9区、ミスタンゲットのアールデコ空間で愉しい食事を。
PARIS DECO 2023.04.18
カクテルなど食前酒の時間に訪れて空間を堪能するもよし。メニューもチャーミングだ。photos:(左・右)Mariko Omura、(中)Leo Kharfan
サウス・ピガールの一角、1891年からの歴史を持つ「Casino de Paris(カジノ・ドゥ・パリ)」がある。といっても、ここは賭博場ではなく劇場だ。1930年代に華やかなレビューでパリ中を魅了した。パリでは1920~30年代のアールデコ期に、このカジノ・ドゥ・パリをはじめ市内のミュージックホールで活躍したふたりの女性がいる。ひとりはおなじみアメリカ人のジョセフィン・ベーカー(1906~1975年)で、もうひとりはフランス人のミスタンゲット(1873~1956年)だ。後者が1897年にカジノ・ド・パリでデビューしたのが、ここカジノ・ドゥ・パリ。彼女はムーラン・ルージュやフォリー・ベルジェール、さらに海外でも歌い踊って……1937年にカジノ・ドゥ・パリで最後の大がかりな公演を行ったスターである。クチュリエのポール・ポワレがデザインしたコスチュームで舞台に立つなど、彼女はいまでいうところの“セレブ”だったのだ。1920年代の初めにカジノ・ドゥ・パリの2階には、彼女が名付け親となったブラッスリー「le Perroquet(ル・ペロケ)」がオープンしている。煌びやかなシャンデリア、ステンドグラス、店名にちなんだオウムのモチーフの絨毯という内装で、アーティストはもちろん海外の王室からの賓客も姿を見せるシックなブラッスリーだったという。
左: 劇場カジノ・ドゥ・パリの2階にミスタンゲットがオープンした。中: 劇場のナポレオン3世様式の吹き抜けのホール。右: レストラン内、ホールを見下ろすテーブル席、カウンター席も設けられている。photos:Mariko Omura
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月日は流れ……そのル・ペロケのあった場所に、この春、レストラン・バー「Mistinguett(ミスタンゲット)」がオープンした。カジノ・ドゥ・パリが生まれた時のままの巨大な半円窓のステンドグラスに迎えられる空間だ。ユーゴ・ヴァンスとアデル・ヌーリィが率いるHA エージェンシーにインスピレーションを与えたのは、ミスタンゲットの全盛期である狂乱の1920年代。ル・ペロケのアーカイブをもとに、当時のパリのブラッスリー的雰囲気を醸し出す内装を仕上げた。そのために、天井から下がるムラノ・ガラスの見事な2つのシャンデリアをはじめ、当時のインテリア・エレメントをフランスのみならずベルギーやイタリアなどで掘り出したそうだ。天井は空をイメージして、アーティストのマチアス・キスが仕上げたフレスコ。なにやら華やぎのある陽気な店内なので、席についただけで心が弾んでくる。なお、この店に来たら、化粧室の訪問も忘れないように。中央に鎮座するのは、ふたりの女性アーティストがミスタンゲットをイメージして製作したカラフルな女性像。そこが手洗い場となっている。壁の鏡、窓のステンドグラス……色彩あふれる小さな空間だ。
階段を上がって2階に到着すると、このステンドグラスに圧倒される。photo:DePasqualeMaffini
左: 奥まった半個室風テーブル席。 中: バーカウンター。 右: ヴェネツィアングラスのシャンデリアが下がる店内。photos:(左・中)Mariko Omura、(右)DePasqualeMaffini
左: マチアス・キスによる空をイメージした天井。 中: 化粧室の中央に、キャロリーヌ・デルヴォーとマルゴー・デリィという2名の女性アーティストによるミスタンゲット像が。 右: カジノ・ドゥ・パリを仕切っている若いチームのマガリ・フォール(右)とバンジャマン・ドゥ・メイ(中)、そしてシェフのエティエンヌ・ダヴィオー。photos:(左・中)Mariko Omura、(右)DePasqualeMaffini
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メニューに並ぶのは、ヌーヴェル・キュイジーヌのテクニックを生かしたパリ的でクラシックなビストロ料理。シェフのエティエンヌ・ダヴィオーは全盛期のアラン・サンドランスの元で働き、その後はブリストル・ホテルではエリック・フレッションと……というようにガストロノミー界で15年の経験を持つ。季節の素材を用いているので、年に8~10回くらいメニューは変わるそうだ。ランチ、アペリティフ、ディナー……カクテルも含め、満足の味ばかり。劇場内のレストランなので公演後の食事客のため、また劇場に関係なしに遅い時間に食事をする人のためにディナーは、22時30分からがセカンドサービスとなっている。場所への好奇心があったり、食事時間がとれないのであれば、19時~20時のアペリティフタイムに来てみてはどうだろうか。ジョゼフィン・ベーカーやジジ・ジャンメールなど劇場なじみのアーティストたちの名前をつけたカクテルやグラスワインといった飲み物だけでなく、とうもろこしの天ぷらやパルメザンのマドレーヌ、チーズの盛り合わせなどシェアして楽しむメニュー(19時~21時)も用意されている。
前菜4種と本日の前菜は13ユーロ〜。カリフラワーのムニエル(14ユーロ、写真中)やバターナッツのヴルーテ(13ユーロ、写真右)など、なかなかのボリューム。前菜2点というランチも悪くない。photos:Leo Kharfan
メイン5種と本日のメインは25ユーロ〜。ヴァン・ジョーヌ・ソースのチキン、ラヴィオリ、骨つき子牛肉のパルメザン入りパン粉焼き(2名用)など。photos:Leo Kharfan
左: チーズは3種盛り(12ユーロ)あるいはカートサービス(22ユーロ)。 中・右: ひと捻りしたクラシックなデザート。なお食後のカフェにはちょっとしたスイーツがサービスされる。photos:(左・右)Leo Kharfan、(中)Mariko Omura
(Casino de Paris 2階)
16, rue de Clichy
75009 Paris
営)ランチ12:00~15:00、アペリティフ19:00~、ディナー20:00と22:30(バーは~翌2:00)
休)土曜ランチ、日曜ランチ&ディナー、月曜ディナー
www.mistinguett.paris
@mistinguettparis
editing: Mariko Omura