1930~60年代のフレンチシックな装飾芸術と家具展がおもしろい。

PARIS DECO 2023.01.09

モビリエ・ナショナルはもともとは王室の家具の保管•修復が任務で、「Garde-meuble national(国立家具保管所)」という名称だった。1870年にナポレオン3世の失脚の後、現在呼ばれるモビリエ・ナショナルに変更された。いまもフランス国家所有の建物内の家具の保管・修復を使命とし、さらに20世紀半ばからは大統領官邸をはじめとする国有の建築物からの依頼を受けて家具調度品の創造も行っている。

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: 展覧会のエントランス。 中: 会場構成を託されたヴァンサン・ダレ。 右: ダレによるデッサン。photos:(左・中)Mariko Omura

13区にあるモビリエ・ナショナルのギャラリー内で、1月29日まで展覧会『Le Chic! Arts décoratifs et mobilier de 1930 à 1960』展が開催中だ。時代を追って2フロアを巡ると、プラスチックの時代が訪れる前の30年間のフランスにおける家具と装飾芸術の旅ができる。展覧会を構成する約200点の作品はモビリエ・ナショナルの所蔵品で、今回のように1カ所でまとまって展示されるのは初めてだそうだ。その貴重な展覧会のテーマは“シック”。会場構成を任されたヴァンサン・ダレとキュレーションを担当したモビリエ・ナショナルのディレクターであるエルヴェ・ルモンワンヌのふたりにとって、この時代の装飾芸術を形容する言葉は“シック!”でしかありえない、ということからだ。

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左: モビリエ・ナショナル入りしたアールデコの家具。卓上ランプと花器はジャック=エミール・リュールマン。家具はジョルジュ・バルディエール。 中: 大使館や役所は、フランスのサヴォワールフェールの粋を集めて装飾された。 右: アンドレ・アルビュスが室内装飾を手がけた農業省。photos:(左・中)Mariko Omura、(右)Mobilier national/Estelle Bourlaud

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アールデコの家具から展示はスタート。1930年代に制作されたエリゼ宮や海外のフランス大使館のための家具や装飾品が続き、このフロアのメイン会場へと。1937年に開催された「近代生活における芸術と技術の万国博覧会」をテーマに、複数のパビリオンに配置されたサヴォワールフェールの粋を体現する家具調度品が集められている。エントランス中央で来場者を迎えるのは、家具職人アンドレ・グルーによる机とともに、ストローマルケトリーの第一人者リゾン・ドゥ・コーヌが手がけた装飾。彼女がグルーの孫であることから、これはフランスにおける装飾芸術の継承を象徴するアイデアである。この万博時、ラウル・デュフィの『電気の精』が電気館のために描かれたことは有名だが、このパビリオンで紹介された照明器具のためにもスペースが割かれている。

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左: 1937年万博をテーマにした部屋。 右: アンドレ・グローのデスクを中央に置いて。photos:(左)Mobilier national/ Jusstine Rossignol、(右)Mariko Omura

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©︎ Mobilier national/Estelle Bourlaud

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左: マルセル・ベルグ作ライティングテーブル。1937年。 右: バゲスの壁掛け照明器具。photos:Mobilier national/ Isabelle Bideau

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階段の途中に掲げられたジャン・リュルサとジャン・ピカール・ル・ドゥの巨大なタピスリーを鑑賞しながら、上階へと。最初の小部屋は戦時下にモビリエ・ナショナル入りした家具に捧げられている。その後、1940年代から時代順にピリオドルーム的に展示が続く。占領下、1945年に国有となり、文化省などが入っていた7区のKinsky(キンスキー)邸の贅を極めた装飾芸術を紹介。次の国際会議がよく開催される大統領の別邸ランブイエ城については、当時を代表する装飾家アンドレ・アルビュスにより1940年代に現代的に生まれ変わった姿を見せている。フランスの第16代大統領であるジュール=ヴァンサン・オリオール(1947~1954年在任)が暮らしたエリゼ宮のモダニティ、1940年代にシャルル・ド・ゴールを短期間迎えたマルリー城の狩猟館の贅沢と豊かさ……と展示が続く。その間、シンプルなフォルムをベースに素材と職人技が作り上げる贅沢な家具類に何度も目を奪われるはずだ。

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戦時中に贅沢産業をサポートするべく、洗練されたリュクスな家具をモビリエ・ナショナルは購入し続けた。

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左: 7区のサン・ドミニック通りにあるキンスキー邸。ヴァンサン・ダレによるクリスチャン・ベラール風のペイントにより1940年代の雰囲気が空間に再現されている。 右: ランブイエ城。アンドレ・アルビュスの仕事に注目を。photos:Justine Rossignol

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左: エリゼ宮。オリオール大統領のためのバスルームは椅子、化粧台、カーペットの全てがコレット・グダンによるデザイン。 右:1940年代末に装飾されたマルリー城の狩猟館。photos Justine Rossignol

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最後は「1950年代のシックで実用的。装飾からデザインへ」と題して、5名のデザイナーにフォーカスしてその仕事を展示。それまでの展示に比べて、ぐっとカラフルだ。5名のうち2名はシュザンヌ・ギギション、ジャネット・ラヴェリエールという女性である。なお、女性という点でいえば、コレット・グダンに託されたオリオール大統領官邸のバスルームもこのフロアでは見逃せない。展覧会では展示作品の修復に関わった職人たちの仕事を展示脇のスクリーンで見せている。フランスの貴重なサヴォワールフェールを存続させるために不可欠な職人仕事。それを支えるのもモビリエ・ナショナルの大切な役割なのだ。

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左: 1950年代に入ると、雰囲気が一転する。マルク・デュ・プランティエの部屋。 右: シュザンヌ・ギギションが家具デザインを含め室内装飾した寝室。photos:Mobilier national/ Isabelle Bideau

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左:ジャネット・ラヴェリエールの部屋。モダンなタペストリーはFerinand Springerによる。 右:ラファエル・ラフェルの部屋。photos:Mobilier national/ Isabelle Bideau

『Le chic !  Arts décoratifs et mobilier de 1930 à 1960』展
開催中~1月29日
Mobilier National
42, avenue des Gobelins 75013 Paris
開)11:00~18:00
休)月
料金:8ユーロ
www.mobiliernational.culture.gouf.fr

 

editing: Mariko Omura

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