フランスで鼻をかむ時、ポケットティッシュの分厚さに恐れおののく日本人は多いだろう。
この分厚いポケットティッシュはフランスだけではなくヨーロッパ全土で主流なのではないかと思うが、こと日本では出合ったことがない。

日本では街頭で配っている無料のポケットティッシュさえ、ふわふわのすべすべで鼻に当たる感触はもう、当たっていないのと同じといっても過言ではない。いや過言かもしれないがとにかく「細心の注意を払われている」と感じるほどに肌当たりが優しいのはたしかだ。

ティッシュが分厚いと、「初見でびっくりしてしまう」ことのほかに、ふんわりティッシュに慣れてしまった私のように脆弱な鼻はすぐに皮膚を「やってしまう」こと、さらに「こんな分厚い紙を、ちょっと鼻をかんだだけで捨ててしまうなんて」と日々破壊されていく森林を思い罪悪感を抱えてしまう、といったデメリットがある。

しかしフランスにふんわりティッシュがないわけではない。思春期の心のように繊細な鼻の皮膚を持つ族のみなさんのため、ふんわりティッシュはちゃんとスーパーなどで買うことができるのだ。鼻にふんわりティッシュを使うか、それともバリカタ剛健ティッシュを使うかは個人で選ぶことができる。

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ある時、カフェでフランス人女性のEちゃんと時間をつぶしていると、彼女がティッシュを求めるので鞄に入っていたポケットティッシュを渡したことがあった。それは日本から持ってきたポケットティッシュで、私としては梅ヒジキふりかけと同じくらい希少に思い大切にしているものだったので「さあ、かみたまえ」といった風情で意気揚々とEちゃんに渡した。彼女にふんわりティッシュの優しさを感じてほしかった。

ところがEちゃんは顔をそむけることもなく堂々と正面を向いたまま盛大な音を立てて鼻をかんだあと、「手についちゃう」と言った。なんと私が自信を持って渡したふんわりティッシュは、彼女には「薄すぎて頼りなく」「手についちゃいそうだから思い切り鼻をかめない」代物だというのだ。

こうなると話はずいぶん変わってくる。

これまでは「鼻に気を使う日本ティッシュ」vs「鼻に厳しめフランスティッシュ」という構図であったのが「鼻に気を使う日本ティッシュ」vs「決してはみ出ないよう気を使うフランスティッシュ」という構図になってくるのだ。どこに気を使うのかという問題だ。

さらにこの問題は、Eちゃんがそうしたように「鼻は隠れてかむものではない」という意識の違いも関係しているかもしれない。日本では、その様子を見られるのも音を聞かれるのも恥ずかしいという人が多く、出先ならだいたいの人がお手洗いなどで隠れて鼻をかむと思う。一方こちらの人は鼻をぐしゅぐしゅいわせるのはみっともないことなのだと、その場ですぐにかんでしまう。それならたしかに「決してはみ出ないよう」包容力のあるティッシュを選択するのは理解できることだ。

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おまけに1回鼻をかんだティッシュをまたポケットにしまい、数回使う人も少なくない。
一度「先月から使っている」という剛の者に遭遇したこともある。たしかに彼は若くやんちゃなところのある青年だったが、朝自宅で丁寧に入れたハーブティーを水筒に入れて持参し、私にも勧めてくれるような細やかさのある人物でもあった。決してズボラが原因でひと月も使用済みティッシュをポケットに入れっぱなしなわけではないはずだ。

ひと月もののティッシュを前に絶句していると、彼は「みんなこうしてるよ」と、日本人には効果抜群のフレーズで私をけん制した。ちなみにそのあとマッチングアプリを使いたいので一緒にプロフィールを考えてほしいと言われ、アピールポイントとして彼は「働き者で倹約家」「一途な性格」を絶対入れたいと主張していた。優しく芯のぶれないところが好きで彼とはずっと仲良くしているが、常に鼻をかんだティッシュがポケットに入っていることは特に人間的魅力を損なうものではないのかもしれない。などといま書きながら思ったが、常に鼻をかんだティッシュがポケットに入っていなければもっと彼のことが好きになったかもしれない。

話は反れたが、1枚のティッシュで何度も鼻をかむ派のあいだでは、果たして何日くらい使い続けるのが平均なのかわからない。しかし日本のふんわりティッシュを1カ月使い続けるのが無理に違いないことはわかる。それに私が冒頭で心配していたように、エコの観点からいえばこのように月に1枚のティッシュしか使わないことは環境に優しい選択だろう。

ただし感染症対策から考えれば最低最悪の行為であるため、コロナ禍ではすぐにフランス政府から国民へ、一度鼻をかんだティッシュを何度も使うことはやめ、すぐに捨てるよう、わざわざお達しがあった。

こうして、ひとつの時代、習慣が変わっていくのだ。しかしこの件に関してはまったく残念だとは、感じていない。

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