うつわディクショナリー#18 8つの色彩で益子の焼物のいまを描く陶芸家・寺村光輔さん

益子に伝わる伝統の色を現代の暮らしのうつわに

いまから10年前、焼物の町・益子で独立し初めて窯焚きをしたその日からずっと、この土地の伝統的な釉薬と地元の土だけを使ってうつわを作り続けている寺村光輔さん。自分の足元にある材料に信頼を寄せることで生まれるうつわは、なんともいえない安心感を持つ。
 
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—寺村さんといえば、一貫して益子の伝統的な釉薬を使ってうつわ作りをしていますね。どの色味もしっとりと落ち着いていて、生活にすんなりとなじむ安心感があります。
寺村:益子には、益子七釉とよばれる伝統の釉薬が伝わっていて、並白(なみじろ)、糠青磁(ぬかせいじ)、飴釉(あめゆう)などがよく使われますが、僕はこれらをアレンジしつつ、長石、瑠璃、うのふ、白釉、灰釉を加えた8つの色を主に使っています。どれも自然由来の材料です。中でも白釉、うのふは、流れがあって表情が出るので一点ものの花器やピッチャーに合わせています。
 
—アイテムによって出会える色が違うんですね。土も釉薬も益子でとれる材料なのですか?
寺村:益子は、焼物に適した土が豊富にとれることから陶器づくりが始まった土地です。原土を自分で精製することもありますよ。原土には不純物が多いので、りんご灰など天然の灰釉を使った時の貫入の入り方が独特で面白い表情になるんです。最近は、土を精製する粘土屋さんが高齢で辞めてしまうなど以前ほど手に入りにくくなってしまっているという現状もあるんです。残念なんですけどね。
 
—そうやっていろいろと試していくことで、新しい作品が生まれるんですね。
寺村:僕は、手作りのうつわを量産する製陶所というところで焼物の修行をしたんですけど、その頃から、益子の材料を使って、量産のものとは違う手作りならではのうつわを作れないかと、地元の、特に釉薬の材料をいろいろと試していたんです。近所の果樹園にお願いして、収穫を終えたりんごの木を燃やす手伝いをするかわりに、その灰を頂いてきたり。天然のものを試してみると、やればやるほど、いまの暮らしに合いそうないい色ができました。益子にいると四季の変化を感じることができます。水を張ったばかりの田んぼ、蛍の光、秋の月明かり、どの季節も美しくて。そんな豊かな自然に由来した釉薬をシンプルで使いやすいうつわに施すことで、いわゆる益子焼とは違うけれど、この土地らしい焼物を届けることができるといいですね。
 
—寺村さんの作品ならではの奥行きのある色味も、そうした試みの成果?
寺村:この落ち着いた色味には、栃木県の矢板市で産出する寺山白土という土の作用が関係しています。この色が出た時は「これだ!」って興奮しました。でも寺山白土も、随分前にほぼ採掘されつくしてしまって。僕は、まだあるうちに運良く大量に買うことができたので、今後も作り続けられるんですけどね。
 
—形についてはどうですか? 絶妙に使いやすいサイズのオーバル皿や鉢物はどうやって生まれるのかなと。
寺村:まずは自分で使ってみますね。取り皿として使ったり、パスタのような洋風メニューに使ったり。といっても、ごくごく普通の家庭料理の献立ですよ。土や釉薬を試すのと同じで、作っては試すことを繰り返す。時間をかけて何度もテストしてたどり着いた形です。それをお客様が気に入ってくれて、お店から注文が入れば何度も作るので、定番になっていきます。
 
手作りのうつわは一期一会とよく言われますけど、寺村さんは、定番のうつわも作り続けてくれるのでありがたいです。気に入ってよく使ううつわこそ、割れてしまって買い直したくなったり、数を増やしたくなるので。
寺村:定番となったもののひとつに深小鉢があるんですけど、これはここ「千鳥 UTSUWA GALLERY」の柳田さんがサイズのアドバイスをしてくれたおかげで、たくさんの人に使ってもらえるようになった作品です。お店の方やお客様にアドバイスを受けて、すこしづつ自分の作品が増えていっていることが嬉しいですね。
 
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今日のうつわ用語【益子焼・ましこやき】
1853年、栃木県芳賀郡益子町に大塚啓三郎という人物が焼物に適した粘土を見つけ開窯したのが始まりとされる焼物の産地。地元の自然素材から生まれる益子七釉とよばれる伝統の釉薬を誇り、民藝運動の濱田庄司が暮らした土地としても知られる。
 

収穫を終えたりんごの枝を燃やした灰を釉薬に。自然由来の釉薬ならではのやさしい表情がたまらない。マグカップ¥2,484/千鳥 UTSUWA GALLERY

取り皿として重宝するサイズのオーバル皿は大人気の定番品。オーバル皿¥2,592/千鳥 UTSUWA GALLERY

益子七釉のひとつ、飴釉を八角の洋皿にかけるととてもモダンな印象に。八角皿¥4,320/千鳥 UTSUWA GALLERY

しっとりとした緑色の釉薬は伝統の糠青磁釉をアレンジしたもの。八角豆皿¥1,296/千鳥 UTSUWA GALLERY

寺村さん自慢の瑠璃釉は、鮮やかな発色で食卓が一気に華やかに。八寸皿¥5,076/千鳥 UTSUWA GALLERY

泥並とよばれる白系の釉薬は焼け具合によって質感も表情も異なり選ぶのが楽しい。カップ&ソーサー¥4,320/千鳥 UTSUWA GALLERY

【PROFILE】
寺村光輔/KOSUKE TERAMURA
工房:栃木県芳賀郡益子町
素材:陶器(益子の原土)、寺山白土など
経歴:1981年東京都生まれ。大学時代に陶芸教室で体験した焼物づくりが楽しく益子の陶芸家・若林健吾氏に師事。2008年に独立し益子町大郷戸に築窯。益子の伝統釉を用いて現代の暮らしに合ううつわを作る。
http://kousuketeramura.com

千鳥 UTSUWA GALLERY
東京都千代田区三崎町3-10-5原島第二ビル201A
Tel. 03-6906-8631
営業時間:12時〜18時
✳不定休(定休日はHP、ブログで確認のこと) ✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを http://www.chidori.info


『寺村光輔展』開催中
会期:2017年10/21(土)〜10/28(土)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

ライター/ 編集者

子育てをきっかけにふつうのごはんを美味しく見せてくれる手仕事のうつわにのめり込んだら、テーブルの上でうつわ作家たちがおしゃべりしているようで賑やかで。献立の悩みもワンオペ家事の苦労もどこへやら、毎日が明るくなった。「おしゃべりなうつわ」は、私を支えるうちのうつわの記録です。著書『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)
Instagram:@enasaiko 衣奈彩子のウェブマガジン https://contain.jp/

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