ジョナス・メカスが愛したリトアニアの森。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はリトアニアの旅。

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旅の道中いたるところに林檎の木があり、真っ赤な実をたわわに実らせていた。田舎の家々の造りは色使いも可愛らしい。小さなもぎたての果実を頬張ると甘酸っぱくて爽やか、自然で綺麗な味がした。 

田舎と森とメカスのリトアニア。

vol.11 @ リトアニア

ジョナス・メカスが撮った映画『リトアニアへの旅の追憶』を観て、リトアニアに関心を寄せた。もう数十年前のことだ。細切れに連なるシーンの連続は記憶のコラージュ、なんとも楽しげ、それでいて少し切なげだ。とてつもなく長い間離れた里の母との再会、家族との食卓、友人のさりげない笑顔、メカスの顔、そしてメカス本人の声での独白、手書きのテロップ、詩......、表現者ジョナス・メカスの人生の尊い時間、その集積をのぞき見ている気持ちになった。何より、まるで初めてカメラを手にした子どものように素直に撮影できるメカスの自由さと伸びやかさに心が動いた。言葉、映像、文字、音、ノイズや手ブレまでもが重なり合ってできた独特の作品だ。

この映画を観たのをきっかけに、『メカスの難民日記』を手にした。収容所での強制労働、長い難民生活はいかにも苦しいのだが、そんな中でも細やかな「光」を見つけることを忘れず生きる青年が、健康な精神とその心で綴った言葉の爽快さに感動してしまう。繰り返し吐露される望郷の念、メカス青年はリトアニアの森の麗しさや田舎の美しさを度々想った。だから私はリトアニアに行ったなら、まずは森を歩いて田舎の素朴なありように触れたかった。この秋に再訪したリトアニアでも、森には樹々が深く息づき、田舎の家々の庭先には林檎がたわわに実っていた。メカスさん、天からあの美しい国の秋を眺めて、詩でも口ずさんでいるのではないかしら。

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アニクシャイにて、早朝湖まで散歩した。向こうには森が広がっている。白鳥が2羽こちらに向かって泳いできた。
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ビリニュスの聖ペテロ・パウロ教会の中で見つけた聖アントニオ像は、リトアニアの食の中心にある黒パンを手に持っているのが珍しい。
⚫︎『リトアニアへの旅の追憶』 
監督/ジョナス・メカス 1972年、アメリカ映画 87分

⚫︎『メカスの難民日記』 
ジョナス・メカス著 みすず書房刊 ¥5,280

>>「在本彌生の、眼(まなこ)に翼」一覧へ

*「フィガロジャポン」2024年1月号より抜粋

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