ジェフ・ベック、キャロル・キング&ジェームス・テイラー来日公演
Music Sketch 2010.05.21
音楽業界は、どうしても新しいアーティストが騒がれがち、もしくは再結成した往年のバンドが話題を集めがちですが、ノンストップで素晴らしい活動を続けているベテランのアーティストもたくさんいます。4月に観た"ゴッド"と呼ばれる天才ギタリスト、ジェフ・ベックと、同じくシンガー・ソングライターの神様と崇められているキャロル・キングと盟友ジェームス・テイラーのコンサートは、そのままDVDにして保管しておきたいほど素晴らしい内容となりました。
孤高の天才ギタリスト、ジェフ・ベックさま。65歳とは思えません!!!
私は私自身もギターを弾くこともあって、超ギタリスト・マニアなのですが(笑)、そのなかでもダントツに愛しているのがジェフ・ベック。彼のギターの魅力に取り付かれた中学時代から、全ての来日公演に足を運んでいます。楽器の専門家ではないので詳しい表現はできませんが、彼は弦は当然、フィンガーボードやブリッジなどのギターという楽器のあらゆる部位を使って最高の音色を引き出し、しかもピックを使わず、親指の腹の部分やボリュームのつまみを使って絶妙に奏でていきます。特に幻想的なサウンドは、どのように音を出しているのか、どんなに凝視してもわからないほど。
ボリューム奏法など、あらゆる演奏法で魅惑のサウンドを奏でます。
チャーミングな(と私が思う)髪型はバンド時代から変わりませんが、ギター奏法は常に新しいスタイルを追求しています。音楽業界にセンセーションを呼び起こした『ブロウ・バイ・ブロウ』(1975年)や『ワイアード』(1976年)のインパクトが強く、インストゥルメンタルのギタリストという印象をもたれやすい彼ですが、常に進化。特に最新作『エモーション・アンド・コモーション』では64名のオーケストラを迎えて、プッチーニの歌劇『トゥーランドット』より「誰も寝てはならぬ」、映画『オズの魔法使い』からは名曲「虹の彼方に(オーヴァー・ザ・レインボウ)」、映画『つぐない』の劇中曲「エレジー・フォー・ダンケルク」といった曲にもチャレンジ。ジョス・ストーンといった女性ヴォーカルも参加していて、幅広い層に受け入れられる華麗で優美な作品集になっています。ジェフ・ベックの場合、"ジェフ・ベック"という音楽ジャンルでしか括れないのですが、ロックやジャズはもちろん、オペラやヴォーカルものが好きな音楽ファンにもぜひ聴いていただきたい一枚です。
エリック・クラプトン、ジミー・ペイジと共に「3大ギタリスト」と称されています。
そして、ライヴ! 4月12日に国際フォーラム ホールAでのコンサートに行ってきました。女性ベーシストを同行させることの多いジェフ・ベックですが、今回のベース奏者はプリンスやキャンディ・ダルファー、ジャスティン・ティンバーレイクなどと共演してきたロンダ・スミス、キーボード担当はここ最近のベックやスティング、チャカ・カーンなどと仕事をしているジェイソン・リベロ、そしてドラムス奏者は超大物プロデューサーとしても知られるナラダ・マイケル・ウォルデン。この個性派ミュージシャンたちとセッションを楽しむように、自由自在に演奏を楽しんでいました。以前あった緊迫感は薄れ、終始笑顔で、見ているこちらもつい笑みがこぼれてしまうほど。
ステージをゆったり使って、敏腕ミュージシャンたちの演奏が繰り広げられました。
純粋にギターを演奏しているだけなのに、卓説した技術と音楽を愛する心がオーディエンスを自然と贅沢な至福の空間に導いていて、会場にいた誰もがリラックスしながらその場でしか味わえない音楽を堪能できたと思います。『ワイアード』からは「レッド・ブーツ」(76年)、『フラッシュ』からはロッド・スチュワートとの共演で話題になった「ピープル・ゲット・レディ」(85年)といった人気曲に加え、スライ&ザ・ファミリー・ストーンのカヴァー「アイ・ウォント・テイク・ユー・ハイヤー」やビートルズのカヴァー「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」、今年のグラミー賞で演奏した、故レスポールをトリビュートした「ハウ・ハイ・ザ・ムーン」もパフォーマンス。欲を言えば、毎年来てほしいくらいの素晴らしい夜となりました。
終始笑顔のジェフ・ベック。いつの間にかオシャレになっていました。
同じ週の16日にはキャロル・キング&ジェイムス・テイラーのライヴを日本武道館で。ファンの多くは仕事で多忙な世代と思うのに、こんなに豪華な顔合わせはないとあってか、19時の開演前には満席でした。
1970年代のシンガー・ソングライター・ブームを牽引したキャロル・キングとジェイムス・テイラー。
そして驚いたのは、第1部と第2部で、2人が別々にステージに上がるのかと思っていたら、キャロル・キングが歌う時はジェームス・テイラーはギター演奏とバッキングコーラスに徹し、ジェームスが歌う時は、キャロルはピアノやギターを弾き、コーラスをしたり、踊ったり・・・・・・と、交互に歌って見せ場を作っていく展開で。とにかくキャロル・キングがお茶目で可愛らしくて・・・・・・。ヴォーカルのコンディションも昨今の中で一番良かったのではないでしょうか。
チューンスミス(作曲職人)と呼ばれるのが好きというキャロル・キング。「ジェイムスがカヴァーして大ヒットした「きみの友だち」をはじめ、名曲がズラリ。
しかも20分の休憩を挟んでの第2部は、お互いの大ヒット曲のオンパレード。後半に行けば行くほど代表曲の目白押しとなって、観客も歌いだすほどに。本当にこれはあり得ないくらい素晴らしい展開となりました。2時間半にも及ぶ、記憶に残るほどの豪華なコンサートでした。
ユーモアに富んだトークも冴え、会場をさらに和やかな雰囲気で包んだジェイムスの歌声。
<曲目>
1)Blossom
2)So Far Away
3)Machine Gun Kelly
4)Carolina In My Mind
5)Way Over Yonder
6)Smackwater Jack
7)Country Road
8)Sweet Seasons
9)Your Smiling Face
10)Song Of Long Ago
11)Long Ago And Far Away
12)Beautiful
13)Shower The People
14)(You Make Me Feel Like) A Natural Woman
15)Copperline
16)Crying In The Rain
17)Mexico
18)Sweet Baby James
19)Jazzman
20)Will You Love Me Tomorrow
21)Steamroller Blues
22)It's Too Late
23)Fire And Rain
24)I Feel The Earth Move
25)You've Got A Friend
アンコール
26)Up On The Roof
27)How Sweet It Is
28)Locomotion
photos: Masayuki Noda(Jeff Beck、4月13日JCBホール公演のもの)
Yuki Kuroyanagi(Carol King & James Taylor、4月14日日本武道館公演のもの)
*to be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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