ラ・ルー 取材&ライヴ

9月の連休中に来日したラ・ルーにインタヴューしてきました。といっても、ヴォーカルを担当しているエリー・ジャクソンのみ。ラ・ルーはエリーとベン・ラングメイドの2人組ユニットですが、ベンは裏方に徹していて、取材にもライヴにも登場しません。ベンはフェイスレスのロロ・アームストロングと活動していたこともあって音楽知識が豊富で、ベン主導でサウンド作りから何もかも一緒に作業していますが、歌詞に関してはエリー1人で書いているようです。

048A.JPG フォトグラファー寺澤太郎氏と向かい合う、ラ・ルーのエリー。

詳しくは10月20日発売号のFIGARO japonのアクチュアリテのページを楽しみにしていただくことにして、でも、短い時間の取材だったとはいえ、とてもよく喋る人だったので、書ききれなかったことをここに紹介していきましょう。

イギリス出身のラ・ルーは、女性が歌うエレクトロニック・ポップということからか、または共にアカデミックな家庭で育ったからか、リトル・ブーツと比較されることが多いようです。ただ、子供の頃から音楽と読書が好きで、部屋に籠っていろいろ空想したり曲を作るのが好きだったオタク的なリトル・ブーツに対して、このエリーはやんちゃで騒々しくて、悪いこともやるけど宿題もちゃんとやり遂げるタイプだった様子。しかも18歳からは学校も行かず、ひたすらクラブで遊んでいたそうです。現在21歳です。

048B.JPG撮影はCDを発売している会社のオフィスの一角をうまく使って行われました。

ザ・ナイフやディペッシュ・モードからの影響が強く、私が「COVER MY EYES」という曲が好きだと話したら、「あれはチャイナ・クライシスの"クリスチャン"からネタをもらったのよ」と、開けっぴろげに話してくれました。それを言うと、「クイックサンド」は、プリンスのあの名曲からなのでしょうか。

早速、自分たちの音楽やサウンドをどのように追求して完成させていったかを訊いたところ、「ナイフをコピーしたのよ(笑)」と最初にジョークを言った後に、「一番大事なのは意識をもって音を作るということ。サウンド、ビート、メロディなど、すべてに対して他にない音を作ろうという意識、それからその過程を楽しむことね。やっぱり本人がユニークで、自分にとって素直であれば絶対にユニークなものが作れるのよ。他の人にとっては、"この音は何かに似ている"と思われるかもしれないけど、よく聴けば絶対に違うはず。何故なら、人間はみんな違うから」と、説明してくれました。

すごく説得力のある言葉だと思いました。自分に自信があるのでしょう。それはラ・ルーの音楽に限らず、これまでの人生やライフ・スタイル、加えて自分自身の見せ方にも自信があるように感じました。

048C.JPGなんとなくマネの有名な絵画「笛を吹く少年」を思い浮かべてしまったのは私だけ?

あと興味深かったのは、曲作りはセラピーにつながるということ。このこと自体は多くのシンガー・ソングライターが口にしていることなので全く珍しいことではないのですが、エリーはこう話します。


「曲には単に感情を発散しているわけではなく、そういった感情的になるきっかけに手を加えて曲を面白く、または美しくしていくの。なので曲を作り終えた今となっては、きっかけとなった事件のことは忘れているんだけど、不思議なことにその曲を書いた時のプロセスは1秒1秒憶えているのよね。もちろん問題が解決しているから曲としてできるんであって、そうでなかったらツアーなんかちゃんとこなせないけど(笑)」。

エイミー・マンが話していた、「潜在意識から意識へと持っていくプロセスには、セラピーのような効果があると思うわ」とも、共通点があると思います。

048D.jpg着物の生地も使われているカラフルな衣装。とても似合っていました。LIVE PHOTO :Ryota Mori

さて、トレードマークになっているヘアスタイルについて。昔から男性のヘアスタイルに憧れて、その話を某アーティストに話したら、「じゃぁ、思い切ってショートにしてみたら?」と言われて、ロングヘアをバッサリ。けれど、どうも髪型としてはサマにならず困っていたら、また某アーティストから「もっと切っちゃえば」と背中を押されて、さらにカットしたそうです。その後、偶然の間違えて完成した髪型がコレで、でも今ではいい感じに失敗したと思っているそう。そのアーティストの名前は、本誌の記事に掲載しているので、誰だか想像してみて当ててくださいね。まぁ、過激というか、この2人が友人同士なんて、どういった会話をしているの?って気になる女性アーティストです。

取材時の衣装は、9月8日にロンドンで行われたThe Barclaycard Mercury Prizeの授賞式で着ていたものと同じ、イギリスの男性デザイナー2人組Basso & Brookeによるオリジナル衣装。この服のインスピレーションは日本からなので、そのため着物の生地も使われています。今回たくさん衣装を持ってきたけれど、「日本にいるんだから、コレを着るしかないでしょう!」と、選んだそうです。

048E.jpg未だデビューしたばかりとあって、全10曲45分ほどのパフォーマンス。とはいえ、エネルギーに満ちた濃度の高い、とても楽しめたライヴでした。LIVE PHOTO :Ryota Mori

ライヴは、取材翌日の9月23日に代官山unitにて行われました。イギリス人が大挙していて、会場は満杯状態。バックバンドとして、右から男性キーボード奏者、正面に女性キーボード奏者、左に男性シンセ・ドラム奏者を配し、ラ・ルーことエリーが登場(エリー1人でも、ラ・ルーと名乗るそうです)。すごくパワフルでしたね。時には変声期前の少年のファルセットのようなヴォイスでエモーショナルに歌い、怖いものなしのように怒りを爆発させるように歌った「I'm Not Your Toy」を筆頭に、そこから続いた「Quicksand」「In For The Kill」など、終盤はさらに盛り上がりました。最後の「Bulletproof」は会場が大合唱になり、嬉しさのあまり照れまくっていたエリーの恥ずかしそうな顔がとてもチャーミングでした。

全米デビューは9月29日で、これに合わせて10月は全米ツアーを行うそう。「アニー・レノックスやグレース・ジョーンズを除いて、地球上に魅力的に感じる女性は1人もいないわ。男性には魅力的な人がたくさんいるのにね」と話すラ・ルーが、アメリカでどのように評価されるか楽しみです。

ito_f.jpg『ラ・ルー』

*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
和菓子
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
Business with Attitude
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.