今話題のロードって、どんなアーティスト?

1月20日発売のフィガロジャポン本誌の〈流行予測〉の特集にも書いたけれど、今ミュージックシーンで話題の新星といえばLorde(ロード)。デビュー曲「ロイヤルズ」は全米シングルチャートで9週連続第1位を達成し、全英シングルチャートも制覇している。第56回グラミー賞では年間最優秀レコード、年間最優秀楽曲といった主要2部門を含む4部門にノミネートされているほどだ。

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16歳のロード(現在17歳)。とても大人びた顔立ちだ。


彼女はニュージーランドのオークランドで、1996年11月7日に生まれた。本名エラ・マリア・ラーニ・イェリッチ・オコナー。父はクロアチア系、母はアイルランド系という。どのような経緯で出てきたのか調べてみると、デビューは友人の父親がきっかけだった様子。12歳の時に友人のルイス・マクドナルドらとタレントコンテストに参加して優勝。その時の映像を見たルイスの父親がロードの才能に驚き、ロードがダフィーの「ワーウィック・アヴェニュー」とピクシー・ロットの「ママ・ドゥ」を歌ったものを録音し、各マネージメントに発送。それをきっかけに13歳でユニバーサルミュージックと契約した。当時イギリスのユニバーサルミュージックのA&Rだったスコット・マクラクランがロードの担当になり、現在は独立してマネージャーとして彼女を支えている。


■ 母親は詩人。幼少時から演技や音楽、読書に夢中。

逆にYouTubeなどから一気に注目されなかったことで、Lordeの才能を着実に育てることに成功したのだと思う。5歳の時に友人にくっついて演劇グループに参加したところ、すぐに自分に演技と音楽に夢中になってしまったという彼女。

両親共に音楽好きで、特に「父親はキャット・スティーヴンスや、ニールヤング、フリートウッド・マックの曲を私が寝る前に歌って聞かせてくれたわ。なかでもフリートウッド・マックの『噂』は、私にとって重大な一枚だったわ」と話している。母親はソーニャ・イェリッチという詩人で、そのため幼少時からたくさんの本に囲まれていた。T.S.エリオットやエズラ・パウンド、アレン・ギンズバーグをはじめとし、いつも読書していたそう。「10歳の時にレイモンド・カーヴァーを初めて読んで、短編小説家なんだけど、すごくミニマルな言葉でものを語るの。私はそれにすごく影響を受けたと思う」。

「ロイヤルズ」の最初のミュージックヴィデオ。


13、14歳からギター片手に曲作りをはじめたロードは、2012年11月にSoundCloudに5曲入りのデビューEP『The Love Club』を発表(デジタル配信では2013年3月、CDとしては2013年5月に発売)。その2曲目に収録されていた「ロイヤルズ」を、ニュージーランド版のオーディション番組『Xファクター』で出場者が次々とカヴァーするようになり、シングル「ロイヤルズ」もEP『The Love Club』もニュージーランドのチャートで大ヒット。6月にはアメリカでもシングル「ロイヤルズ」が発売され、アルバム『ピュア・ヒロイン』も全米で9月30日に、ヨーロッパではその1ヶ月後にリリースされ、世界各国で大ブレイクとなった。

「ロイヤルズ」のUSヴァージョン。


■ シンプルな音に、声を重視したレコーディング。

曲は、ニュージーランドのソングライター/プロデューサーであるジョエル・リトルとの時間をかけての共同作業から生まれている。特徴的なのはドラムとシーケンサー(プログラミング)を軸としたシンプルな音作り。ロードはラップをよく聴き、カニエ・ウェストは昔から好きで、ケンドリック・ラマーも大好きだそう。歌詞を重んじるタイプだし、トラックはシンプルな方が好きなのだろう。初期の「Million Dollar Bills」のように一部ラップをしている曲を聴いていると、M.I.A.を想起させるようなビート感もお気に入りのようだ。

2013年11月26日、アメリカの人気番組『デヴィッド・レターマン ショウ』 でのパフォーマンス。


ロードはとにかく最初から自分の声にこだわった。そうして辿り着いたのが音数を減らし、その分ヴォーカルを重ねてリヴァーヴを効かせて歌に深みを持たせ、声や言葉のインパクトを強めていく手法。ロードの世界観を広めていくのに最も適した手法だ。何しろロード(Lorde)という名前は自分で考え出した造語で「貴族的な名前を探しまわった後で決めたの。語呂と見た目が気に入っているの。少し女性的にするために、独自のエッジを加えたわ」とのこと。このどこか深遠で、ミディアムテンポの空間に光線のように拡がっていく歌で、高貴かつファンタジーな世界観をも創造している。


■ 歌詞の言葉使いや世界観がユニーク

作詞については次のように話している。
「読む人間は書くことになるんだと、私は思うの。ソングライティングは、最初はかなり難しかったわ。物語を書いて、それを曲げたり捻ったりして音楽に合わせようとしていたけど、そんなことはできないのよ。曲は物語の上に書くものだから。でも短編を書く時は、すごく短い文を強力なものにしなきゃならないから、ソングライティングに似ている部分があると思うの」

セカンドシングル「テニス・コート」のMV。


アルバム『ピュア・ヒロイン』のオープニングを飾るのは「テニス・コート」の次の歌詞から。"世の中の噂話ってつまらないと思わない? また偉そうなこと言ってるし、もうウンザリ。私はワクワクしたいからこれをやってる(対訳:今井スミさん 以下同)"。他にも"私のこと、女王バチって呼んでもいいわ/でね、ベイビー、私が支配して、支配して、支配して、支配してあげる/そんな空想の世界で生きさせてよ"(「ロイヤルズ」)といった歌詞も。Lordeという名前にふさわしく、「宮殿」「グラディエーター」「女帝」といった言葉が並び、まるで映画の主人公になった気分を味わうようにして、"気品をもって自分らしく生きよう"と歌っていく。

「アルバムのレコーディング中は、いろいろな音楽を勉強のために聴いていたわ。歌詞は、私の友人や、私の人生について書いているの。妙な社会情勢とか、私の年齢でいることの大変さとか、孤独についてとか、本当の友人と偽の友人についての私の熟考が入っている」

アルバムタイトルは『ピュア・ヒロイン』。

「アルバムのタイトルは変わっているわよね。私は歌詞を書く時、言葉を合わせて作るの。この言葉はプロデューサーに、"それはクールだね"、"この2つの言葉は何?"って聞かれて、それでもっと深く考えることになったわ。結局、私はポップ・ソングを作っているわけで。ポップは本当に人を一つにするもので、すごく満足感をくれるもので、だから私はそれに参加したいの。でも私の曲はクラブで腰を振るようなポップではなくて、皆が面白いと思ってくれるようなことを言おうとしている。自分をヒロインって呼ぶのは......確かに大仰な言葉よね。でも私は大仰な言葉が好きなのよ」


■ オリジナリティの高さに、デヴィッド・ボウイも絶賛。

アメリカでは、ロードは特にティーンを中心に人気があるそう。確かに彼女の歌はハリー・ポッターやトワイライトといった映画シリーズや、王国を舞台にした映画の世界観に合いそうで、ファンタジーとリアリティとを行き来する自分たちだけの世界を持つような心地よさがある。実際にロードは新人ながら『ハンガー・ゲーム2』のサウンドトラックに参加していて、ティアーズ・フォー・フィアーズの大ヒット曲「Everybody Wants To Rule The World」(1984年)をおどろおどろしく歌っている。

『ハンガー・ゲーム2』のサウンドトラックより、ロードが歌う「Everybody Wants To Rule The World」


アメリカの音楽シーンは、1人のプロデューサーが売れると付和雷同のようにそこに仕事が集中して似た音楽がチャートを独占したり、また話題作りありきでヒットチャートを賑わすことが少なくない。それゆえ10代の女の子がシニカルさをウィットで包んで放った独自性は斬新そのものだったし、多数に迎合するのが苦手な子たちにとっては、彼女が歌いかけてくれる言葉は"救世主現わる"といったものだったのだろう。

グライムスやスカイ・フェレイラといった少し上の世代の同性アーティストから、カニエ・ウェストやエルトン・ジョンまでもが大絶賛、そして最近ロードが尊敬するデヴィッド・ボウイからは「君の音楽を聴いた時、明日を聴いているように感じられた」(MTVニュース 2014年1月6日)と、直接言われたそう。他にも彼女から批判されたらしいテイラー・スウィフトが、昨今ロードと親しくしている写真をよくアップしていることでも話題になっている。

ロードが12歳の時の映像。ハードロックのブラックモアズ・レインボウの「マン・オン・ザ・シルバー・マウンテン」を熱唱。1人だけ、際立って大人っぽい。


私がロードの存在を知ったのは全米で売れはじめた10月頃で、最初にMVを見た時は当時16歳とは思えない大人びた表情で、どこかケイト・ブッシュを思わせる顔立ちに感じた。音楽的にイギリスで売れるのはすぐに想像できたけれど、アメリカでここまでブレイクするとは思わなかった。アラニス・モリセットがデビューした時のセンセーショナルさを21世紀ヴァージョンのクールな佇まいながら彷彿させ、アデルのような正統派シンガーでありながら、想像力を膨らませられる"自分だけの歌"として聴けることからも、よりSNS世代の若い層から火がつき、一気に広まったのだろう。

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左が輸入盤のオリジナルのジャケット。右が日本仕様。2月19日発売。\2,300


日本盤のCDジャケットは異なるが、当初のジャケットは本のように文字だけにしてシンプルな何の情報もない体裁にしたかったそう。16歳にして、このシンプルに徹するブレなさは凄い。早く日本に来て、その生の歌声を聴いてみたいものだ。

*文中の情報はレーベルからの資料他、『Rolling Stone』 2013年10月28日号、『Herald Sun』 2013年11月17日の記事を参考にしています。

*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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