モロッコの田舎の村で出合った食卓。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はモロッコの旅。

メディナ、そして田舎の村の食卓。

vol.10 @モロッコ

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マラケシュのスークの一角にある市場にて、サボテンの実を売る屋台。市場は買い物だけではなくヒューマンウォッチングに最適。

モロッコという国に初めて憧れを抱いたのは、映画『シェルタリング・スカイ』を観た90年代にはいって間もない頃。原作のポール・ボウルズの作品に触れたのも、この映画がきっかけだった。「何か」があるだろうと直感に任せタンジェを訪れた後、四方田犬彦著『モロッコ流謫』を読み、タンジェとボウルズの人生の関わりに興味を寄せた。スリランカで偶然辿り着いた屋敷が、ボウルズがいっとき住み執筆していたところだったということもあった。そこで書いていたのはモロッコでの物語だったというからおもしろい。映画では主人公のキットに扮するデブラ・ウィンガーが殊に魅力的だ。眼差し、声、体躯、服装、即ち彼女のすべてで、生々しい感情を持つひとりの女、「行動を起こす人間」像を作り上げていた。砂漠、メディナ、ベルベル人の妖しい歌声、坂本龍一が手がけたあのテーマ曲は映画のイメージを決定づけた。ちなみにボウルズもカメオ出演しているので、探してみてほしい。

マラケシュ在住のwarang wayanを主催する石田雅美さんを頼りに、料理家の細川亜衣さん親子、城田文子さん、画家の平松麻さんとモロッコを旅したのは4年前のこと。「食」をテーマに各地を巡り、小さな村で大家族と大土鍋を囲み食事をしたり、自然農園を営む友人と一緒に料理したり、人々の暮らしを垣間見る貴重な旅だった。9月の彼の地での大地震後、彼らはいま復興に向け日々動いている。平穏な日々が早く戻りますように。

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素晴らしい菜園を営むDomaine SauvageのSouhailと友人の娘たちの後ろ姿と自然の対比が素敵で思わず撮った一枚。
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村のお宅でクスクスの作り方を拝見。丹念な下ごしらえにはじまり、じっくり時間をかけて作られるご馳走。その美味しさは忘れられない旅の思い出になった。この旅での経験は、細川亜衣さんの著書『旅と料理』に収められている。
●『シェルタリング・スカイ』
監督・共同脚本/ベルナルド・ベルトルッチ
1990 年、イギリス映画 138分
U-NEXTで配信中

●『モロッコ流謫』 
四方田犬彦著 
ちくま文庫 ¥1,045

●『旅と料理』
細川亜衣著 
CCCメディアハウス刊 ¥1,870

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*「フィガロジャポン」2023年12月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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