ママになる! 天職だと感じていた仕事を辞め、そして......。

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レ・プティ・コレクショヌールのColombine de Forville(コロンビンヌ・ドゥ・フォルヴィル)。

子どものためのグラフィックアートのエディションというアイデアをコロンビンヌ・ドゥ・フォルヴィルが思いついたのは、第1子を出産した年のことである。子ども部屋の壁に絵を飾りたくても、子ども向けの作品が見つけられない。これがきっかけで、彼女は2014年に「Les Petits Collectionneurs(レ・プティ・コレクショヌール)」を起業した。

アタッシェ・ド・プレスこそ自分にぴったりの職業。

コロンビンヌはアタッシェ・ド・プレス養成校として有名なEFAPで1年学んだ。その後高等学校のIESA(Institut d’Etude Supérieures des Arts)へ移り、3年間。これはアート関連のアタッシェ・ド・プレスを目指してのことだ。

「美術館やシャトーなどでの芸術方面のプレスができれば、と思ったのだけど、とても閉ざされた世界。そこで職につくのはとても難しい。もっともっと勉強する必要があったのですけど、私は一刻も早く社会に出て即戦力として仕事をしたい!という願いが強くって……。私って昔からちょっとトゥーマッチなくらい活動的なんです(笑)。この学校時代、週に2日半が授業で、2日半は企業で研修という素晴らしい機会に恵まれました。アタッシェ・ド・プレスという仕事を選んだのは、ごく自然に。私のパーソナリティを熟知している両親がこの職に向かわせた、とも言えます。好奇心が強く、人との出会いが楽しく、そして人がしていることの価値を引き立たせることが好きな私にはぴったりな職種。人間関係が鍵を握る仕事ですから。実際に働き始めて、まさに水を得た魚! 自分にぴったり合っていると感じられました」

最初の研修先はバカラだった。学校を出て最初の職場はスイスでショパールに。職場が変わっても常にリュクスなメゾンであることは変わらず。その後、パトリシア・ゴールドマン・インターナショナルでメディアのアタッシェ・ド・プレスという仕事に4年携わった。

「雑誌社やテレビ局のプレスです。つまりメディアにメディアを語らせる、という仕事です。ジュニアとして2年経験し、その後ヴォーグ、ガラ、ル・ポワンなど6雑誌の担当となって……私の年齢では素晴らしいこと。雑誌の編集長のインタビューをとったり、エディターに語らせたりと、猛烈に働きました。ここで働いている時に結婚したんですが、夫は職を変えて忙しく、ふたりで一緒にいる時間もないという時期。それを利用して、私は仕事に目一杯時間をかけられたんです」

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12月には自宅内でポップアップを開催した。コロンビンヌはレ・プティ・コレクショヌールと並行して、自宅を映画やテレビなどの撮影にレンタルする仕事も行っている。photos:Mariko Omura

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ママになる喜び。妊娠8カ月で退社した。

13歳の頃から、子どもを持つことがコロンビンヌの夢で、友達にもそう語っていた。もし小さい時に夢見た仕事は?と聞かれたら、母親になることときっと答えていただろうと言う。それゆえか、彼女はとても若くして結婚。パトリシア・ゴールドマンで働いている時に4年間待ち続けた第1子の妊娠があり、もうこの仕事場には戻らないと強い決心を持って8カ月の時に退社した。2013年、28歳の時のことだ。

「出産してから約2年近く、子どもとずっと一緒に過ごしました。夫も私とまったく同じ考え方で、家族というのがとても大切なんです。私の幸運は生涯の伴侶を見つけたこと。そして、さらに彼は家で赤ちゃんの面倒を見たいというように父親としても……。私は仕事に出かけることもなく、自由に時間がとれ、息子との時間を存分に堪能しました。最高に贅沢な2年間でした。私が退社を決めた時、まさに素晴らしいキャリアの出発点にいたので、“こんな良い時にやめるなんて!”と周囲からは気が狂ったかのように言われましたけど。でも、退社したことはまったく後悔していません」

待望のベビー。でも彼の部屋に飾れるアート作品が存在しない!

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Jessica Das(ジェシカ・ダス)のリトグラフィー。コロンビンヌがレ・プティ・コレクショヌールを始めるにあたり最初にコンタクトしたアーティストだ。リトグラフィーは1点55ユーロ(30×40cm)〜。コロンビンヌによると親は淡い色の作品を好む傾向があるが、子どもたちははっきりした色のわかりやすい作品を好むという。

第1子を出産し、ママとなったコロンビンヌは子ども部屋作りを始める。曽祖父はフランスでも有名なアートコレクターのひとりで、そして祖父も両祖母も画家という家に生まれた彼女。壁にかける絵画(タブロー)はとても大切な存在という環境で育ったので、早速長男の部屋の白い壁にも飾ろうと……。

「でも、子どものための絵画が市場にまったくなかったんです。子どもらしい色やデザインのグラフィック、動物モチーフなどが欲しいと思ったけれど、見つけられませんでした。いまから8年前って、子どもが部屋で美しいアートを好み、それによって目覚めがあるという考えが浸透してなかった時代です。仕方なく、私が持っていた祖母から贈られた版画や祖父母の作品などを飾って……綺麗でも、カラフルでもグラフィックでもなくって全然子ども向けじゃない額ばかりでしたけど」

そこでコロンビンヌが思いついたのが子どものためのアート・エディションである。イラストレーターやアーティストによる、子ども向け、そして子どもの心を保っている大人に向けた作品を販売することだ。彼女のこのアイデアに何よりも喜んだのは彼女の両親だった。

「フランスに残る数少ないリトグラフィーのアトリエのひとつを我が家は所有しています。父はほぼメセナ的にそこで自分の好みのアーティストの作品だけを制作していますが、そのアトリエの継ぎ手がいない……というところに、私のこのアイデア! 一緒に仕事ができる、と父はとても満足してくれました。レ・プティ・コレクショヌールという名称はごく自然に生まれたものです。両親も芸術作品をいろいろとコレクションしているように、子どもも幼くして自分のコレクションを始める、という意味が込められています」

かくしてレ・プティ・コレクショヌールが誕生する。

環境が整っていたとはいえ、新しい冒険に乗り出すには彼女自身の意欲が鍵を握っていた。行動的な彼女である。気に入ったアーティストにすぐにコンタクトをとり、プロジェクトを説明するためのA4の紙を持って会いにいったのだ。もともとコミュニケーションを図ることには長けているし、かつての仕事柄こうしたコンタクトは彼女にはためらいなくできることだ。

「アーティストからはすぐに信頼されました。彼らは父のアトリエの写真を見て、自分の作品がリトグラフィーになるのは素晴らしいチャンスだといって。私は彼らの既存の作品をリトにするつもりだったのだけど、彼らのほうからレ・プティ・コレクショヌールのために作品を創りましょうといってくれて。考えてもみなかったことです。ごく少数のエクスクルーシブバージョンというアイデアは素晴らしいわ、と」

しかしハイクオリティの品は価格が高い、というのが現実。それでポスターも同じ図柄で提案するのはどうだろうか、という考えが彼女に浮かんだのである。2タイプ作ることにしたのだ。価格が手頃なポスターで低年齢向きのグラフィックな作品を。こちらがプレタポルテなら、オートクチュールといえるのがリトグラフィーとデジグラフィーである。こちらは限定50点で作家のサインとナンバリング入りで販売している。

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子どものためのデザイン界におけるスターアーティストのIngela P Arrhenius(インゲラ・アリアニウス)によるポスター3点(各29ユーロ)。

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メイド・イン・フランスへのこだわりは作家にも。

レ・プティ・コレクショヌールのホームページから“アーティストたち”のページをクリックすると21名の女性アーティストが登場する。コロンビンヌは男性アーティストにもコンタクトしたのだが、子ども向けということに男性は女性ほど興奮しないということがわかった。

「それで女性アーティストに絞ることにしました。さらに、フランス女性に。というのも、レ・プティ・コレクショヌールではパッケージングも販売している額縁もメイド・イン・フランスなんですね。それを徹底させようと、声をかけるイラストレーターたちもフランス人に、と決めました。もっともインゲラ・アリアニウスは例外。世界的に有名な彼女と出会える幸運があったので……。21名の中には、私が発掘し、私だけが版を作れるアーティストもいるんですよ。この仕事でもっとも快適なのは、アーティストを見つけ出して、その仕事を軌道に乗せることですね。それに私、子どもたちと一緒にレ・プティ・コレクショヌールのコレクションを作ってるんですよ。私もアーティストもその世界に入り込んでいると、色が決められなくなることがあるんです。とりわけ動物モチーフなのですが、子どもたちに6色を見せてどれがいいかを選ばせています。彼らは30秒もかけず、これ!と選びます」

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左: 出版社Act Sudの児童書部門のイラストレーターであるSévrine Assous(セヴリンヌ・アスー)によるデジグラフィー『Belle Ville』(85ユーロ)。パリが子ども目線で描かれている。 右: Steffie Brocoli(ステフィ・ブロコリ)の『Mood Palace』。宮殿の塔のひとつひとつが感情を表している。コロンビンヌは「塔が泣いたり、笑ったりしています。子どもが夜ひとりでいるときにこれを見ると、昼にあった悲しいことや困ったことがあっても、自分はひとりじゃないって感じられるんですよ」

感受性を養う作品を子ども部屋に。

子ども部屋の壁を飾るだけの装飾としてではなく、子どもたちの感情の目覚めの役割もある。彼女がレ・プティ・コレクショヌールでいま力を入れようとしているのは、ベビー対象である。子ども向けのコレクションといっても、何歳までというようにリミットは考えていないそうだ。

「壁の絵を見て、感動して心を奪われる子どもなら何歳でも……といっても、気がついたことがあります。13歳頃になると、子どもは親と一緒に選んだのではないものが欲しくなるんです。自己顕示欲の年齢ですね。いかに芸術的感性が生まれるのか、私は神経科学に関心があります。それは生まれついてではなく、作り上げられるものなんですね。ゼロ歳から3~4歳頃にかけて目にしたもの、感じたことが知識となって、それが知覚能力に影響を与えるのです。私も両親によって子ども時代このように育てられました。オクシタニー地方ユゼスの自然の中の家でたくさんのアート作品に囲まれていました。こうして養われた視聴の感性の持ち主であることは、私の人生においてとても幸運なことです。オペラに行けば感激の涙を流し、美術館では……というように。私の夫は小さい時に音楽に触れる機会がなく、音楽を聴いても特に感じることがないといいますから」

8歳になる長男は、レ・プティ・コレクショヌールの歴史とともに成長していることになる。彼の部屋にママがかけた古い版画などは、コロンビンヌによる最初の作品が出来上がるや、それに取って代わられて……いまもトロピカル、ジャングル、といったカラフルな世界に囲まれている。ママの観察によると、将来はイラストレーターになるのでは?と。

「長男は小さい時からこのように動物のイメージに囲まれていて、毎日デッサンしています。とてもうまいのよ。2歳下の妹が病気なので、彼女が生まれてから私たちの注意はどうしても妹に向かいがちです。それで彼は自室で悲しくないようにとひとりで絵を描く習慣がついて……」

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左: Alice Ricard(アリス・リカール)はパンサーや象、シロクマなど動物の親子をテーマに12作品をレ・プティ・コレクショヌールのために描いた。ベビー向き。ポスターのサイズはそれぞれ3種あり。コロンビンヌは複数の額の構成の仕方も作品とともに提案している。 右: Noemie Cedille(ノエミ・セディーユ)による『la Cabane perché』。コロンビンヌはアーティストと作品の相談をする際に、子どもたちの想像力に働きかけることも大切にしている。「この作品を見て子どもは想像します。自分が木の上の小屋の主で愛犬は小さな小屋に。庭で凧揚げ遊びをする傍らで、姉は庭仕事をして……というように」

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アソシエイトを得たいま、発展に意欲的。

誰もがインターネットのサイトで商売をする時代である。アーティスト自身も活発に自分のサイトの活動を行って、自らをブランドに仕立て上げられる時代だ。コロンビンヌは人と向かい合ってやりとりをしてというのを好むタイプ。ソーシャルメディアにもあまり強くない。インスタグラムのためにプロを雇う人も多いが、彼女は自分のキュレーションでありファミリーの物語でもあることから他人に任せるのは魂が失われるような気もするのでそれには積極的になれず。この点が彼女の頭の痛いところだった。また昨年の春にはレ・プティ・コレクショヌールのインターネットデータを保管するセンターに火事があり、創業時から築いたすべてのデータを失ってしまう不幸に見舞われ、しばらくインターネット上から消えざるを得なかったのだ。

「ゼロからの再スタートを余儀なくされました。これまでずっとひとりでやってきたのだけれど、病気の娘がいるので彼女から長く離れていることができず、サロンの出店もできず、旅行もできずで営業面での発展にすごく遅れをとっています。そんなこともあり、最近デジタル面のスペシャリストとアソシエートしました。作り直した新しいサイトで再出発です。これまで販売はサイトとショールームで時にオーガナイズするポップアップ、そして“うちの店で売りたい”とコンタクトしてきたブティックに限られてたのだけど、これからはB to B(ビジネス・トゥ・ビジネス)でフランス中のブティックに働きかけます。また今後は壁にかけるためだけでなく、エクスクルーシブのイラストをパズルや塗り絵といった実用品に活用させるなど商品の幅を広げることも視野に入れています。コロナ下の外出制限期間があってから、子どもたちが時間をかけて何かできるものというのが望まれていますから」

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Agathe Singer(アガット・サンジェ)の『Un jardin au printemps』。彼女の作品は大人の女性にも人気だ。この作品は春で、ほかに秋と冬も彼女は描いた。デジグラフィー120ユーロ。

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左: ベストセラーはMarianne Ratier(マリアンヌ・ラティエ)の『Monsieur Lapin』。デジグラフィーと買いやすいポスターの2種から選べる。 右: Zoé Lab(ゾエ・ラブ)のリトグラフィー『Petit Roi』。『Petite Reine』もあり2点並べて飾るのも楽しい。

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editing: Mariko Omura

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