St. Vincentインタビュー②

引き続き、セイント・ヴィンセントのインタビューを掲載します。

――癒しと言っても、ストーリーテラーの要素を強く打ち出している部分もありますよね?

「新作には、自分としては一人称で歌っているものもあるし、第三者的な目から見ているものではないものも何曲かあると思う。確かに物語形式で語っているかもしれないけど、その内容はとてつもなくパーソナルなものであるし、特定な人や場所、実際"これは自分のことだろう"と訴えられないのが不思議なくらいの内容になっているわ。自分でも何を言っているのかわからないんだけど(笑)、私としてはギリギリのとてもスリリングな部分を歌っているの」


120125music_01.JPGライヴのMCではウィットに富んだトークで、会場を笑わせます。

――それを歌にすることでが、癒しに繋がっている?

「そう、さっきも話したようにライヴなどで演奏し続けるうちに感情にメリハリがついて、気持ちが整理されていくのよ」

――ところで子どもの頃はどんな子どもだったのですか? 子どもの頃からダークなユーモアに惹かれやすかったの?

「(笑)。子どもの頃はM.I.A.(missing in action:戦闘中の行方不明者)と呼ばれていたの。友達と約束しているのに、部屋に引きこもってギターを弾いていたり。行方知らずってことでね(笑)」


120125music_02.JPG最初はギタリストとして活躍していただけあり、ひとたび演奏に入れば一気にその世界に引き込まれます。

――たとえば、中学生の思春期のあなたにいちばんすごい影響を与えたものは誰のどのアルバムでした? 私の場合はピンク・フロイドの『The Dark Side of The Moon(狂気)』でしたが。

「それもすごいわね(笑)。私の場合は、う~ん、そうねぇ(ちょっと恥ずかしそうに)、7年(日本でいう中学1年生)の時のパール・ジャムは大きかったわ(爆笑)。(部屋にいるスタッフの方を見ながら)みんなに笑われるわ。『Ten』は9歳の時で、MTVで見ていた。だから、『Vs.』とか『Vitalogy』とか。ちょっと恥ずかしいけど、歌詞も全部読んだし、Fワードを言ったりしたら、親に没収されちゃったのよ(笑)」


120125music_03_new.JPGインディーズ界ではすでに大人気。今年、さらにブレイクしそう。

――映画では? 最近気に入っているものでも構わないです。

「また暗いものになってしまうわ(笑)。Lynne Ramsay(リン・ラムジー)監督の『Ratcatcher(ボクと空と麦畑)』(1999年)。彼女はスコットランドの映画監督なの。それから、ブリティッシュのスティーヴ・マックイーン監督(ヴィジュアル・アーティスト)の『ハンガー』(2008年)。こちらも暗い話よ」


『ボクと空と麦畑』のトレイラー

『ハンガー』のトレイラー

――作家では?

「アメリカの進化心理学者のスティーブン・ピンカー、詩人だったらフランク・オハラが好きだわ」

――なんとなく傾向がわかってきた気がするのですが、いつ頃からダーク・ユーモアな世界に惹かれるようになっていったのでしょう?

「私、虚無主義は好きではないの。ニヒリストではないわ。そこまで辛辣に世の中を斜めに切っているわけではない。ただ、アート作品として単純な答えが出てくるのではなくて、人間の複雑さを描いている作品が好きなのよ」


120125music_04.JPGステージに置かれたセットリスト。

レコード会社からもらった資料には、セイント・ヴィンセントの最新アルバム『ストレンジ・マーシー』に関して"気品と平静が、混乱と悲しみと衝突した時に生まれる究極の美学"と記されていますが、見事に言い当てていると思います。さらに、そこに書かれた彼女の発言を引用すると、「確かに『Marry Me』の頃は幼かったのかもね。皮肉っぽさも程よくユニークだし、曲もまずまずだったと思う。まだ22歳の時に書いた曲だし、その当時はそれでよかったのよ。『アクター』はもっと頭でっかちというか、もちろん意図してやったわけじゃなくて必然だったんだけれど、でもそのフェーズも今となっては過去のことかな。そう、私は自分のことを投影した人間くさいアルバムを作っていきたい、そう思っているの」とのこと。


120125music_05.jpgセイント・ヴィンセント、29歳。

歌詞からはどこか幻想的でドロドロとした内面も見せつつ、絶妙な音のアンサンブルでさらりと次の場面へ気分が移ってゆけるような不思議な音楽。短い時間でのインタビューでしたが、セイント・ヴィンセントが好む作品群から、彼女自身が自分の人生と音楽を通して表現したいことがそれとなくつかめてきたような気がします。すすめてくれた映画や著書で観ていないもの、読んでいないものが多いので、そのあたりをチェックしてから、またセイント・ヴィンセントの音楽を聴き直してみたいと思います。みなさんもぜひ、心の襞をギターサウンドともに1枚1枚剥がしていくような、セイント・ヴィンセントの音楽に注目してみて下さい。味わい深いですよ。


120125music_06.jpg昨年11月に発売された3作目『ストレンジ・マーシー』(ホステス/¥2,490)

ライヴ写真:久保憲司

*To be continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
ブログ:MUSIC DIARY 24/7
連載:Music Sketch
X:@natsumiitoh

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