのトーンが好きで、そこから生まれる独特な空間に浸っているのは最高だね。マカロニ・ウエスタン以外に音楽のジャンルまで創り出した映画のジャンルって、他にないんじゃないか?」
今回のジャパン・ツアーをまとめた映像。曲は「phantom rider」。
「情景をイメージして曲を作っているわけではないけど、演奏しながら情景が浮かぶことはある」と、話すトミー。確かにトミー・ゲレロの音楽を聴いていると広大な荒野や砂漠が目に浮かぶ。ライヴでは、自らライヴの演奏中に後ろで流す映像を自分で集め、編集してもらったものを流していた。それらは全てモノクロの映像で、やはり西部劇を想起させるような内容。ステージ衣装も黒、ギターも黒にするなど、ライヴでの見せ方も統一していたほどだ。
かつてはプロのスケートーボーダーとしても活躍し、アメリカ西海岸を中心にサブカルチャー界からも高い評価を受けている。Photo: Tetsuro Sato
そして、このアルバムで象徴的なのは、曲自体がとてもシンプルに作られていて、音楽の中に空間がたっぷりと感じられること。それはステージでも同じで、音で楽曲を埋め尽くすことなく、何かがそこに息づいているかのようにして音楽が進行していく。ライヴでは後半になるに従ってグルーヴ感が増していき、トミーの音楽の中で泳いでいるかのような錯覚に陥るほどだった。
「空間のある音楽が好きなんだ。楽器に呼吸をさせるスペースを与えないようなギュウギュウに音を埋め込んだ音楽は好きではなくて、僕は自分の言いたいことを吐き出させるようなスペースのある音楽が好き。本当だったら音を出して長い呼吸をしているくらいのことがしたいけど、アルバムと違ってステージだと難しい。特に日本の観客は、お喋りなアメリカ人と違って、とても静かに演奏に集中してくれる。だからずっとこれをやっていたら、観客はこれを興味深く思うよりも退屈しちゃうんじゃないか心配だから、そこのバランスを取るのが凄く難しいね」
今年の朝霧JAMでも大人気だったトミー・ゲレロ。Photo: Fumitaka Takayama
とはいえ、ライヴ人気の高いトミーだけに、全国津々浦々を回ったジャパン・ツアーは今回も大好評だった様子。
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
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