川と新旧時代の違う建築たち、水面や壁面に反射する光の屈折、幾つもの橋が重なり合う街、大阪中之島。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は大阪、中之島。

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中之島の景色は川と橋とビルディングでできていると言ってよいだろう。夜は川面にライトが揺らめく。ビジネス街のイメージが強いが、最近はスタイリッシュなワインスタンドなども出現している。

中之島の反射光、天王寺の路地裏。

vol.8 @大阪

20年以上前、私が兼業写真家としていまの仕事のはじめの一歩をあゆみだした頃、ミラノの知人のアトリエで、大阪を拠点に活動するクリエイティブユニット、grafの面々と偶然に出会った。皆たいそうフレンドリーで、その時持っていた私のポートフォリオを熱心に見てくれた。ほどなくしてgrafが主催するグループ展への出展オファーをいただいた。会場は彼らの本拠地、大阪中之島にあったgm Gallery。私は張り切って初めてのスライド作品を制作し発表した。それ以来幾度もgrafとはおもしろい仕事で交わっているが、大阪をよく知らない私にとっての大阪は、そんな訳で中之島になってしまった。川と新旧時代の違う建築たち、水面や壁面に反射する光の屈折、幾つもの橋、それらが重なり合う光景は登場人物を浮き彫りにする舞台装置のようだ。映画『寝ても覚めても』で、運命のカップルが出会ったのも中之島。大昔からこの川辺をモノも人々も行き交ったのだ、大恋愛もビッグビジネスも許容する場所なのだろう。

もうひとつ大阪に行くと度々お世話になったのがスタンダードブックストア(今年6月閉店、必ず復活するとの宣言あり)、用がなくても行きたくなる本屋だった。最後に立ち寄った時の開高健フェアで手に入れた数冊で、作家の「美食、釣り、ベトナム戦争」以外の印象を得た。開高氏の小説の中で描かれる戦後の大阪の下町は中之島とはまさに対極、必死の人生たちがうごめいていた。

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インパクトの強いエントランスは国立国際美術館。シーザー・ペリ建築。夏の光にアルミパイプがギラギラ光る。
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リーガロイヤルホテル(大阪)内のリーチバーでゆったりとパイナップルインフュージョンを一杯。
●『寝ても覚めても』 
監督/濱口竜介
2018年、日本・フランス映画 119分
Amazon Prime Video にて配信中
www.bitters.co.jp/netemosametemo

●『青い月曜日』 
開高 健著
文藝春秋刊 ¥570

>>「在本彌生の、眼(まなこ)に翼」一覧へ

*「フィガロジャポン」2023年10月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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