懐かしい郵便局のようなパフューム・メゾン、ドルセー。

PARIS DECO 2019.09.30

7区のバック通り、動物の剥製でおなじみデイロールの並びに新しい香水のブティックができた。ちょっと風変わりなブティックで店名はBureau Postal d'Orsay(ビューロー・ポスタル・ドルセー)。“オルセー郵便局”ですか?

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香水のブティックらしくないビューロー・ポスタル・ドルセー。

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イニシャルはB.P.O。

アルフレッド・ドルセー伯爵と香りの物語。

アーティスト、趣味人、ダンディで知られたアルフレッド・ドルセー伯爵(1801〜1852年)。1830年創立の彼のパフュームのメゾンがここに蘇ったのだ。話術に長け、大勢を引きつけた魅力的な伯爵。ヴィクトル・ユーゴー、バイロン卿、ジョルジュ・サンド、アレクサンドル・デュマ、ナポレオン3世といった当時の著名人たちの名前が友人として挙がる。デッサンや彫刻に腕前を発揮し、彼による詩人ラマルティーヌの胸像はいまもヴェルサイユ宮殿に飾られているそうだ。感受性のすぐれたディレッタントだったのだろうか。友人たちを香りで表現する、ということにも優れていた彼。21歳の時に知り合い彼が恋に落ちた相手は、英国に暮らす詩人であり作家で、当時人妻だったマルグリット・ブレシントンだった。彼女の夫の死後ふたりで暮らせるようになるのだが、それ以前は彼女と離れている時間が辛いことから、彼はふたりのために香りをひとつ調合し、それを生涯ふたりは愛用していた……というエレガントで美しい物語がこの香水メゾンには隠されているのだ。

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ビューロー・ポスタル・ドルセーの店内ディスプレイ。

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ここは郵便局? それとも香水のブティック?

メゾン・ドルセーは1830年の創業以来、イタリアン大通り24番地、ラペ通り17番地、さらにニューヨークのフィフス・アヴェニューといった麗しいアドレスを経由し、今年6月にバック通り44番地にやってきたわけだが、その間にバカラやラリックといったクリスタルのメゾンとコラボレーションも行っている。

パリのアルフレッドとロンドンのマルグリットは、離れている間に夥しい量の書簡をやりとりした。それらは失われてしまったが、新しいブティックはそれらの書簡にオマージュを捧げるべく、郵便局のように構成されているのだ。まるでいまも彼らの書簡が山と残っているかのように……。

33平米とこぢんまりとしたブティックの内装はメゾンのADであるエルワン・ル・ルエールが手がけた。くるみ材と真鍮が多用された店内は、エレガントとモダニティが共存している。家具そして真鍮の仕事はパリのデザイン校であるエコール・ドゥ・ブール出身の家具職人、アルチザンによるもので、製作だけでも1,500時間を要したそうだ。

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アルフレッド・ドルセー伯爵と愛の書簡にインスパイアされた郵便局のようなブティック。

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くるみ材と真鍮の組み合わせによる内装。

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郵便をイメージさせるディテールが店の随所に見られる。

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香りの肖像画。

今年蘇ったビューロー・ポスタル・ドルセーで見つけられる5種の香りは、J.R、S.C、O.W、T.J、S.Pといずれも謎めいたイニシャルが名前につけられている。アルフレッド・ドルセー伯爵による香りの肖像画と同じように、5種の香りはアイデンティティは隠されているが5名の人物の肖像だ。私はJ.R? T.J?……この謎の人物たちの中に、自分の片割れを見いだすようなスリルも香り選びに潜んでいる。昔の郵便局を思わせる小さく区分された整理棚があり、スタンプが並んで……とディテールにも凝った店内。電報を模したムエットに香りを吹き付けて、ひとつひとつじっくりと試してみよう。香りは円筒形のフラコンにおさめられている。モノクロのフランス映画で目にしたことがあるフォルム……プヌと略称された圧搾空気で送る気送管速達郵便に使われていたチューブを思わせる。

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ユニセックスの5つの香りはどれも繊細でエレガントだ。190ユーロ(90ml)。5つの香り(各3.5ml)のセットは55ユーロ。

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鍵付きの郵便受けに並ぶ電報のようなムエット。

ビューロー・ポスタル・ドルセーにはルームフレグランスも5種。06:20 どこかわかる?、 13:30 同じ場所に、03:50この間のように、19:50 こっそりと、21:30シーツの中で……と、これまた謎めいた名前がつけられている。

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小さな容器のパール状のルームフレグランスは45ユーロ(10ml/容器別) 。携帯し、自分の周囲をいつも同じ香りで満たすことができる。

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オブジェとしても美しい真鍮のディフューザー。香りとセットで750ユーロ。

Bureau Postal d’Orsay
44, rue du Bac
75007 Paris
tel:01 43 25 57 02
営)11時〜19時
休)日
大村真理子 Mariko Omura
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。
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