ブランド&顧客ファースト。アマノジャクの急成長の秘密。
シトウレイの東京見聞録 2020.12.28
「関係性を大事にしたいんです。対お客さんにも、対モノにも、対ブランドに関しても」
アマノジャクの小山くんは話し出す。千駄木の昔ながらの喫茶店で私たちは向かい合ってる。
「僕らはお店で買ってもらった商品に関しては『何かあったらなんでも言ってね』というスタンスを徹底してます。何か不具合があった時の修理だったりメンテだったり、毎日のケアの相談だったり……。たとえ購入したブランドでの修理やメンテナンスが難しかった時にも、なんとか対応できる会社を探してお客さんに伝えます。クリーニングが難しいとよそで断られたアイテムでも、なんとかやってもらえるお店を探したり。僕、自分達が大事に買い付けたモノを“売りっぱなし”にするのは嫌なんです。アマノジャクで買ったモノをずっと大事にしてほしい。じゃあどうしたら大事にしてくれるのかと考えた時、“セレクトショップ”という立場の僕らができることは、リペアとメンテナンスの担保だなって思ったんです。お客様に買ってもらったモノに対して責任を持つ、買ったその先もアイテムに対して面倒を見るということ。そこは大事にしていきたいな、と。
もうひとつ、僕らは顧客カルテを大事にしてます。買ってくれたモノのメンテナンスのためという意味もありますが、顧客との関係性をより深めたものにしたいから、接客の時に話した些細な内容もスタッフみんなで共有していて。こういうスタンスを徹底することで、お客様は安心してうちでモノを買えるだろうし、うちで買ったモノを長く使い続けてくれると思うんです。それってお客様にとっても、モノにとっても良いことじゃないかなって」
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ファッションが好きな男の子3人が、何のつてもなく始めたお店は、あれよあれよというまに2号店を出すほどに成長をして、いまちょっと話題のお店になってる。驚くべきはそのブランドのラインナップ。マルニ、エムエム6 メゾン マルジェラ、JW アンダーソンにマノロ ブラニク。このレンジのブランドが、始まったばかりのお店に展開の許可することってそうそうない。
「こういうブランドを置きたい!というのは明確にあったんですけど、僕ら業界に全然つながりもなくて。ブランドのお問い合わせ窓口すらわからない状況だったんですけど、人づてに辿って辿って、ようやく辿り着いて、僕らがやりたいことをブランド側にプレゼンさせてもらって、それでようやくOKがいただけて。最初はマルニ、からですかね。それが突破口になって、ほかのブランドもOKがでて、いまに至ってる感じです。置きたいラインナップは、トレンドとか人気のブランドではなくて、僕が自信を持って『いい!』と言えるブランドのみに絞ってます。“いい”の基準は、ブランドとしてキャラクターが明確に立ってること。僕、ブランドの持つ世界観を大事にしたいんです。ショーで見た世界観とお店で見た時の見え方が全然違うことってよくありますよね? それはお店としての世界観を第一に重要視するから、そこの世界観にフィットするものだけを編集して買い付けするスタンスだからだと思うけれど、僕らのお店はそれをやりたくなくて。あくまでブランドの世界観をきちんと見せられる形のバイイングを大事にしてます。ブランドそれぞれの世界観がちゃんと伝わるように、店頭での表現方法にもこだわって工夫してます」
まず、①ケアやメンテナンスの窓口として取り扱うブランドやアイテムに責任を持つ、そして②ブランドの世界観を尊重したバイイング。この2点を熱意を持って伝えたことが、手強いブランドの首を縦に振らせたんだろう。確かにもし自分がブランドを運営していたとしたら、ここまでブランドのことを考えて買い付けしてくれるってうれしいことだし、ブランドの目が届きにくいところ(買ったアイテムに対してのケア)を率先して引き受けてくれる、即ちお客さんとブランドの信頼関係をお店が取り持ってくれるのはすごくありがたいこと。あともうひとつ、どうしたって応援したくなる何かが小山君には、アマノジャクにはあるんだと思う。それって多分、ファッションへの深い愛、もしくはリスペクトが随所随所に滲み出ているところかな、と真摯に話す彼を見てそう思う。
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アマノジャクのように、いわゆる個人資本のセレクトは、よくも悪くもキャラクターのたった個人商店が多いので、世界観の押し出しの中心は“オーナーの世界観(もしくはこだわりと呼ばれるもの)”。そこがお店としてのオリジナリティにつながって、そのオリジナリティに惹かれてお客様は集っていく、というのが定石だ。
「そこに関しては僕らのアプローチは真逆ですね。アマノジャクのコンセプトを『コンセプトがないのがコンセプト』って謳うくらいですから(笑)。僕、あまり個人商店っぽくしたくなくて。こだわりが強すぎると敷居が高く感じちゃって、来店しづらくなるかなと。気負わずにフラットな感じでお店に来てほしいから、ショップとしての世界観やこだわりみたいなものは出さないようにしてます」
ゆらゆらゆれる柳のようなスタンスは、いい意味で“我”がなくてこの世代っぽいな、いまの時代っぽいな、と思う。“芯”になるものはしっかり持ちつつも、我の強さ(=個性)を打ち出すことに重きを置いていない世代。フラットにその都度その都度自分自身を変化させる柔軟力は、いまの、これからの時代において必要なことだったりする。
相対する人、モノ、コトとの関係性を大事にしつつ、自分自身を変化成長させるということ。