うつわディクショナリー#21 作り手の顔が見える中野知昭さんの漆器

使って安心、作家ものの漆器

漆器のお椀やお盆を使ってみたいけど何を選んだらよいのか分からない。そんな時は、材料にも技術にも嘘のない作家ものの漆を手にしてみよう。中野知昭さんの漆器は、柔らかくてやさしくて気軽でモダンで。私たちの毎日にちょうどいい。

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—中野さんの漆器は、とろりとした柔らかい表情で手に取らずにいられません。なぜこうしたやさしい表情になるのですか?
中野:上塗りで厚めに漆をのせているからでしょうか。そのためには下地づくりもきちんとしていないといけませんし、木地の形も重要です。漆器づくりは、すべての工程が出来上がりを左右するんです。
 
—中野さんは、越前漆器の職人の家に育ったそうですが職人歴は何年?
中野:家業が福井の越前漆器の塗師(塗りの職人)で、両親と兄と僕で漆器作りに携わってきました。21歳で父に弟子入りし15年間実家で仕事をした後、4年ほど前に作家として独立しました。小さい頃から食卓には、お椀はもちろん、盛り皿から取り皿まで漆器尽くしで毎日気軽に漆の器を使いながら育ちましたね。
 
—なぜ職人ではなく、作家として活動しようと思ったのですか?
中野:漆器づくりは分業で、ひとつのお椀を作るのにたくさんの人が関わるため塗師としての僕がやる仕事はその一部になってしまいます。伝統的な漆の産地では当たり前のことですが、僕は、もっと作るもの全体に自分で責任を持てるものづくりがしたくて、作家という道を選びました。いまは、形をデザインすることから、漆を塗ること、お客さんと触れ合い販売すること、買ってもらったもののメンテナンスまですべてのことに関わっています。
 
—中野さんの漆器の仕事を改めて教えてください。
中野:まず形をデザインし木地を発注します。お椀なら丈夫で堅いケヤキ、お皿はセンの木が多いですね。形によって得意な木地師さんが違うので、常に数人の職人さんとやり取りをしています。木地が届いたら、珪藻土を焼いて粉にした地の粉と漆を混ぜたものを下地として塗ります。この下地作りには、輪島の漆器に伝わる技法を取り入れています。荒いものから細かいものへと地の粉を変えながら数回塗った後、漆を塗る中塗り、上塗りで完成です。
 
—どんなものを作りたいと思っていますか?
中野:使いやすくて、きちんとした漆器ですね。きちんととはいっても、緊張して使うようなものは作りたくないですから、毎日の生活に入って行きやすい形や用途には気を配っています。高台のないお椀やランチョンマットのようなシンプルな折敷、鞄に入れやすい弁当箱のように。
 
—作っている作家さんに「毎日使って欲しい」と言われると安心します。
中野:漆器は、汁物をはじめとした温かい料理が冷めにくいと同時に、熱伝導が低いため持つときは熱さを感じないなど毎日の料理に使いやすい理にかなったうつわです。だからこそ、信頼のできる材料を使って使いやすいデザインのものを作れば、いいものができると思っています。
 
—漆器へのそうした取り組み方が中野さんらしさですね。
中野:形や用途に気を使うというのは、奇をてらった形にするとか、特徴のある表情にするのとは違います。まずはシンプルで使いやすいことが大事。その上で僕が心がけているのは、きちんとした塗りです。僕の作る漆のうつわを通して、日本の伝統工芸として受け継がれてきた塗りのいい漆器とはどういうものかを知ってもらえたら嬉しいですね。
 
※「うつわ謙心」では12/19(火)まで「塗師 中野知昭展」を開催中です。
 

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今日のうつわ用語【漆器・しっき】
漆を塗ったうつわ。日本には縄文時代から伝わる。漆とは、ウルシの木の表皮に傷をつけて採取する樹液で、ウルシオールという被膜を作る成分を含んでいるため表面に塗ることで防水効果や強度を増す効果がある。木工のほか陶器に塗ることも。

定番のお椀は4種類。こちらはすっきりとしたデザインの丸美椀¥10,800/うつわ謙心

温かいものが冷めにくいのも漆器の特徴。ご飯にうどんに活躍の丼 溜内 黒¥19,440/うつわ謙心

ころんとした椀が入れ子に重なってひとつで三度美味しい三ツ組鉢 朱¥27,000/うつわ謙心

凹凸のあるリム皿は、漆塗りの技術の高さが問われる作品。八寸折沿(おりふち)盤 朱¥19,440/うつわ謙心

トートバックにも入る縦型のお弁当箱。曲輪五寸弁当箱 木地溜¥16,200/うつわ謙心

お箸は、毎日の生活に気軽に取り入れやすい漆のひとつ。細箸各¥3,240/うつわ謙心

【PROFILE】
中野知昭/TOMOAKI NAKANO
工房:福井県鯖江市西袋町
素材:漆器(越前漆器もしくは河和田塗り)
経歴:1975年、福井県の越前漆器の職人の家に生まれる。国立福井工業高等専門学校にて土木技術を学び建設コンサルタント会社に入社。1996年家業を継ぎ父に弟子入り。2010年博多鈴懸にて初個展。2014年、地元に工房&ギャラリーを構え独立。
http://www.nakanotomoaki.com

うつわ謙心
東京都渋谷区渋谷2-3-4スタービル青山2F
Tel. 03-6427-9282
営業時間:11時〜20時
定休日:水曜日
http://www.utsuwa-kenshin.com
✳商品の在庫状況は事前に問い合わせを

『塗師 中野知昭展』開催中
会期:2017年 12/14(木)〜12/19(火)
会期中無休

photos:TORU KOMETANI realisation:SAIKO ENA

ライター/ 編集者

子育てをきっかけにふつうのごはんを美味しく見せてくれる手仕事のうつわにのめり込んだら、テーブルの上でうつわ作家たちがおしゃべりしているようで賑やかで。献立の悩みもワンオペ家事の苦労もどこへやら、毎日が明るくなった。「おしゃべりなうつわ」は、私を支えるうちのうつわの記録です。著書『うつわディクショナリー』(CCCメディアハウス)
Instagram:@enasaiko 衣奈彩子のウェブマガジン https://contain.jp/

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