セレクトショップではなく、服好きのためのサロンという場を求めて。
シトウレイの東京見聞録 2019.06.06
「服を消費されるのは仕方ないと思うんです。でもそれだけで終わらせたくない。ファッションを文化的にとらえて伝えていきたくて」
代々木駅からほど近くの雑居ビル2階。ほのかに漂うニュアンスのある香り。品良くそして清潔で、ちょうどいいくらいに雑多さもある気持ちのいいこの場所は、元ドーバー ストリート マーケットのショップスタッフ兼バイヤー(ちなみにこのダブルスタンダードな立ち位置は彼がDSM史上初!)、のささこくんが始めたセレクトショップ。私と彼はソファに座って話をしている。
買い付けたヴィンテージやデッドストックのエルメス。パリ郊外のシャンティイ競馬場で毎年開催されるディアヌ賞の過去のポスターが壁に飾られている。
「このお店を始めたのは、ファッションをただ消費されるもので終わらせることなく、その背景などを紹介していきたかったからなんです。僕が言う『紹介』っていうのは服ではなくて……、つまりそれを作っているデザイナーだったり、そのクリエイションの背景やコンセプト、こだわったディテールの部分とか……、その『濃厚』な部分を伝えていきたくて」。自分の思いや考えを伝えるのにふさわしい言葉を自分の中から探しだすように、彼は慎重にゆっくりと話す。知性的な男の人だな、とその姿を見て私は思う。
マリーンセルや、フィービーがデザイナーを務めていた頃のセリーヌのデッドストックが並ぶ。
「そうしたら単に服ではなくて、そのブランドに対する興味関心、ひいては愛着につながっていくから、次のシーズンもその次のシーズンもクリエイションを観ようって気持ちになりますよね。その中で気になったもの、実際自分で身に着けたいものがもし見つかったら、そのタイミングで買ってもらえればいいかなって。なので僕のお店のスタンスとしては『買ってくれ』っていうより、『(このブランドの魅力を)聞いてくれ』、そういうところにあるんです」。トレンドだからとか、単にカワイイ!かっこいい!って一目惚れでの消費はつまり「なんとなく」がその理由だから、刹那的で再現性がおぼつかない。対して長く続く関係性の中での消費は、デザイナーやブランドへの深い理解がベースにあって、買う方としても意義のある、納得できる買い物になる。「デザイナーやブランドにとっても長い目で見ると、そういうスタンスの方がよいんじゃないかなって思います、もちろん時間はかかりますが」
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なんとなく、それってアートの買い方と似ているなって私は思う。たとえばひとつのアート作品を買う場合、それはもちろんそのクリエイションを気に入って、というのが大前提としてあるけれど、もうひとつとしてはそのクリエイションのコンセプトだったり、アーティストの思想に感化され、「応援したい」って気持ちが後押ししてくれて購入する。
店内にあるアートブックや写真集、什器もすべて購入できる。お客さんと写真集を眺めたり、DVDを一緒に観たりすることもあるそう。
「買い付けの基準は、まず作ってるものにちゃんとクリエイティビティがあること。コンセプトやアプローチ含め、作ったものの生地を変えて、とかディテール少しいじってとかの焼き直しじゃなくて、毎シーズン、いちからちゃんとやっていること。あと、デザイナー個人の趣味嗜好も見るようにしています。テーラードが好きだったり、家具にこだわりがある、とか僕自身も共感を持つデザイナーのものがいいなって。なので必然的にそろうのは蘊蓄があるブランドが多いんです。そういったものは写真やメディアで伝えるのは難しいからこそ、話しながら伝えられるお店があったらいいなって思って」
信頼のできるパタンナーと打ち合わせをして作った一点もののジャケット。各¥56,160
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ここは単なるセレクトショップというよりも、ある種サロン的なところなのだ。いつもは行かない場所にわざわざ出向いて、服ひとつひとつに込められた強い思いやコンセプト、ブランドやデザイナー自身の背景などの話を通し、濃密な時間をそこで過ごすことによりファッションの情熱のバトンを引き受ける。まさにそれこそいまの時代のファッションにおいて必要なピースなんだなって私は思う。
ファストファッションやネットショッピングは安くて、イージーに服が買える。ウキウキもするし、ワクワクもする。便利で楽で楽しい反面、ただその『軽薄』が少し心にノイズを感じてて。なんというか100%での心からの充実、満足感というかが若干少し足りなかったのだけれど、私はそれをうまく言葉で説明ができずにいたのだ。つまり、「ま、いいか(実物見てないけど)」や、「ま、いいか(安いから)」で買ってた「ま、いいか」が足を引っ張っていたというか。「ほぼほぼ満足」という中途半端な充実の後ろに隠れてくすぶってる物足りなさ。
サイ・トゥオンブリーの作品を、柄としてビーズで表現した一点もののシャツ。¥94,500
彼と話をしてて喉の奥でなかなか取れなかった魚の骨が、ようやく取れたみたいなスッキリとした気持ちになる。彼のお店で何かを買う時は、100%の自信を持って、惰性のない買い物ができるんだと思う。そして惰性がない物の買い方は、ファッションへの向き合い方の背筋を必ず伸ばしてくれる。
オーナー兼バイヤーの笹子博貴くん。店名はささこくんがいちばん好きだという映画監督ゴダールの名前から。
いま、求めてたのは濃密さ。
「濃密」。それはネットでものが買えるようになった時代におけるお店の存在意義であり、そして、服を、ファッションという文化を「次」に繋げていくためのキーワード。
日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー/ジャーナリスト。
石川県出身。早稲田大学卒業。
被写体の魅力を写真と言葉で紡ぐスタイルのファンは国内外に多数。
毎シーズン、世界各国のコレクション取材を行い、類い稀なセンスで見極められた写真とコメントを発信中。ストリートスタイルの随一の目利きであり、「東京スタイル」の案内人。
ストリートスタイルフォトグラファーとしての経験を元に TVやラジオ、ファッションセミナー、執筆、講演等、活動は多岐にわたる。
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