「美しい人生を(Plus Belle La Vie)」というフランスのハチャメチャメロドラマが、11月18日ついに最終回を迎えてしまった。2004年から放送を開始して、最終回までに4665話、3290の人物が登場したという超長寿ドラマである。

 

18年間放送されたフランスの超長寿ドラマ「美しい人生を(Plus belle la vie)」のキャストたち。

私はこのフィナーレを感慨深く迎えたわけだが、この気持ちを共有できる人物は、まわりにただのひとりも、いない。

このドラマを観ていると言うと、日本人もフランス人も(フランス人の方はより明確に)「!? あ、ああ……」という若干気まずそうな、そんなことを言われてなんと返事していいかわからないというような反応がほとんどである。

そしてその気持ちは私にもよくわかる。渡仏当初、家にいる時にはとにかくTVを垂れ流しにしていたのだが、このドラマだけはどうしても観る気になれずチャンネルをすぐに変えていたものだ。

ドラマの舞台は南仏マルセイユで、架空の地区“ミストラル”の住人たちが入れ替わり立ち代わり主役になったり脇役になったりする。住人たちの人生に起こることを描いているので、そのテーマは進学や仕事や恋愛や家族の問題であり、私たちも共感しやすい事柄であるはずだ。

しかし彼らはその出来事に対し、
カンニングをしたり、
脅迫をしたり、
ライバルを陥れるために嘘をついたり、
ものすごく簡単に詐欺にあったり、
60代の女性が恋をした元マフィアの男に近づくために娘の強盗計画に協力することにしたりと、
まったく共感とは程遠いアプローチをし、スタート地点から明後日の方向へどこまでもどこまでも走っていき、決してゴールをしない。こうして書いていても何が何だかよくわからないドラマである。

登場人物たちはみんな身勝手で愚かしく、粗暴で乱暴な言葉づかいも多く、最初はこんな俗悪なもの絶対に観るわけがないと思っていたのだが、このドラマの熱心な視聴者から半ば強引にすすめられ、義理を果たすために渋々視聴したのが始まりである。

気が付くと、あまりの超展開にいつのまにか夢中になってしまう自分がいたのだ。

住人たちの愚かさにもどかしくなり、ストーリーの猛烈さに常識を吹っ飛ばされてしまう。
この感覚は、私がかつて南米の超展開メロドラマに夢中になったときに似ていて、やはりフランス人もラテン系であるだけにこういった――これは誉め言葉なのだが――非常識極まりないドラマを作る能力に長けているのかもしれない。私が大好きな米ドラマの「アグリー・ベティー」だって、もとはといえばコロンビアのドラマをリメイクしたものだった。

そんな風に次々とジャンピング・ジャック・フラッシュ展開を繰り広げていくドラマの中で、私にとって癒やし的存在だったのが「ナタン」というキャラクターだった。もともとは破滅的な思春期の少年として登場したらしいが、私が観始めた時にはすでにミストラルで高校教師として働き始め、少し貫禄も出てきた頃だった。友人たちと部屋をシェアして暮らし、恋愛ごとが苦手で、ゲームが好き。まさに現代フランスで最も「いそうな」キャラクターだ。

 

「美しい人生を」の登場人物のひとり、ナタン。

あまりにも気軽に不倫したり逮捕されたりと、決して平凡な人生を送ることができない周囲の人々を尻目に、斜に構えたシニカルな態度をとりつつも、シニカルになり切れず馬鹿にされたりもするナタン。

ある日パンを買いにレピュブリック広場を歩いていると、私の目の前をそのナタンが歩いてくるのに気付いた。

ナタンだ……!

興奮した私は、しかしその興奮をいったいどこへぶつければよいのかまったくわからなかった。この興奮に共感してくれるような友人は誰もいないのだ。周りを見回しても誰もナタン(というか俳優のティボー・ヴァネックだ)に気が付いた様子はなく、スマホで写真を撮るような人もいない。パリはもともと「どんな有名人が歩いても誰も騒がないので居心地が良い」と多くの人がいうような街だが、たぶんそれだけが原因なのでは、ない。

私はただナタンをチラ見しながらやり過ごし、私に「美しい人生を」をすすめてきた、周りで唯一の視聴者であるはずの人物に連絡を取った。しかし返ってきたコメントは「最近あんまり観くなったんだよねえ」であった。

孤独だった。

「美しい人生を」が終了するのもこういった世間の変容を感じ取ったからだという。しかし私はこれほど俗物と知りながらも頭を空にしてひたすら見続けていられるドラマをほかに知らない。住人たちの愚かしい行動もだんだん愛おしく感じられる瞬間もあり、いろんな世代の人物が人生を楽しむさまを見せてくれるのも、ヨーロッパのメロドラマに特徴的なのではないかと思う。

もしかして日本でも放送してくれることにならないかなあ……。

そんな期待を込めつつ、今回は「美しい人生を」の最終回を記念してこのコラムを書き記しておきたかった。長く続いたものが終わるのはさびしい。それは仕方がないのだけど、少しでも興味を持ってくれる人がいればいいなと心の片隅でそっと願う。

パリの片隅で美容ごとに没頭し、いろんな記事やコラムを書いたり書かなかったりしています。のめりこみやすい性格を生かし、どこに住んでもできる美容方法を探りつつ備忘録として「ミラクル美女とフランスの夜ワンダー」というブログを立ち上げました。

パリと日本を行き来する生活が続いていますが、インドアを極めているため玄関から玄関へ旅する人生です。

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