【虹の刻 第9章】村上虹郎×山田智和×原田マハ。

虹の刻 2019.10.08

フィガロ本誌3月号より始まった新連載「虹の刻」は、俳優の村上虹郎と映像作家の山田智和、そして各回ごとに変わる文筆家と音楽家を招き、”とある瞬間”を表現する連載企画。

本誌11月号掲載、第9回目の文筆家には、小説家の原田マハが登場。音楽は、音楽集団の幾何学模様が担当。

鬱蒼とした新緑が御射鹿池の水面に浮かぶ。小説家の原田マハを迎えて、それぞれが想う、とある瞬間を描き出す。

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緑響く  原田マハ

 かつて東山魁夷という日本画家がいた。

 テーマは一直線に「風景」。人物や静物に興味を奪われたことはなかったのだろうか、彼は全生涯を通して風景画を描き続けた。彼の描く風景はどれもが清澄で隅々まで研ぎ澄まされ、木々の梢を揺らす風の音までもが絵の奥から聞こえくる。しんと豊かな沈黙が広がっている画面もある。どうしたらこんなふうに冴え渡った景色を表現できるのか、長らく不思議に思っていた。画家としての技量とか成熟とかを超えたところにあって、魁夷の絵はいつも凛としている。なぜだろう。

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 ある日、新聞を眺めていたら、見覚えのある風景の写真が載っていた。それは、岸辺の緑が滴る「御射鹿池」の写真で、東山魁夷の「緑響く」という絵に描かれた風景だった。私は画家の神秘の一端に触れたくて、その週末に池がある長野県の蓼科へと出向いた。

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 果たして絵画の中から抜け出してきたかのような風景が目の前に広がっていた。唯一の違いは絵の中にいる白馬が実際の岸辺にはみつけられなかったことだ。清々しい風景の前に佇んで、私は自分が大きな一枚の絵と対峙していることに気がついた。かつてひとりの画家が向き合い、画帳に描いた風景に、私もまた引き込まれていた。

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監督・山田智和
Tomokazu Yamada

1987年生まれ、東京都出身。Caviar所属。アーティストへの敬意、作品や精神性への共感と愛。光や闇、水などの自然を巧みに取り入れた作品群は、普遍性を持ちつつ私的な感情を描き出す。2018年、米津玄師「Lemon」のMVでMTV VMAJ 2018 最優秀ビデオ賞受賞、19年、スペースシャワーミュージックアワードでBEST VIDEO DIRECTOR受賞。

俳優・村上虹郎
Nijiro Murakami


1997年生まれ、東京都出身。2014年、カンヌ国際映画祭出品作『2つ目の窓』で主演を務め、俳優デビュー。作品の持つ時代性や自身の内的な記憶と真摯に向き合い、繊細な感情を映し出す演技派。オダギリジョー監督、映画『ある船頭の話』が現在公開中。映画『楽園』『”隠れビッチ"やってました。』『ソワレ』の公開を控える。
文・原田マハ
MAHA HARADA


1962年生まれ、東京都出身。伊藤忠商事、森美術館設立準備室、ニューヨーク近代美術館勤務を経て、フリーキュレーターとして独立。05年「カフーを待ちわびて」で第1回日本ラブストーリー大賞受賞。12年『楽園のカンヴァス』(新潮社刊)で第25回山本周五郎賞受賞。19年9月、自身がキュレーションした展示「CONTACT」を京都の清水寺で開催。
音楽・幾何学模様
KIKAGAKU MOYO


2012年、Go Kurosawa(Dr/Vo)、Tomo Katsurada(Gt/Vo)、Daoud Akira(Gt)、Ryu Kurosawa(Sitar)、Kotsu Guy(Ba)の5人で幾何学模様を結成。インドのクラシック音楽やクラウトロック、フォーク、1970年代のロックなどに影響を受ける。14年、GoとTomoが自主レーベル「Guruguru Brain」を設立。19年10月より、2年ぶりの日本ツアーを開催。
www.kikagakumoyo.com

 

●問い合わせ先:
アレキサンダーワン tel:03-6418-5174
ディプトリクス(カンペール トゥギャザー × キコ コスタディノフ) tel:03-5464-8736
ワタルトミナガ www.watarutominaga.com

※この記事に記載している価格は、2019年9月時点の8%の消費税を含んだ価格です。ただし、商品の発売日(2019年10月1日以降)を記載している場合は、標準税率10%もしくは軽減税率8%の消費税を含んだ価格となります。

réalisation : TOMOKAZU YAMADA, direction de la photographie et montage : YUKI SHIRATORI, musique : KIKAGAKU MOYO , acteur : NIJIRO MURAKAMI, texte : MAHA HARADA, stylisme : SHOTARO YAMAGUCHI(eight peace), coiffure et maquillage : TAKUYA BABA(SEPT)

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