坂本龍一の北米ツアーをUSTREAMで
Music Sketch 2010.11.12
先月末、坂本龍一さんが北米ツアーで演奏している音源をそのままiTunesから販売することに加え、10月30日のシアトル公演の模様を、パソコンを使った動画共有システム"USTREAM"で配信するというニュースが入ってきました。昨年のジャパン・ツアーも、ライヴの翌日に演奏した音源をそのままiTunesで即売し、iTunesのアルバムチャート・トップ10を独占するといった快挙を成し遂げていますが、1時間半から2時間にわたる海外でのコンサートの模様を生中継で配信するとは画期的な試みです。
もはや説明不要、世界的に活躍する坂本龍一氏。
もちろん2007年に動画配信システムUSTREAMがアメリカで開発されてから、ミュージシャンのライヴやアーティストのパフォーマンス、選挙などの演説といったことにもこのシステムは積極的に使われおり、この10月にはアメリカのマタドール・レコーズが、21周年を記念して3日間にわたってラスベガスで開催したイベント(ペイヴメント、ソニック・ユース、べル・アンド・セバスチャン、キャット・パワーなど出演超多数)を世界に向けて配信しました。
日本はというと、まだ投稿動画サイトのYouTubeやニコニコ動画の人気もありますが、宇川直宏さんがUSTREAMを使った『DOMMUNE』(日〜木 19時〜23時 http://dommune.com/)という音楽番組を今年3月からスタートさせて、認知を広げてきました。他にも今年ちょっと思いつくだけでも、カール・ハイドのペインティングのパフォーマンス、ケイティ・ぺリーやチリー・ゴンザレスの公開インタビューなどもUSTREAMで生中継しているし、最近は就職説明会で利用していたり、もっと身近になって学生なども日常生活で有効に使っています。
録画システムもありますが、USTREAMの生中継の利点は、Twitterで生中継の番組(画面)にそのまま参加できたり、視聴者の人数が明記される点。その場にいなくてもゲストに質問できたり、曖昧視聴率よりも正確な数を知ることができるのです。
大成功を収めた北米ツアーを日本でもUstreamで堪能。
坂本龍一さんこと教授は、J-WAVEの番組「Radio Sakamoto」の大竹伸朗さんとの対談などでUSTは利用していたものの、今回のコンサートのUST配信については突如思いついた様子。教授から直前に依頼された古川亨氏の10月28日のTwitterによれば「一人UST中継にチャレンジすべくスーツケースの中身はLivebox、小型41万画素ビデオカメラ、CECEREVO CAM、Bloggie、ムービーカメラ、RODEのステレオマイク、にHolophone それでもダメならiPhoneで」と呟かれているほど、コンパクトなもの。そこに平野友康氏もサポートとして加わり、少数先鋭スタッフで、USTREAMが実現したわけです。
会場全体の空気をも響かせながら音が奏でられる、芸術空間。
西海岸の夜に行われるコンサートは、幸運にも日本のランチタイムとなり、私は11月1日の昼にはバンクーバーで演奏中の教授のソロ・ピアノを観聴きながら昼食。MacからJBLのスピーカーにつないだり、iPhone4にヘッドフォンをつないだり、いろいろ試しながら聴いてみました。3日はiPhone4と共に外出し、小春日和の陽光の下、イヤフォンでサンフランシスコ公演を聴いていましたが、野外でも映像や音質は素晴らしく・・・・・・。正直、ゆるりとした別の時間軸で呼吸しているようにさえ感じたほどです。この北米ツアー全10公演は、最初からiTunesから発売する目的で音質管理をしているので、iPhoneから聴いても、当然美しいのです。
「hibari」「シェルタリング・スカイ」「美貌の青空」といった名曲、人気曲に加え、YMO時代の大ヒット曲も演奏。しかもソロといっても、即興あり、ノイズを交えたものや、事前に弾いた演奏をデータ化して、もう1台のピアノに自動演奏させて共演するといった試みもあり、画期的なカメラアングルと共に飽きさせることが全くありません。
映像の横に流れる視聴者のTweetsを見ていると、「教授のコンサートをタダで見られるなんて、なんて贅沢!」「今まで坂本龍一の音楽を聴いたことがなかったけど、こんどCDを買ってみよう」「次は絶対に会場で聴きたい!」といったコメントばかりで、このUSTREAMを機に、坂本龍一の音楽に興味を持ち、また、もっと聴きたくなった音楽ファンが確実に増えていることを感じました。シアトル公演やバンクーバー公演では、随時6000〜8000人が見ていて、延べ3万5000人ほどが見ていたそうですが、最終日のロサンゼルス公演では、1万人を超える人が平日の昼間に随時見ていて、実際に東京ドーム並みの人数がこの素晴らしい海の向こうでの演奏を堪能していたのではないでしょうか。また、スタッフの公演前後の様子がわかるリアルな声も聞くことができて、それも楽しめました。
そしてツアー全10公演の音源は、どれも1500円という安さで販売されています。これも信じられないことです。
ジャパン・ツアーは11月18日からスタートします。
早速、昨日11月10日には、日本のロック・バンド、アジアン・カンフー・ジェネレーションが教授に刺激されてUSTREAMでコンサートの様子を生中継し、会場に行けないファンをも虜にしていました。USTREAMを有効に使うことで、実際にライヴに行きたくなったり、楽曲をきちんと聴きたいと思う音楽ファンが増えていくはずです。
今後、こういった試みが増えて、しかもライヴ音源が購入できるシステムも活性化していって欲しいですね。それにしても、それを思いついた坂本龍一さん、ミュージック・シーンを世界的視点から捉えてみてもこれは凄いことだと思います。
*写真提供:commmons
*To Be Continued

音楽&映画ジャーナリスト/編集者
これまで『フィガロジャポン』やモード誌などで取材、対談、原稿執筆、書籍の編集を担当。CD解説原稿や、選曲・番組構成、イベントや音楽プロデュースなども。また、デヴィッド・ボウイ、マドンナ、ビョーク、レディオヘッドはじめ、国内外のアーティストに多数取材。日本ポピュラー音楽学会会員。
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