インタビューから知る、ガブリエル・アプリン
Music Sketch 2014.06.18
その愛くるしいルックスに透明感のある爽やかな歌声で、日本でも人気上昇中のガブリエル・アプリン。2013年11月号の『フィガロジャポン』にインタビュー記事を書いたので、読んで下さった方もいるかもしれません。

渋谷で買った服を着たガブリエル・アプリン。とても表情豊かに喋るのに、撮影となったら、気取ったポーズに。
日本では「Panic Cord」が大ヒット。本人の実話だそうです。
1992年10月10日、ストーンヘンジで有名なイギリスのウィルトシャーで誕生。パラモアやケイティ・ペリーのカヴァーを歌うようになったのは、単純に家にあったアコースティック・ギターで歌いたいからという気持ちから。60年代のフォーク・リバイバルと呼ばれるシンガー・ソングライター、ジョニ・ミッチェルやボブ・ディラン、あとはジョン・レノンの歌など、誠実な書き手としての歌が好きだそう。
Katy Perry「Teenage Dream」のカヴァー。17歳の時。
カヴァー曲などをYouTubeにアップするうちに注目され、17歳の時に自身のレーベルNever Fade Recordsから自作曲を集めたEP『Acoustic』(2011年)をiTunesで発表。レーベル名は1st EPの"Ghost"にしたかったけれど、既に商標登録されていたので、2nd EPのタイトル『Never Fade』(2011年)から付けました。
インディーズの頃の曲「Never Fade」。育った環境が想像できます。
そして3rd EP『Home』(2012年)を機に、メジャー契約。2012年冬、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの1984年に大ヒットした名曲「The Power of Love」のカヴァーがイギリスの老舗百貨店John Lewisのクリスマスセール用のCMに使われたのがきっかけとなり、大ヒット。イギリスのシングルチャートで第1位に輝き、この頃、私も彼女の存在を知りました。
「The Power of Love」***
日本には"サマーソニック2013"をはじめ、既に5回来日。日本の映画『黒執事』(2014 年)の主題歌「Through the ages」も担当しています。
これまでのインタビューの中から少し紹介します。
■ 純粋さ、清らかさを私の歌を通じて感じてほしい
― 歌声はもちろん、歌詞も好きで、なかでも「How do you feel today?」のなかの"Those songs and bells were just the laughter of guns"という表現が印象的でした。
ガブリエル・アプリン(以下、G):「これはポエムとして先に書いてあって、それから曲に乗せて歌詞にしてみたの。普段から私が人と話す時に使っている言葉なんだけど、この曲の中で言おうとしたことにうまくハマったのよね。ただ、アルバムにポエトリーとして持っていたのはこの曲だけ。通常はポエムとして書くものと歌詞として書くものは全く別に考えている。でも、大体曲作りにおいても言葉が先に出てくることが多いわ」
「Human」音源のみ。
― アルバムの中で私が好きな曲の一つが「Human」。サビから始まるインパクトも強いです。
G:「とにかくバン!と始めたかったから、編集の段階で、サビを冒頭に持ってきたの」
― この曲の歌い回しにクセがあり、この他、「Ready To Question」などでもクワイアを感じさせるフレーズが多いですよね?
G:「そうね。そうなったのは偶然だけど、私は賛美歌や教会音楽を聴くのが好きだから嬉しいわ。ゴスペルっぽいけど、あまり過度な感じにならないようにしたから、このような曲にはハマったんだと思う」

5月28日@ビルボードライブ東京の模様。祈るように歌う姿が印象的。Photo:Jun2
― この「Ready To Question」を書こうと思ったきっかけを教えて。
G:「『Panic Cord』や『Please Don't Say You Love Me』を一緒に書いたと元ルースターのルーク(・ポタシュニック)と、これも書いたの。仲がいいのよ。宗教や神、宇宙を信じるとかそういう話になった時に、彼はクリスチャンだし、それでこれを曲に書こうと。扱う人によって、価値とか意味するものが全く異なるのが面白いなと思って書いた曲」
この曲も人気が高いですね。「Please Don't Say You Love Me」
― 「Power Of Love」も教会で聴きたくなるようなナンバーですよね。歌うことで自分の中を清めたくなるの? それがクワイアに通じるのかなと。
G:「ありがとう。そういう純粋さ、清らかさというのは私の歌を通じて感じてほしいと思うし、あの曲に関してはイギリスのデパートのジョン・ルイスのクリスマス用のCMに使われたので、冬っぽい温かみのある感じも出したかったの」
John Lewisの2012年クリスマスセールのCM
■ 「Home」は自分にとって突破口になった歌
― ギャビー(ガブリエルのニックネーム)は描いていたイメージより快活な印象があるけど、静かに曲を作るタイプ?
G:「私はお喋りが大好きなの(笑)。学生の頃は確かにシャイだったわ。今は違う。もっと楽しんでいる」
― 狂気などを扱うホラー映画が好きで、そこで感じたエモーションを歌に出すことによって、人と感情を共有できるようになったシンガーもいます。歌にさまざまな感情を出すことによってシャイな部分がはじけて、みんなと共有できるようになったことはあります?
G:「その通りよ。書き留めることはセラピー効果があるのかもしれないわ。話すことだけでもいいかもしれないけど、実際に書き留めたり、曲にすることが私にとってはいろんな思いに対する対処法なのかもしれない。基本的に自分のことや周囲の人のことを書いているから」

今回からギタリストが変わって、繊細な部分の表現力が増していました。Photo:Jun2
― 表現者は、ある意味、生きるために自分を表現し、前に進もうとするものですよね。前に進むために自分が変わるきっかけになった曲はありますか?
G:「本当にそう思うわ。そういう曲はいっぱいあるわよ。特に『Home』と『Keep On Walking』ね。前者はロンドンに移住したばかりで、でも住んだエリアが好きでなくて大嫌いで、でも自分の家に戻るわけにいかなくて。結果、この曲を書いたことで自分のイヤな気持ちと折り合いを付けつつ、レコード契約に結びついたので、何かの突破口になった曲ではあるの。後者は恋人ではないけど、良く会っていた男の子との関係がうまくいかなくて、お互いこのままじゃいけない状況を打破するまでに至るプロセスを書いた曲。この歌によって2人の関係もクリアにできて、友達になれたの」
「Home」
■ クリエイティヴな人間は、極端に感情が激化する
― ところで、両親がヒッピーというのは本当?
G:「えっ?(笑)。アメリカでいうヒッピーとは違うし、しかもヒッピーとは言えないけど、両親は自然体の人というか、まわりに対してピースフルに馴染んでいくタイプ。わざわざ事を荒立てるタイプではなくて、折り合っていくタイプの人たちなの。平和主義者ね。しかもスピリチュアルな環境で育ったから、あながち外れではないわ。食べ物もヘルシーなものが好きだったり、動物が好きだったり、リサイクルやエコに関心があったり、そういった自然派の生き方をする人というイメージが強い人たちよ」

この派手な衣装が意外でしたが、友人が作ってくれたものだそう。Photo:Jun2
― 内省的な世界があって、だからこそ書ける歌詞もあると思うけど、そういった良い環境で育って穏やかな性格で、こういう自分を見つめた歌詞を書けるのは凄いと思います。
G:「思うにクリエイティヴな人間は、極端に感情が激化するところがあるんじゃないかな。私もそういう部分は持っていて、あと考えすぎる部分があって、ちょっと悪いことがあると凄く悪いことに思えてしまったり、不安もほんのちょっとしたことなんだけど、そういった思いが詰め込まれて溢れんばかりになった時に形になって出てくる。だから、実際の生活の中で感じた悲しみは、本当は小さいのかもしれない。それを私は頭の中で勝手に広げちゃうタイプ(笑)。歌っていて、歌詞の中で物凄くディープなことに聞こえることでも、自分の実体験ではほんのちょっとの悲しいことだったりするんじゃないかと思う。ハッピーなことも大きくなってしまうタイプだけど(笑)」
― 激情したことも、曲に書くことで落ち着くということ?
G:「そうね。人によっては絵を描いたり、走ったりするわけで。私は曲を書くことでいい方向に向かえるのだったらいいと思っている」
「Salvation」
■ 『アルケミスト』を読んで、確かな人生観が生まれた
― 自分にとってのバイブル、人生に迷ったときに指針になるものはありますか?
G:「すべては気の持ちようで変わる。宇宙の摂理まで遡って言えるかもしれないけど、地球に存在する火、風、水、土、そしてすべての生命体というのは理由があってここに存在していて、それを司っているのが月のパワーなの。私もそんなパワーの産物としてここに産み出されたんだと思っていて、存在する以上、何か悪いことが起こったとしても、すべては良い方に変わるためにわけがあって悪いことを経験させられているんだと考えるようにしているわ」
― それは、何がきっかけでそういう考え方に?
G:「『アルケミスト』(パウロ・コエーリョ著)を読んで。凄く信じている。読む前からそういう考え方を自分は持っていたけど、人に話すと、"それはこういう感じ"と、紹介されたのがこの本だった。真理というのは信じる人の思いが強くなればなるほど、実現されるものだと、この本を読んでますます気持ちを強くしたわ」
ライヴでも披露していた、Joni Mitchellの名曲「A Case of You」のカヴァー。最新のミュージックヴィデオ。
***
話した内容を全文掲載したいくらい、彼女との話は興味深く尽きません。
そして、先日は『フィガロジャポン』のお隣の編集部『Pen』の取材でふらりと会ったのですが、その時に次のアルバムに関して少し訊いてみました。
「次のアルバムはいろんな違った題材がミックスされていると思う。曲もアップビーツでジャンプするような感じで、もっとカラフルになると思うけど、とりあえずまだ秘密ね(笑)。もっとポップになるけど、オーガニックな感じは増えると思うわ」
女性として、特にアティチュードの面から注目しているのはアデルだそう。
「アデルのアティチュードは素晴らしい。ナチュラルで、ファンに対して誠実で、アーティストとしてもソングライターとしても凄い。人としても素敵だし、私のロールモデルなの」

ガブリエル・アプリン『イングリッシュ・レイン』
犬を飼っているのに、日本で売っている猫グッズが大好きで、見れば買ってしまうというガブリエル・アプリン。日本が大好きだそうなので、次のアルバムが完成した時には、絶対にまた来日してくれることでしょう。
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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