ブルーノ・マーズの初来日公演
Music Sketch 2013.02.21
1月26日に恵比寿ガーデンホールで行われた、ブルーノ・マーズの初来日公演。瞬時にチケットがソールドアウトになったというが、確かに彼は多くの音楽ファンを虜にし、来日がずっと待たれていたアーティストのうちの1人なのだ。

ブルーノは高校卒業後に故郷のハワイからLAへ移住してから、"ザ・スミージントンズ"というプロデューサー・チームを結成。フロー・ライダーの「ライト・ラウンド feat.KE$HA」(2009年)で全米第1位に輝き、その後もB.o.B「ナッシング・オン・ユー」(2010年)などに参加し、注目されてきた。同年10月にアルバム『ドゥー・ワップス&フーリガンズ』でソロ・デビューすると、「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」(全米4週第1位)、「グレネイド」(全米4週第1位)、「ザ・レイジー・ソング」(全米第4位)と、何と!3曲連続で大ヒット。翌年の第53回グラミー賞では新人としては最多の6部門でノミネートされ、最優秀男性ポップ・ヴォーカル賞を受賞。楽曲の良さに定評があり、翌年も6部門にノミネートされたほど高い評価を受けている。
ブルーノ・マーズの代表曲の1つ「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」。センスの良いミュージックヴィデオとしても評判。
昨年末に発表したセカンド・アルバム『アンオーソドックス・ジュークボックス』からは、早速「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」が大ヒット。そして先日発表された第55回グラミー賞では、レゲエの神様ボブ・マーリィへのトリビュートのコーナーで、彼の息子のジギー・マーリィ、ダミアン・マーリィ、そしてスティング、リアーナと共演という夢の大役を授かり、ノビノビとパフォーマンスを披露していた。
実際、彼の音楽はジャンルレスと言っていい。1985年にハワイ州ホノルルに生まれ、ミュージシャンである両親の影響や、時代に関係なく良質なポップチューンを流す地元のラジオを聴きながら育ち、幼少時から多くの音楽に囲まれて過ごしてきたという。父親が日本に行った時に購入してきた山下達郎のア・カペラ・アルバム『オン・ザ・ストリート・コーナー』のカセットを気に入って、1人で全部リミックスするスタイルに感動して聴き入っていたこともあるそうだ。
ブルーノ・マーズの「ロックド・アウト・オブ・ヘヴン」。レトロ感を煽る映像で、楽曲的にはちょっとクラッシュを思い出す!?
さてコンサート当日は、トレードマークの帽子にベストというファッションのブルーノ・マーズを中央に、トランペット、サックス、トロンボーンのホーン隊を含む6人のミュージシャンが登場。ショウはオープニングから賑やかに飛ばすのではなく、「ムーンシャイン」でゆっくりとスタート。ブルーノばかりが目立つのではなく、フロントの5人が歌に合わせて踊り、腕を振り、ステージと観客の距離を徐々に縮めていくスタイルが特徴的だ。そして、3曲目「トレジャー」では70年代に一世を風靡した人気番組『ソウルトレイン』を想起させる、オールディーズ・ファンには懐かしいステップや、身体を揺らせていくダンスで沸かせていく。
最新曲「When I Was Your Man/君がいたあの頃に」のミュージックヴィデオ。1960-70年代くらいの架空のTV番組内で、ブルーノがこの曲をパフォーマンスするという設定だそう。こちらもレトロ感満載。
最新アルバム『アンオーソドックス・ジュークボックス』のタイトルが物語っているように、ソウルミュージックだったり、バラードだったり、レゲエだったり、そこに懐かしささえ覚えてしまう一緒に口ずさみたくなるメロディを持ちながらも、エレクトロニックな要素や複雑なビートが加わるなど、今風のサウンドとしてひとひねりあるのがいい。ポップだけどカッコイイ、万人に愛される音楽でありながら、ちょっと先を行っている感じがあり、それが世代を超えた層に愛されている理由だと思う。もちろん、愛嬌のある彼の人柄もその大きな要因だ。
ライヴでは息の合ったバンドと、観客のノリ具合を見ながら、ドゥーワップを披露したかと思えば、ブルーノ自ら床に膝をついてギターソロを弾くロックな展開があったり、全員によるダンスも含めて音楽の楽しい部分を多彩に抽出し、アレンジしながら華やかに演出していく。私の横で見ていた年配の女性は、「ハワイに住む娘にブルーノのことを教えてもらい、今は小学校5年の孫と一緒に楽しんでいるの。私の若い頃は、よくこういう音楽で踊ったわ」と、身体を揺らしながらずっと立ったまま、気持ち良さそうに身体を揺らしていた。

ヒット曲のオンパレードと言っていいほど親しみやすい曲ばかりで、会場は常に大合唱へと展開。後半はさらにヒートアップし、拡声器を使った「ラナウェイ・ベイビー」ではサイレンと観客の手拍子が歌を煽っていく。また、人気映画『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーンPart1』に使われた「イット・ウィル・レイン」ではアコースティックギターの弾き語りからはじまり、「君がいたあの頃に」ではピアノ弾き語りと、ブルーノの魅力を余すところなく披露していき、ファンを沸かせる。最後は大ヒット曲「ジャスト・ザ・ウェイ・ユー・アー」で締めたが、あらゆる音楽の魅力を濃密に調理していて、とても1時間ほどとは思えないほどの充実ぶりだった。会場を出るお客さんの表情がみなキラキラと笑顔で輝いていたのが印象的で、次に来日公演がある時は、全員またここに戻ってくると確信してしまった。それほど楽しめたブルーノ・マーズの初来日コンサートだった。

*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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