ヴァージル・アブローによるデザインピース20点の展示。
PARIS DECO 2020.01.22
ヴァージル・アブローがパリのギャルリー・クレオからの白紙依頼でデザインしたコレクション“Efflorescence(エフロレサンス/開花)”。昨年9月24日にお披露目が予定されていたが、アブローにドクターストップがかかったため延期に。1月24日、メンズ・ファッション・ウィークでパリに来た彼を迎えてコレクションが発表され、会場に収容しきれないほどの大勢が詰め掛ける盛況ぶりを見せた。
エフロレサンスの展示。©Morgane le Gall Courtesy Galerie kreo
このコレクション、パリにいるからには見逃せないのでは? テーブル、ベンチ、椅子、フラワーポット、鏡……いまの時代、彼が生きている時代の空気がたっぷりと吹き込まれた20ピースがコレクションを構成する。コンクリートに鉱物をミックスしたという特別な素材が家具に用いられ、オーガニックでヒューマンな要素をプラスする花のグラフィティが描かれている。都会のちょっとした隅っこから顔をのぞかせる野生の花のイメージ。これがコレクションのタイトル“開花”の由来である。
椅子は全部で4型。軽い重量を求めた特殊なコンクリート素材を用いているので、重さは25~30kgくらいとか。©Sylvie Chan-Liat / Courtesy Galerie kreo
穴あきの花瓶の中にはガラスの花瓶が。アブローが信頼を置く3区のフローリストCastorに花の仕事は任されたそうだ。 ©Morgane le Gall Courtesy Galerie kreo
アブロー自身によるグラフィティで、展示されている家具はすべて一点もの。オーダーがあった場合は、アブローが蛍光カラースプレーを手にとって新たに制作をすることになる。©Marie Canciani Courtesy Galerie kreo
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このエフロレサンスでインテリアにとりこまれるのは都会、ストリート。スケートボードのスロープを思わせる3mの長さのベンチが、わかりやすい例だろう。これまで庭が室内に入りこむというコンセプトの家具はあったが、このコレクションによりストリートが室内にとりこまれるのだ。なおコンクリートの家具は屋外での使用も考慮され、スプレーの蛍光色の劣化を防ぐコーティングが施されている。ル・コルビュジエの名をもちだすまでもなくコンクリートを素材に彫塑的な表現をとる、ブルータリスムの仕事に通じるコレクション。常に過去に結びつき、未来へと目を向けてデザインをするというアブローらしい。
楕円のテーブル。大型ピースのグラフィティは片面のみ。©Sylvie Chan-Liat / Courtesy Galerie kreo
3mの長さのベンチ2。©Morgane le Gall Courtesy Galerie kreo
巨大なフラワーポット。©Morgane le Gall Courtesy Galerie kreo
iPhoneを連想させる鏡はガラスではなくステンレススチール製だ。鏡には穴があき、それによって鏡に写りこむ周囲、自分の姿は不完全となる。たとえばそこに映る自分をセルフィーして誰かに送ったとしよう。“あなたが見ているのは私のすべてではなく、一部にすぎない”という意味がこの穴にこめられているそうだ。8点までをオリジナルとみなす彫刻と同様の発想で、鏡は1型につき8点の制作。
鏡。©Marie Canciani Courtesy Galerie kreo
ギャルリー・クレオはコンテンポラリーデザインに捧げられたトップランナーのギャラリーとして、20年の長い歴史をもつ。デザイナーを援助し、制作させる、オーナーのクレントゥスキー夫妻の揺るぎなき視点は脱帽ものである。
セーヌ河岸とオデオンを結ぶドフィーヌ通り。2つのウィンドウの間に挟まれて、ギャラリーのエントランスがある。photo:Mariko Omura
会期:開催中~4月10日
c/o Galerie kreo
31, rue Dauphine
75006 Paris
tel:01 53 10 23 00
開)11時〜19時
休)日、月
www.galeriekreo.com
madameFIGARO.jpコントリビューティング・エディター
東京の出版社で女性誌の編集に携わった後、1990年に渡仏。フリーエディターとして活動した後、「フィガロジャポン」パリ支局長を務める。主な著書は『とっておきパリ左岸ガイド』(玉村豊男氏と共著/中央公論社刊)、『パリ・オペラ座バレエ物語』(CCCメディアハウス刊)。