おおはた雄一 『ストレンジ・フルーツ』を語る ②
Music Sketch 2012.11.16
前回はこちら。
引き続き、最新アルバムについて曲作りを中心にインタビュー。
----今回のアルバム『ストレンジ・フルーツ』が、歌詞の魅力はもちろん、演奏に関してはここまで自由なのは、これまでのフットワークの良さを含めて、多彩なコラボの中での自分磨きがあったのでしょうか?
「あったですね。"自分磨き"、いい言葉ですね」
----でも正直言って、成長というよりも、違うところへポーンと飛翔してしまった気がするんですよね。
「昔から見ていただいている人に、そういってもらえると有り難いですね」
時折、言葉を探しながらインタビューに答えるおおはた雄一さん。
----この変化の背景には何があったのでしょう。音楽に対する姿勢が変わった? 後で伺いますが、ステージに対する姿勢が変わったのと同じで、曲作りが凄くラクになってきたのでは?
「ラクになってきたのは1つあるかもしれないです。今回、20曲以上も曲を作ったから。いつまでに作らなくてはならないという〆切がなかったし、制作費も自分も出してみようとか、自分で意識的に向き合ったし、ここまで自由気侭なのも初めてで、楽しかったですね。『ストレンジ・フルーツ』をレコーディングしている時に自分で感動したのを覚えていますもん(笑)。芳垣さんと伊賀さんの演奏を聴きながら歌ってて、ゾクッとして、レコーディングの後半は満たされている感じ、"この時間いいなぁ"と思いながら、アウトロをやっていました。すっごい覚えていますね」
----マネジメントであるトロピカルの自主レーベルになったため、規制がなく、アイディアを自由に出せたことも要因ですか?
「それもありましたね。あとはスーパーマリオの時はお金がなくてミュージシャンを雇えなかったから、自分で全部やってみようと思って、やったんですよ。NYでやったパーカッションのダビングとか覚えていたし、あんな感じでやってみようかなと思ってやったのが流れで、自分で重ねることを覚えてきたし、人の作品をプロデュースする中でレコーディングに関してもわかった部分が多いし、とにかく自分磨き(笑)。この2年半の間にいろんなことをしたので、それが全部ここに出ている気がしますね。ハナレグミ、坂本美雨ちゃん、持田香織さんとツアーをやったり、ああいう結果、いろんなことをやっているのがデカイですよね」
----本当にいろいろ関わっていて、経験値が高いですよね。
「いろんなレコーディングの仕方があって、どれも間違いではないと思うけど、やっぱり自分にとっての録音は、トラックを作ってどうこうと言うより、マイクと自分がいて、そういう空気感が入ればいいなというのがありました」
ライヴでは、アコースティックギターもエレクトリックギターも演奏。ギタリストとして、他のミュージシャンのステージに呼ばれることも多い。PHOTO:石阪大輔(hatos inc.)
----曲作りのツボはどこになるのでしょう。"曲が完成"というスタンプを押すタイミングはどこで決めるのですか?
「僕の場合は最終的には歌詞ですよね。メロディと歌詞の2つがあるじゃないですか。そのどっちにも面白味があって、その面白味をやり切ったというか、"曲がもういいよ、OKだよ"と言ってると感じる時があって。"もう触らなくていい"と」
----曲が先?歌詞が先?
「『Prayer』は全部同時、『我們是朋友(ウォーメンスーポンヨウ)』はギターを弾きながら。でも、今回は歌詞が先の方が多いですね。『いつもあなたは奪っていく』は歌詞が先。これは畠山美由紀さんのアルバム『わが美しき故郷よ』に向けて5曲分くらい歌詞を書いた中の1つで」
----そうなんですね。そう聞くと、聴き方が変わりそうです。インストの場合は?
「最初からインストにしようと思って作ります。曲作りって面白さがあるじゃないですか。3コードでもできちゃうんだけど、1個コードを変えることで曲のムードが変わるとか、そこに1個仕掛けが入ることで凄く良くなったり、歌詞も少し変えるだけで凄く良くなることってあるじゃないですか。だから大本を作ってしまってコードチェンジしたり、音が動いていくとかさせて。インストではないけど、『その坂を下って』は、歌詞と一緒に音が下がっていったのはたまたまなんだけど(笑)。たとえば、『波間にて』(アルバム『光を描く人』収録)を例にとっても、一つの歌詞でも、コードやアレンジの仕方によって聞こえ方が変わることが面白い、ということなんですよね」
----芳垣さん、伊賀さんの2人と一緒にやってきて変わった部分も当然ありますよね。
「そうですね。芳垣さんが50代、伊賀さんが40代、僕が30代と、世代が違いますしね。芳垣さんはドラマーというよりは1人のアーティストだと思うんですね。いろいろなことを含めて、出す音全てにいいがあるというか。パーカッションを探している音でも気持ちがいいというか。音色の美しさ、テクニックはもちろんですけど、常にフレッシュな感じを出していく、"前に良かったから(同じく)この感じ"というのはやらないんですよね。それに、CDだと最初から叩いてますけど、ライヴでは最初から来ない、最初はブラシを使って来るとか、シンバルだけで来るとか変えてくる。それで会話して、伊賀さんが変なのを引き出したら、僕もそれについていったり。伊賀さんも、演奏しながらプッて笑っているんですよ。そういうのとか面白いなぁと思ったりして」
レコーディングもこの3人で行った。おおはた雄一(Vo&G)、芳垣安洋(D)、伊賀航(B)。10月16日、世田谷パブリックシアターでのライヴ。PHOTO:石阪大輔(hatos inc.)
----ライヴでは、ぶっつけ本番でやっています?
「そうですね。曲順も決めていません。伊賀さんにはコード進行を事前に渡しますが、ライヴ会場で作っていきますね。『我們是朋友(ウォーメンスーポンヨウ)』でも、"上海の雑踏を表現してもらえないですか?"って芳垣さんにムチャぶりしたんですよ。芳垣さんも、"じゃぁ、やってみようか"っていう感じで始めたら、凄い良くて、だからレコーディングでもそれをやってもらいました。ライヴでやってから、レコーディングしていったのも良かったですね。あと、パブリックシアターではモニターをあまり使っていない。基本的に生音を聴き合ってやることが一番多いんですよ」
次は評判の高いライヴについてのお話。
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
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