まるで日本の正月? クリスマスに帰省したくないフランス人の苦悩。

パリのクリスマスは、クリスマス当日よりもクリスマスが近づく雰囲気こそが好きだ。

空気が冷たくなり、もの寂しさとわくわくするような気持ちが交互にやってくる。

ある時、これは日本で過ごす12月の、年末が近づき正月を待つ気持ちと似ている、と思いついた。クリスマス当日のパリの街も、まさに日本の正月を過ごしているような空気に満ちているのだ。

そう思いつくとますますクリスマスを待つのが楽しくなった。私はだいたい気心の知れた人同士で好き勝手なクリスマスを過ごすことが多く、フランス人一家に招待され本格的に家庭的なクリスマスを過ごしたことは一度しかない。それでも、いや、だからこそ、のんきにフランスのクリスマスの雰囲気っていいよね、などと言えるのかもしれない。毎年フランスの義実家でクリスマスを過ごす日本人女性の中には、濃密な親戚付き合いと次々出てくるこってり料理で「胃腸がギシギシきしむ」と悩む人だっているのだ。

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さて、以前、私の真上の部屋に住んでいたM君は、おしゃべり好きなのにテンションが低くシャイ、という不思議な印象がある人だった。最初に会った時は、パリにある大学の修士課程に在籍する学生であった。

M君はパリジャンではなく、実家はフランス南東部にある。クリスマスが近づいたある年、会話の流れで何の気なしに「クリスマスいつ帰るの?」と聞いた。すると彼はあからさまに嫌そうな顔をした。

「クリスマスうんざりなんだよ。どうにかして帰らないですむ方法ないかな」

その時の私は、まさかフランス人でクリスマスが嫌だという人がいるとは考えていなかったのでびっくりしてしまった。なぜ嫌なのか聞くと、まずプレゼントを用意するのが億劫だという。

「もう、何を買ったらいいのかわからない……」

そう言ってうなだれるM君は“途方に暮れる”という言葉を全身で表現していた。

え、それが理由?と思ったが、納得はした。プレゼントを全員分選んで買うのが面倒だと言うフランス人にはよく出会うからだ。ただそれにしたって休暇はうれしいもので、プレゼントを買うのは面倒でも、帰省したくないとまではっきり言う人に会ったのは初めてだった。

しかしよく考えてみると、たとえば私が毎年、正月に集まる親戚全員にプレゼントを選んで渡すとなれば、ずいぶん面倒なことだと思う。プレゼントというのは、ひとりひとりの好みや年齢や生活スタイルや信条まで把握していないと良い選択はできないものだ。現代の日本の正月は子どもがいればお年玉を渡すけれど、お金を贈るというのはずいぶん合理的だし楽だと思う。最初にお金にしようと言い出した人物のファインプレーである。

もし私が本当に、正月に集まる人全員にプレゼントを買わなければならないとすればどうするだろう?
おそらく数年試行錯誤したのち、結局は大人に商品券、子どもに図書券、というような「ザ・汎用性」のプレゼントに落ち着くのではないか。そしてここがポイントなのだが、私の親戚中にそれを贈られて嫌がる人はいないと思うのだ。最終的には全員、これがいちばんだな……と考え始め、そのうち商品券とカタログギフトの応酬となるかもしれない。
フランス人だってプレゼントが気に入らなければ返品して自分の好きなものに替えてもらう場合もある。それならいっそのこと最初から自分で選べるプレゼントが最良ではないのか?

私は余計なお世話かもしれないと思いつつ、念のためM君に、全員商品券にしたらどう?などと囁いてみた。
彼は何とも言えない目つきで私をしげしげと眺め、「母と祖母は絶対怒る。特に母は許さない。でも母は何をあげても喜ばないんだよね」と力説した。

私は一度、彼のお母さんと話したことがあった。電話がかかってきたのだ。電話番号は大家さんに聞いたと言って、彼女は私の部屋について早口で質問し、さんざんフランス語でしゃべったあと最後に「サンキュー」と言ってぶった切るように電話を切った。個人的には“嵐のような人”という印象しかない。たしかに穏やかなクリスマスを過ごすためには、怒りを買うのは得策ではない。

「あと叔父さんに長い同じ話を何度も聞かされる。いつも僕がターゲットだし、本当に本当に長い話なんだ」

こうなってくるとまるっきり、親戚にあれこれ言われるのが嫌で正月に帰省したくない日本の青年そのものである。そのあともぽろぽろ零れ落ちてくるM君のクリスマスぼやきに、私は激しく共感していた。

コロナ禍でも当然にクリスマスは決行され、M君は何だかんだと言いながらきちんとプレゼントを用意し帰省し続けていた。このコラムを書くにあたり彼にメッセージを送ってみると、「言ったかどうかわからないけど、夜までたくさん食べさせられるのも、あれも辛いよ」とクリスマスぼやきの続きを話してくれた。大柄だけど小食で食に興味がなく、具なしのインスタントラーメンをほぼ毎日食べているM君のことだからだいたい予想はついたが、雑煮が苦手なのに正月には餅2つを義務付けられるのが辛い私としてはまた、大きくうなずく話でもあった。

text: Shiro

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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