【篠原ともえ連載Vol.7】 紅白歌合戦の"衣装"をつくる。

2020年大晦日に放送された「第71回NHK紅白歌合戦」。NHKさんからのご依頼をいただき、演歌歌手の水森かおりさんの衣装デザインを担当しました。昨年7月に個展を開催してから半年後、まさか自分自身がここまで大がかりな衣装を制作するとは思ってもみませんでした。これまでさまざまな “MAKING”を届けてきたこちらのコラムで、完成までのプロセスをご紹介したいと思います。

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近年、私が取り組んでいるデザインや衣装制作などの活動を知り、NHKさんもオファーをしてくださったそうです。お仕事をいただいた時には、あらためて自分自身の創作を続けてゆくことの大切さを実感しました。今回は楽曲でもある「瀬戸内 小豆島」をイメージして、マーメイドラインから生まれる穏やかに波打つ海をデザイン。昨年は旅や大好きな場所に行けなかった方々も多かったと思います。だからこそクラフトマンシップで作り上げた海を通じて、画面越しに自然そのものを想起してほしいという気持ちを込めました。

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ここまでの規模のドレスを制作した経験はなかったのですが、だからこそ繊細に作りたかった。なのでかねてから舞台幕の製作などを手がけていらっしゃるファイバーワークさんという美術チームをご紹介いただき、衣装の海の部分を一緒に作り上げていきました。海の動画やイメージ画を共有しながらリクエストを反映いただき、四角いパーツにうねりをつけひとつひとつ手作業で仕上げてゆく仕事は圧巻でした。

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制作は私たちからNHKさんや水森さんへプレゼンすることから始まりました。資料は昨年立ち上げたデザイン会社STUDEOのスタッフとともに、ブレストしながら進めていけたのでとても心強かったです。制作に至るまでの試作は、自分自身でもイラストレーターなどを使いシュミレーションしたり、デッサンを描いたり……限られた時間で試行錯誤しながら、とにかく毎日ドレスのことを考えずにはいられない! そんな日々でした。

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生地選びは『SHIKAKU展』でもご協力いただいたogawamineLABさんで。近年取り組んでいる「シカクい生地を余すことなく使い切る」というコンセプトで、短くなり使わなくなってしまったものや売り物にならない余剰の生地をなるべく利用して制作。布を沢山使うドレスだからこそ、生地を無駄にしないように心がけました。余すことなく使い切るというサステナビリティを考慮することも、メッセージのひとつだったのです。

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小さなもので2cmほどのシカクパーツをグラデーションに並べ、まずはそれをピンで仮止めしていきます。この時使ったピンは700本あまり!気の遠くなるような作業ですが、これはデザインの見せどころでもあったので、時間をかけドレスに話しかけるように繊細に、感覚を研ぎ澄ませながら決めていきました。ピン留めしたパーツの縫製はひとつひとつ手作業で縫い進めます。最終的にはピンがドレスのどこかに隠れていないか、1本残らず確実に探し出す作業も大事なプロセスでした。

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ドレス部分だけでもこのシカクパーツは1万枚にも及びます。またシルエットに合わせ、大きさを微妙に変化させているのもこだわりました。さまざまな青い生地の透過を生かしながら、グラデーションで海を表現していきます。実際のドレスは写真のように、近くで見ていただいてもとても美しいのですよ。

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縫製は普段、私の衣装などもお手伝いくださっている秀島史子さんをはじめとした5人体制の縫製チームで製作。ただ完成してもなお、フィッティング・照明チェック・画面越しの確認などを踏まえると、色を変更した方がよりドラマティックになるかも、シルエットが映えるように部分的に外して縫い直した方がいいかも……など、変更しなければならない部分が自分の気持ちの中に生まれてくるのです。そんな中「ともえさんのこだわりがあるのなら、悔いなく仕上げてほしい」と手縫いの作業も徹底的に付き合ってくれた時は本当に胸がいっぱいになり、なんとしてでも美しい作品にしたいと気持ちがさらに入りました。

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制作期間は打ち合わせも含め1ヵ月ほどのあっという間の短い時間でしたが、すべてが終わった後、お互いを労うように涙した製作スタッフさんとのやり取りはかけがえのないもので、多くのことを学ばせていただいた貴重な経験となりました。放送時のドレスの写真は篠原ともえ公式サイトで何点か掲載しておりますので、是非ご覧ください。そしてこの作品は今後、水森かおりさんのコンサートでもお披露目いただくことになりました。実物をご覧になりたい方はツアースケジュールをチェックしてみてください。水森さんの歌唱とともにお楽しみいただけますよ。この経験を生かして、これからも大好きなエンタテインメントを届けるために、大好きな“つくること”続けてゆきますね!

texte:TOMOE SHINOHARA

1995年歌手デビュー。文化女子大学(現・文化学園)短期大学部服装学科デザイン専攻卒。歌手・ナレーター・女優活動を通じ、映画やドラマ、舞台、CMなどさまざまな分野で活躍。現在はイラストレーター、テキスタイルデザイナーなど企業ブランドとコラボレーションするほか、衣装デザイナーとしても松任谷由実コンサートツアー、嵐ドームコンサートやアーティストのステージ・ジャケット衣装を多数手がける。2020年、アートディレクター・池澤樹と共にクリエイティブスタジオ「STUDEO」を設立。
篠原ともえ公式サイト:www.tomoeshinohara.net
公式インスタグラム:www.instagram.com/tomoe_shinohara/

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