カール・ハイドのソロ・ペインティング展
Music Sketch 2010.09.09
現在発売中の『フィガロジャポン』本誌の「Rendez-vous」にインタビュー記事を書きましたが、現在カール・ハイド(アンダーワールド、TOMATO)のソロ・ペインティング・エキシビジョン『カール・ハイド展』がラフォーレミュージアム原宿にて開催中です。9月15日(水)までです。
会場にはこれまでに彼が描いてきた作品が多数展示され、オープニングの8月25日(水)には公開ペインティングとして朝11時から夜にかけてカール自身がその場で作品を制作。その様子はUSTREAMでも放映されました。
日本が大好きというカール・ハイド。渋谷の街でもバッタリ会いました。
色彩は、幾度にもわたる来日の間に脳裏に記憶されたものを発展させたそうです。
「日本には独特の色彩のパレットがあると思う。無意識のうちに描いていたら、日本を思い出して漆をイメージした赤や、塀のシミやカラスをイメージした黒を入れていた。緑もイギリスのグリーンとは違う。これらの色彩はフランスやドイツで購入した絵の具を混ぜながら、丁寧に作っていったんだ」
インタビュー中も手帳やデジカメで思いついたものをメモ。ウェブにも連日アップしています。
http://www.underworldlive.com/
カールは、日本の色彩の繊細な色彩感覚はイギリスにはないものだと話します。
「創造性の遺伝子に関していうと、イギリスの国民は発展途上だと思っている。イギリス人のカラーパレットは非常に荒くて(brutal)重い感じなんだ。たとえば僕が子供の頃はブラウンといえば濁った感じの色しかなくて、最近の若い世代には色彩感覚が明るいものもあるけれど、ただ派手で明るいだけで、繊細な色彩感覚が未だ養われていない。イギリス人の色彩感覚はとても未熟だと思う。それはもしかしたら光の関係だったり、DNAの部分で進化していないのかもしれないね」
手前は写真家、寺澤太郎氏。『フィガロジャポン』本誌での取材時の様子。
作品を制作する時に流す音楽として、アンダーワールドのパートナーであるリック・スミスに頼んで作ってもらったというBGMが、展示会場にずっと流れていました。限定2000枚で『BUNGALOW WITH STAIRS』としてCD販売されていたので購入してみました。カールの筆の動きに躍動感があるので、もっとアンダーワールドに近いダンス系のサウンドかと思えば、全体的にメディテーションを想起させるような静寂が漂います。そして、時には朗読のようなコトバの響きや電話での会話も含まれています。
「僕はラジオとか人の喋り声をずっと聴きながら描くのが好きなんだよね。心が落ち着くというか・・・・・・。いつも自分の内部にダンス・ミュージックが流れているから、敢えて絵を描く時はビートは必要としないんだ」と、カールは説明してくれました。
カールが絵を描く時のBGMとして制作された曲を収録。RICK SMITH 『BUNGALOW WITH STAIRS』
確かにコトバに導かれるようなBGMに浸っていると、どこか侘び寂びに似た静寂さや日本的なものも感じさせることも。ただ、「TOKYO< >LONDON」と題されたシリーズの曲には日本語が実際に入っていて、そのコトバが(日本人にとっては)微妙なだけに、違和感もあります。英語は母国語ではないだけに聞き流せますが、日本語はどうしても耳に引っかかります。今年のフジロック'10のマッシヴ・アタックのライヴの時にLEDに流れた日本語もそうでしたが、海外の人にとってユニークな日本語でも、日本人はまともに受け取ってしまいがちなので、アートや音楽に違う意味が加わりがちで、ちょっと残念です。実際にリックがどこまで意図しているかわかりませんが。
入場者の目前で、作業していくカール・ハイド。
「キャンバスに視線を向けずに、筆をただ走らせたみた作品が中心になっている」と言い、ホテルのベッドサイドに置かれたメモ用紙にスケッチしたものも展示されています。しかしどの作風にも色彩や筆の動きに統一感が感じられ、これがカールの脳裏にある色彩と体内にあるリズムからはじき出されたかと思うと、絵の連続からあらたに音楽が聴こえてくるような錯覚に陥りました。
小屋を見ずに、感覚的に筆を走らせていきます。
ちなみにアンダーワールドの最新アルバム『バーキング』が発売中ですが、「絵を描くことが音楽制作にどう影響しているか」についても、訊いてみました。
「考えたことはないけれど、音楽としてもヴィジュアルアートとしても、僕らはそれをとても楽しんでいる。どっちがどっちから影響したとは言いにくい。僕たちの今現在の感覚として人生をすごく楽しんでいて、それが表現として音楽に出る時があるし、ヴィジュアルアートとして表現されることもある。今、人生が進んでいるプロセスをとにかく味わっているので、表現の中に人生を祝福する気持ちがあるんだ。だから関連性があるとしたら、"生きていることの歓び"かな」
左:チョークを加え、最終的に仕上げていきます。右:小屋に描くことにしたのも、このサイズにしたのも、すべてカールの意見から。
完成した作品。
最後に、会場にカールが残した文章の日本語訳を記しておきます。ぜひ興味があれば、会場へ足を運んでみて下さい。
* **
リズムは奥深くしみわたり、それについて頭で考えることはなく、ただひたすら感じるだけだ。言葉を超えて響くリズムのせいで、あなたは大胆になり、いやおうなく押し寄せてくる流れに身をまかせたいという欲望にかられる。
ステージのうえにいるときでも、絵を描いているときでも、ある体験を言葉で書き記しているときでも、街角の写真を撮っているときでも、これと同じことが起こる。
何かを予想する余裕はなくなり、記号は瞬間的に、直接的に作られる。メディアや時間や場所を問わず、すべてのパフォーマンスにおいて、このプロセスは繰り返される。プロセスの反復により、作品が作られていく。それらは似ているが、ひとつとして同じではない。1回プロセスが起こるたびに、次のプロセスの情報が与えられ、形作られる。
ダンスが一枚の絵になり(また絵の制作の方向を指し示し)、絵がある言葉の連なりになり、言葉の連なりが1枚の写真になり、写真がダンスになる。形は違っていても、そのどれもが記号を作ること、より正確には組み立てることであり(そこでは一連の記号が互いに関連づけられ、音楽でいうところの作曲が行なわれている)、たがいに会話しあい、ついには次に来る表現の瞬間や状況を形作る・・・
「絵を描いているあなたの頭の中では、いったい何が起こっているのか?」
カール・ハイド 2010年5月
会場には多数の作品が展示されています。
会場は原宿ラフォーレの6階にあります。
個展の写真:小山泰介
*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
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