【虹の刻 第16章】村上虹郎×山田智和×古川日出男。

虹の刻 2020.04.30

フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。

第16回目の文筆家には、小説家で劇作家の古川日出男が登場。音楽は、3人組のラップクルーMGFのKSKと、ピアニストShimon HoshinoからなるOsteoleuco(オステオロイコ)が担当。

等間隔に西日が射す、終わりの見えない線路に立つ。4人の表現者が描く、「水中分解」の話。

コート¥232,100、パンツ¥39,600、フリンジニット(参考商品)/以上アクネ ストゥディオズ(アクネ ストゥディオズ アオヤマ) 中に着たニット¥126,500(予定価格)/ジ エルダー ステイツマン(サザビーリーグ) シューズ/スタイリスト私物

 

水中分解  古川日出男

あんたにはこういう話をする。どんなに日本語を操るのが上手な作家たちも、いつかはその文学的な運動神経を失うんだって。どんなに豊富な、ラグジャリーな日本語の数を誇ってたりしても、そういうのも記憶喪失みたいになるんだって。

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そのことがわかって、俺はとうとう覚悟を決めた。まず台所のシンクに水を張った。そこにコンピュータを沈める。さようなら、俺の執筆機械。それからノートを沈め、万年筆を沈める。さようなら、俺のアナログな筆記具。筆先からインクが流出して、水はブルーに染まり出した。そこに顔をつけた。さようなら、俺。

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こういう死に方には根性が要る。俺の脳内で日本語が暴れる。俺の思考は日本語で構成されているから、そいつが崩れる。水、と俺は考えている、その漢字が剥がれる。音だけが残り、ミズ、になった。そうなんだ、「水」と「ミズ」は違う。水死しようとしてる人間が言うんだから本当だ。で、その先は?

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呼吸が停められて、遂に「ミズ」だって失われる。思考の構成要素が、やわやわってなって、それは「み   ず  」だ。もしかしたら「  ず       」で、この話をしている俺も、こんな日本語を う  し     な

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監督・山田智和
Tomokazu Yamada

1987年生まれ、東京都出身。Caviar所属。アーティストへの敬意、作品や精神性への共感と愛。光や闇、水などの自然を巧みに取り入れた作品群は、普遍性を持ちつつ私的な感情を描き出す。2018年、米津玄師「Lemon」のMVでMTV VMAJ 2018 最優秀ビデオ賞受賞、19年、スペースシャワーミュージックアワードでBEST VIDEO DIRECTOR受賞。
https://tomokazuyamada.com
俳優・村上虹郎
Nijiro Murakami


1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。公開待機作に、映画『ソワレ』『燃えよ剣』『佐々木、イン、マイマイン』『銃2020』がある。
文・古川日出男
Hideo Furukawa


1966年生まれ、福島県出身。98年、小説『13』(角川書店刊)でデビュー。2001年、『アラビアの夜の種族』(角川書店刊)で日本推理作家協会賞、日本SF大賞受賞。05年、『LOVE』(新潮社刊)で三島由紀夫賞、16年、『女たち三百人の裏切りの書』(新潮社刊)で野間文芸新人賞と読売文学賞受賞。最新刊は約900ページの巨篇小説『おおきな森』(講談社刊)。
音楽・オステオロイコ
Osteoleuco

ラップクルーMGFのプロデューサー兼MCのKSKと、JuaやB-BANDJのトラックプロデュースを手がけるピアニストのShimon Hoshinoによるユニット。20年4月20日、初のミニアルバム『20_420_ost』をリリース。

 

●問い合わせ先:
アクネ ストゥディオズ アオヤマ tel:03-6418-9923
サザビーリーグ tel:03-5412-1937

※この記事に記載している価格は、標準税率10%の税込価格です。

réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : OSTEOLEUCO , acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : HIDEO FURUKAWA, stylisme : KEISUKE SHIBAHARA, coiffure et maquillage : KATSUYOSHI KOJIMA(TRON)

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