齊藤工が撮った、トニー・レオンの瞳の奥にあるもの。

無口で、寂しげにほほ笑む。トニー・レオンを包む空気はとても優しく穏やかなのに、どこか切ない。つまり、途轍もなく魅力的ということだ。1990年代、香港映画がアジアのエンターテインメントを席巻して、取材が殺到した。インタビュアーの間では「トニー・レオンの眼差しの虜になってしまう」というウワサも流れていた。ウォン・カーウァイの『恋する惑星』の刑事役で、アジア映画通だけでなく、広く女性たちのハートを掴んだ。トニー・レオンは受ける芝居も巧みだ。相手役を輝かせながら、自身は静かに光るスター。一級の役者の定義そのもののような存在。そんなトニー・レオンが2024年秋、東京国際映画祭の審査員長を務めた。

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2024年10月、東京国際映画祭にて撮影。

映画制作に俳優として作り手として関わるだけでなく、映画産業を応援する活動にも熱心な齊藤工は、東京国際映画祭を活性化するプロジェクトの中で、トニー・レオンのポートレートを撮影する機会を得た。

「自己を形成する多感な時期から現在まで、影響を受けた映画的な景色、原風景の中に、常に存在しているのがトニー・レオンさんです。 東京国際映画祭(TIFF)の中でカテゴリーは違いましたが、同じく審査員という立場と、私の映画の道の恩人でもあるカメラマンのウィン・シャという共通の知人がいるご縁のみがきっかけでしたが、トニーさんや映画祭運営に関わるさまざまな方々の好意とご尽力により奇跡的にポートレート撮影の時間をいただけました」(齊藤)

トニー・レオンの代表作に『インファナル・アフェア』シリーズ2作がある。警察官と暗黒街のマフィアが、それぞれ潜入捜査官・情報屋となって本来の身分を隠して、生死ぎりぎりの賭けをするクライムサスペンス。ハリウッドでリメイクまでされ、マーティン・スコセッシ監督、レオナルド・ディカプリオとマット・デイモンの共演で『ディパーテッド』(2007年)として公開された。

『インファナル~』でトニー・レオンの相手役を演じたのはアンディ・ラウ。香港四天王として永遠のアイドルとして祭られていたアンディは、本作によって演技派としての評価を確実にした。

このふたりが、20年の時を経て競演した。

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1月24日から公開される『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』は、80年代香港金融界の闇を時にコメディタッチに、時にシビアに描いた秀作。今回はアンディ・ラウが捜査官となり、トニーが大胆な詐欺師を演じる。80年代というバブルも手伝ってか、詐欺のスケールは当時香港を統治していた英国の大企業も巻き込んでのビッグスケールなストーリーだ。 

「実際のトニーさんは、とてつもなくマイルドで優しいオーラで、そこにある不安や緊張感、そのすべてを包み込んでくれるようでした。 同時にシャッターを切る瞬間にはソリッドな側面だったり、前後の時間が想像できるような"物語"を提示して下さっている感じがしました。
学生時代の自分は西洋の映画への憧れも強かったのですが、トニーさんがスクリーンを介して醸し出す、アジア特有の魔力のような魅力に呑まれ、アジアカルチャーにUターンした記憶があります。今回撮ったポートレートは、その理由となる作品になりました」(齊藤)

最新公開作『ゴールドフィンガー~』では、詐欺師としてどんなに巧妙に成功し、巨万の富を得ても、トニーが演じるとどこか諦観や虚無感が漂う。その瞳の奥に、何を隠しているのだろう......トニー・レオンは観る人に映画的な胸騒ぎを与えて、いつまでも心に残り続ける。

だから、映画ファンは待ってしまう。トニー・レオンの次回作を。

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『ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件』 ●監督・脚本/フェリックス・チョン ●出演/トニー・レオン、アンディ・ラウ、サイモン・ヤムほか ●2023年、香港・中国映画 ●126分 ●配給/カルチュア・パブリッシャーズ ●1月24日より、全国公開

トニー・レオン/Tony Leung/梁朝偉
1962年6月27日、香港生まれ。香港ローカルのドラマや映画はもちろん 、ホウ・シャオシェン、ウォン・カーウァイ、チャン・イーモウ、アン・リーなど、アジアに留まらず世界で高く評価される監督たちに起用されるスター俳優。代表作に『悲情城市』(89年)、『恋する惑星』(94年)、 『HERO』(2002 年)、「インファナル・アフェア」シリーズ(02&03年)、『ラスト、コーション』(07年)など。15年にはフランスのレジオンドヌール勲章のオフィシエ受章。23年ヴェネツィア国際映画祭で栄誉金獅子賞受賞。24年、東京国際映画祭の審査員長を務める。

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齊藤工/TAKUMI SAITOH
ドラマ「ペンション・恋は桃色」Season3がFODにて配信中。瀬々敬久監督による映画『少年と犬』が3月20日全国公開。企画・プロデュースした児童養護施設のドキュメンタリー映画『大きな家』(劇場公開のみ)がロングラン。また、ハリウッド映画『ボクがにんげんだったとき/When I was a human』のエグゼクティブプロデューサーも務めている。

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