たゆたえども沈まず 島地勝彦人生相談 進まない離婚手続き......。気持ちをどう切り替えればいい?
たゆたえども沈まず 島地勝彦人生相談 2021.06.21
フィガロジャポン5月発売号から始まった新連載「たゆたえども沈まず 島地勝彦人生相談」。読者から寄せられた悩みに、かつて『週刊プレイボーイ』を100万部売った“伝説の編集長”島地勝彦が答えます。
Q.離婚手続きが進まず、モヤモヤが晴れません。
離婚がなかなか成立せず、モヤモヤした状態から抜け出せません。子どもが生まれてすぐ離婚しようと決意し、家を出てすでに2年が経ちました。始めは「すぐ離婚してやる!」と息巻いていましたが、予想以上に大変なペーパーワークや弁護士とのやり取り、全然進まない話し合いと手続きに疲れています。子育てと仕事の両立に手一杯で、将来の不安が消えず、「何かいいことないかなぁ」とつい独り言が出てしまいます。
自分の努力だけではどうにもならないもどかしさ、早く自由になって恋愛したい! という思いもあります。現状を変えるのが難しいなか、気持ちの立て直し、切り替え方をアドバイスいただきたいです。(33歳/化粧品輸入会社勤務)
photo:MIREI SAKAKI
A.わたしの親しい離婚経験者に言わせると、「離婚にかかるエネルギーは、結婚するエネルギーの3倍」だそうです。しかも相談者は家を出て、一人で子どもを育てながら仕事までこなしているのです。あなたがいま精神的に参っているのは、当然のことだと思います。
でも、ここが相談者の人生の大勝負どころです。ジョン・F・ケネディが枕頭(ちんとう)の書にしていた旧約聖書の「伝導者の書」に説いているように、すべてのことに「時」があるのです。「すべてのことには定まった時期があり、天の下のすべての営みに時がある。生まれるのに時があり、死ぬのに時がある。〈中略〉愛するのに時があり、憎むのに時がある〈後略〉」。この伝を敷衍(ふえん)すれば、相談者はまさに別れの「時」を迎えているのです。
おそらく、離婚が完了するまで、気分を完全に切り替えるのは難しいでしょう。しかし、この辛い時間は必ず過ぎ去ります。それさえ終われば、若い相談者には新しい、自由な未来が待っているのです。ですから、いまは離婚にとことん向き合い、早く終わらせることだけを考えましょう。絶えず、「離婚がうまくいって、私は幸せになった」と、過去形で3度唱えることです。これによって、未来の自分に一歩足を踏み入れることができます。だから、気持ちも少しだけ楽になれるのです。気疲れするような単調な作業や、相手とのやり取りは、すべて弁護士に任せてください。
相談者に何があり、どのようにして離婚に思いいたったのか分かりませんが、参考までにまったく別の考え方もお教えしましょう。長年離婚が成立せず、悩み、疲れ果てている。ならばいっそ、離婚しないで別居を続けるのはいかがでしょうか。わたしは結婚して、すでに55年の歳月が流れました。この長い年月で学んだのは、結婚を長く続かせるには、夫婦ともどもお互いに干渉しないということです。同じ屋根の下で毎日他人同士が暮らすのは、新婚の1、2年は愉しいかもしれませんが、その心持ちを保ち続けるのは難しいものです。ですから「亭主は元気で留守がいい」なんて俚諺(りげん)がはびこっているわけです。あのノーベル文学賞を断った偉大な哲学者ジャン=ポール・サルトルと、作家のシモーヌ・ド・ボーヴォワールも、ひとつ屋根の下で一緒に暮らしたことはありませんでしたが、生涯永遠のパートナーでした。愛ある無関心で、お互いの自由を尊重した結婚もまた幸せなのです。相談者にわたしの大好きな格言を捧げます。
1941年生まれ。『週刊プレイボーイ』編集者として直木賞作家の柴田錬三郎、今東光の人生相談の担当者に。82年に同誌編集長に就任、開高健など人気作家の人生相談を企画、実施。2008年からフリーエッセイスト&バーマンとして活躍。現在は西麻布『Authentic Bar Salon de Shimaji』でバーカウンターに立ち、ファンを迎えている。