ドラマーのいないバンドに注目

昨年11月のライヴが素晴らしかったデルフィック。デビュー・アルバム『アコライト』が発売になった1月末にこのコラムで紹介する予定でいましたが、3月20日発売号のFIGARO japonに掲載することになったので、ここでは簡単に記しておきます。

デルフィックはマンチェスター出身の3人組。同郷のスミスを筆頭にニュー・ウェーヴや、地元から発展したアシッド・ハウスやレイヴ、そしてテクノやエレクトロニカなどを吸収し、オリジナリティ溢れる個性的な音楽を目指して、08年に結成されました。編成は、マット・コクセッジ(G)、リチャード・ボードマン(Synth)、ジェームズ・クック(B,Vo)。ただし、マットやリチャードは自分の楽器を演奏しつつ、曲を盛り上げるシーンになると、キーボードやシンセドラムも演奏。一気にダンスパワーを拡張していきます。4月には再び単独公演で来日します。

FIGARO070A.JPGデルフィック、機材に囲まれた昨年11月20日@原宿アストロホールでのライヴ。Photo: 古渓一道

このドラムレスの構成は、以前紹介したメトロノミーの場合もそうでした。現在メンバーの変動がありましたが、初来日公演の時はライヴもドラムレスで、3人がキーボードを前にしつつ、それぞれ他にギターやベース、サックスを担当し、必要な箇所に応じて音色を加えるパフォーマンス。もちろん、そういったバンドはリトル・ブーツが在籍したデッド・ディスコもそうだし、過去少なくはなかったですが、コンピュータ(パソコンを持つのが当たり前の)世代になって、一気にユニークなドラムレス・バンドが増えてきたように思います。

FIGARO070B.jpgメトロノミー、昨年1月6日@渋谷O-EASTでのライヴ。現在は4人編成。Photo: :Shoichi Kajino

バンドでドラムレスが増えてきているのは、ひとつにはスタジオに入ってリズムパターンを作り上げるより、打ち込みの方が望んだ曲に合わせてビートを確立しやすいからでしょう。実際、今やデモトラックはコンピュータを使用しながら作るケースが当たり前になっていて、その時点でリズムパターンを組み立ててしまう場合が少なくありません。

ちょうど1年前に日本のバンドDragon Ashに取材した時、日本屈指のドラマーの1人である桜井誠が、「ドラムで一番大変だった曲は"Ordinary"。建志(Kj)はドラマーじゃないので、プログラミングで普通じゃないことをやってくる。でも、"オマエならできるでしょ"と言われて、苦労して叩けるようになった。発想の違いを表現できなきゃ意味ないので。それを表現しつつ、より良いものを仕上げるというのが僕の仕事だと思っているし」と話していました。同じような発言はNYで活躍するアソビセクスでも聞かれ、ドラムスを打ち込みにしたことで曲の表情は大きく変わったそうです。つまりはヒップホップを筆頭に、ビートのユニークさが音楽の進化の一因を担っている今、打ち込みで構築していく独創的なドラム・パターンが、ロックでも、それ以外でも音楽性を豊かにしているのだと思います。

そしてデルフィックにいたっては、レコーディングでは打ち込みの上に生演奏を被せて、よりダイレクトでダイナミックなビートに仕上げ、ライヴにもツアー・サポートとして同ドラマーを起用し、立体感を全面的に打ち出しています。

FIGARO070C.jpg全員20歳、話題の新人、トゥー・ドア・シネマ・クラブ。

さて、今話題の北アイルランド出身のトゥー・ドア・シネマ・クラブ。こちらもドラムレスで、アルバムには生のドラムス演奏が加わっているものの、基本4人目のメンバーとされているのはMacのコンピュータ。高校生の時に結成した3人は、最初のドラマーが抜けて以来、このスタイルを貫いていて、そのせいか、このバンドではドラムビートがシンプルな分、ギター2本が躍動感に溢れていて、タイトなダンスビートに扇情的なギターのフレーズが印象的に響いています。

実際のライヴではどのような演奏&音楽になっているか興味津々ですが、最近は楽器構成も全く自由なバンドが増えているので、それだけ音楽も面白くなっているのだと思います。


*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest
Business with Attitude
コスチュームジュエリー
35th特設サイト
パリシティガイド
フィガロワインクラブ
BRAND SPECIAL
Ranking
Find More Stories

Magazine

FIGARO Japon

About Us

  • Twitter
  • instagram
  • facebook
  • LINE
  • Youtube
  • Pinterest
  • madameFIGARO
  • Newsweek
  • Pen
  • CONTENT STUDIO
  • 書籍
  • 大人の名古屋
  • CE MEDIA HOUSE

掲載商品の価格は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ総額です。

COPYRIGHT SOCIETE DU FIGARO COPYRIGHT CE Media House Inc., Ltd. NO REPRODUCTION OR REPUBLICATION WITHOUT WRITTEN PERMISSION.