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「ファッションに対するコンプレックス」を誰しもひとつくらいは抱えていて、それが「自分にはできないが憧れる」という気持ちだと定義するなら、私がコンプレックスを抱くのは「ベリーショート」である。

なんだかベリーショートの人を見ると、「自由でなにも恐れていない人」というイメージが勝手に湧き上がってくるのだ。

はじめてクリスティーナ・コルデュラをTVで見たとき、私のそのベリーショート・コンプレックスは爆発した。

クリスティーナ・コルデュラ

最初に観た彼女の番組は、「Nouveau Look pour une Nouvelle Vie (新しい人生のための新しいルック)」というもので、日本でも存在していたことがある、もしかしたら世界中に存在しているかもしれない、

「自分の見た目に無頓着な人を、ファッションやメイクのプロの手でおしゃれに生まれ変わらせる」

という趣旨の、改めて考えてみればずいぶんお節介な気がするあの手の番組だった。

番組の構成としては、まずホストと依頼者が面談してから、変身前の依頼者の写真をパリの街行く人に見せてどう思うかを尋ねてまわる。人々は「60年代からずっと同じ服を着てるみたい」とか「とにかく悲しそう」とか容赦なく感想を述べ、それをモニターで依頼者に見せて「自分の見た目がどう思われるか」知るところから始める。

その後、ヒアリングをして依頼者のためにクリスティーナが服を選ぶ。そしてメイクとヘアをそれぞれのプロに依頼し、最後に目隠しをパッと外して鏡に映った自分の姿を見せるというものだ。依頼者は変身後の自身の姿を見て感極まり泣いたりもする。その後、家族や友人らと再会し、みんな変身した依頼者の姿に驚き、喜び、ハッピーエンド、大円団という筋書きだ。

こうして書いてみても、日本で観られる変身番組ととてもよく似ている。

ただ私が特にこの番組でフランス的だなと思ったことは、

・女性はとにかくハイヒール
・歩く時は脚ではなく腰で歩く練習をさせる
・胸毛の多い男性には躊躇なくワックス脱毛
・人によっては脚までベリベリ脱毛

といったことだ。特にラテン民族間では良しとされていると私が勝手に思い込んでいた「胸毛」をクリスティーナが「悪し」としていたことはなかなか衝撃だった。私はこういったクリティーナ独特の変身法を興味深く思い、結構熱心な視聴者となったのだった。

……と、ここまで書くと、この手の番組がこの世から徐々に消えていった理由がはっきりとわかるはずだ。まったく時代に合わない。

この番組を私が見始めた時にはすでにクリスティーナがひとりでホストを務めていたが、その前には別のホストだったり、クリスティーナと共同ホストであったりしたようだ。そのころには視聴者に問題視されるような発言、例えばあるホストは依頼者との面談で「あなたが(その服装を)好きかどうかは問題じゃない、男性に好かれるかどうかが問題なの」などと言ったりして、「中世か」と批判されるようなこともあった。

クリスティーナがハイヒールや腰歩きを勧めるのも、やはり「単にクリスティーナの好み」というだけでは旧時代的という批判を免れないだろう。

それでも私はクリスティーナが最終的にこの番組のホストとして残ったのは、クリスティーナの人柄やオープンなイメージが大きいように思う。
彼女はいつでも、どんな指導をしようと、依頼者に対して感じが良く、礼儀正しくて、ネガティブな言葉を使わない。通常こういう番組では依頼者の「変身前」の格好に対して、必要以上に毒を吐き視聴者の興味をあおったりするものだが、そんなこともない。「それは良くない」と述べる場合でも、そこには必ず愛が感じられる。

彼女はいわゆる「好感度」で人気を継続させているタイプのタレントだと思う。しかし、もし私がそんな「好感度タレント」の位置を得てしまった人間だったとしたら、その地位を守るために今度は多大なストレスを抱えてしまうと思う。

でもクリスティーナはそんなに小さな人ではない、私がやっぱり彼女のことが好きだと思ったのは、彼女が出演していた番組で共演者の男たちから「アクセント」をからかわれた時のことだ。

クリスティーナはブラジル生まれで、いまでは2つの国籍を得てフランスに住んでおり、フランス語にはかなり特徴的なアクセントがある。正直いってとてもマネしやすく、すぐに彼女だとわかるし、タレントとしてはそのアクセントも彼女を他から差別化する要素でもあると思う。

男たちは番組内で「クリスティーナが言いそうなファッション批評」を口にする形で、彼女のアクセントをマネてみせた。

私は、その時の彼女をどうしても自分に置き換えて考えてしまう。自分だってアクセントのある外国人だからだ。そして「もし彼女の立場だったら」と考えてみたとき、どうしても、どうやっても愛想笑いをしてしまうのだ。そうして自己嫌悪に陥ってしまう。トラブルになりたくなかった自分。好感度を落としたくなかった自分。

でもクリスティーナはニコリともしなかった。そして男たちにきっぱりと「特にやる必要もなかった私のアクセントのマネをして、何がしたいの」と落ち着いた声で言った。

男たちはあからさまにうろたえて、押し黙ってしまった。彼らだって、おそらくいつも誰にでも優しく親切なクリスティーナだから、そのイメージに甘えようと思ってそんなことをやったに違いない。でもクリスティーナは彼らの甘えにサービスしてやることもなく、自分の言うべきことをきちんと言ったのだ。

それは確実に彼女以外の人のためにもなる行動だった。私はその日正式に彼女のファンとなり、自分がいつか同じことをされた時には(まだそのチャンスは巡ってこないが)、同じようにしようと日々シミュレーションしている。

コルデュラが出演する「Les Reines du Shopping」

上記の番組は2018年を最後に新しいものは放送されていないようだが、数人の女性が時間制限内で決められた金額内の買い物をし、有無を言わさずそれを着てキャットウォークし批評し合うという「Les Reines du Shopping(買い物クイーン)」という番組もある。こちらもおもしろいので機会があったらぜひ観てほしい。

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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