音楽が主役、心が温かくなる映画『はじまりのうた』

素敵な映画が次々と公開されていますが、友人同士でも家族ぐるみでも、恋人やヴァレンタイン・デーから恋愛の始まったデートにもオススメできるのが『はじまりのうた(BEGIN AGAIN)』です。

第80回アカデミー賞歌曲賞を受賞した映画『ONCE ダブリンの街角で』(2007年)を手掛けたジョン・カーニーが再び脚本・監督を担当し、今度はニューヨークを舞台に制作したと聞けば、興味の湧く方は多いはず。もちろん続編ではないので、ダブリン編を観ていなくても楽しめます。

ストーリーを書くのは無粋なので、小耳に入れておきたい話を並べていきますね。

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グレダ役を演じるキーラ・ナイトレイ。彼女を見ていると若い頃のウィノナ・ライダーをつい思い出します。

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主人公のグレダを演じるのはキーラ・ナイトレイ。監督は、彼女が『ザ・エッヂ・オブ・ウォー 戦火の愛』(2008年)で歌っているのを聴いて、彼女でいこうと心を決めたそう。キーラは2014年に英国のロックバンド、クラクソンズのジェイムズ・ライトンと結婚したほど音楽好き。しかし、撮影に向けてヴォーカルコーチを付けて準備万端にしてからNYへ向かったものの、監督は楽曲の制作準備をわざと遅らせ、さらに彼女が歌う曲はレコーディング当日に手渡したそう。

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グレダのためにNYの街中でレコーディングが行なわれるので、観ているとNYへ行きたくなります。

音楽ありきの映画なのでこのエピソードに驚いたけれど、その意図は「音楽なしでも映画のストーリーが成立するように、セリフや演技でキャラクターを造形することを望んだため」(映画資料より)とのこと。結果、当日のレコーディングでキーラは初々しい歌声を収録することができた様子。

Keira Knightley 「Lost Stars (Begin Again Soundtrack)」 本年度のアカデミー賞歌曲賞ノミネート曲。


とはいえ当初は音楽なしに進めていても、常にこの映画に音楽の息吹は存在していたわけで。まずジョン・カーニー監督は、アイルランドのダブリン出身のバンド、ザ・フレイムスに在籍していたことのあるミュージシャン。グレダ(キーラ)の恋人デイヴを演じるアダム・レヴィーンはアメリカの大人気バンド、マルーン5の看板シンガー。大物ラッパーのトラブルガム役はリアル感満載でシーロー・グリーンが演じ、レコード会社の社長役には俳優としてもキャリア豊かなモス・デフことヤシーン・ベイが出演。

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左がジェームズ・コーデン。なかなかいい役で、こういう男友達がいると心強い。

他にも、グレタを助ける友人スティーヴ役のジェームズ・コーデンは、『ワン チャンス』(2013年)で実在のオペラ歌手ポール・ポッツを演じた俳優で、今回もいい味を出しているし、彼とダンの娘バイオレット役のヘイリー・スタインフェルドは役のためにギターを練習したそう。また、グレダの才能を見出だす落ち目のレコード会社の重役ダンを演じるマーク・ラファロが役作りの上で参考にしたというのが、ザ・フレーミング・リップスのウェイン・コリンだったと、後から教えてもらって、納得してしまった。

Keira Knightley 「Tell Me If You Wanna Go Home (Begin Again Soundtrack)」ここではフェイドアウトしていますが、映画では子を思う親の気持ちでバイオレットの演奏をドキドキして見てしまい、ギターソロで泣けました。

音楽監修と全曲のプロデュースを務めたのは元ニュー・ラディカルズのグレッグ・アレクサンダー。現在はソングライター&プロデューサーとして活躍していて、グラミー賞を受賞したサンタナ&ミシェル・ブランチの「ゲーム・オブ・ラヴ」を筆頭に、ここでも共作しているシンガー・ソングライターのダニエル・ブライズボアやBoyzoneのローナン・キーティングなどの楽曲を手掛けてきた人物。

Keira Knightley 「Like A Fool (Begin Again Soundtrack)」ジョン・カーニー監督自ら作詞作曲を担当。

曲作りにはアレクサンダーやダーニー監督をはじめ、出演しているシーロー・グリーン、『ONCE ダブリンの街角で』で主役を演じ、ニュー・ラディカルズのフロントマンでもあるグレン・ハンサード、加えてマドンナからセリーヌ・ディオン、ラナ・デル・レイまで手掛けている名プロデューサー/ソングライターのリック・ノエルズも参加。

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ラブストーリーだけでなく、家族の問題や音楽業界の話もあり、どんどん話に引き込まれます。

調べていて「!!!」と思ったのは、私が昔大好きだったバンドである元キング・スワンプのギタリストで、アラニス・モリセット他、多くのシンガーをサポートしてきたニック・ラッシュリーも参加していて、しかも彼はダニエル・ブライズボアと結婚し、今回2人で参加したこのサウンドトラックが久々のヒット作になったそう。この嬉しい話にも心がほっこり。ちなみにブライズボアも元ニュー・ラディカルズの一員。かつてはダニエル・ブリスボアとして日本でも一部で人気があったシンガー・ソングライターだ。温かい友情や愛情から珠玉の名曲が生まれているからこそ、この映画全体が温かい雰囲気に包まれているのかなと思ったほど。この映画のために全曲書き下ろしたという思い入れと、こだわりの強いレコーディングも重なり、サウンドトラックも素晴らしい内容に仕上がっている。

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『はじまりのうた オリジナル・サウンドトラック』 なんとカーニー監督はセシル・オーケストラ名義で4曲熱唱!

個人的にはアレンジの話にはじまって、契約問題、経費節減からのレコーディングのアイディア、どのように音源を売るかといった話など、音楽業界ならではの興味の尽きない話もあり、ミュージシャン同士の恋愛も含め、良く相談される身近な話もあって共感する部分が多く、時間が経つのを忘れて一気に観てしまった。時系列を追って進められた撮影は演技をよりナチュラルにしているし、登場する誰もがいい役をもらったと思うほど、鑑賞後には心が温かくなる。なかでもキーラ・ナイトレイはこれが代表作の一つになりそうだ。

Adam Levine 「Lost Stars (Lyric Video)」映画の終盤で歌われるヴァージョン。

***
最後に映画の資料にあったジョン・カーニー監督へのインタビューからの引用を。

Q:アダムにとって、演技は初挑戦でした。だから歌では素人のキーラを起用したと......。
A:そうです。キーラは数多くの映画に出演してきました。そしてアダムにとってはこれが初めての映画。ある意味、二人は真反対です。演じようとする歌手と、歌おうとする役者。

Q:そこからいい緊張感が生まれましたか?
A:人をその人の安全地帯から追い出すのはいい事です。そして多くの役者はそれを好みません。でも僕は、そこに魔法のようなものがあると思います。だって、人は安定しているとつまらなくなりますから。

ジョン・カーニー監督は2人にそれを実体験させながら、チャレンジの大切さを伝えたかったのでは?なぜなら、この映画の原題は『BEGIN AGAIN』だから。

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2013年に『People』誌で《世界で最もセクシーな男》に選ばれたアダムは演技初挑戦。キーラも本格的に歌うのは初めて。


『はじまりのうた』
監督:ジョン・カーニー
出演:キーラ・ナイトレイ、マーク・ラファロ、アダム・レヴィーン(マルーン5)
配給:ポニーキャニオン
シネクイント、新宿ピカデリーほか全国公開中
©2013 KILLIFISH PRODUCTIONS, INC. ALL RIGHTS RESERVED
http://hajimarinouta.com/

*To be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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