写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は韓国の旅。

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ソウルの京東市場の中の地下にある食堂での光景。厨房を囲むように作られたカウンターで、オモニたちは元気に明るく働く。白菜の葉を一枚丸ごと使って焼くチヂミが格別においしかった。

追想された白いものたち。

vol.15 @ 韓国

一冊の本がもたらす、ごく個人的な偶然の結びつきを体験することがある。その縁というか、繋がりのようなものが大きくても小さくても、本と自分の間に、個人的な思い出が生まれるのはうれしいことだ。

韓国の女性作家ハン・ガンの『すべての、白いものたちの』の文庫本を、自宅の近所の書店で見つけ手に入れた。カバーのモノクロームの写真が印象に残ったからだ。5年ぶりに韓国を旅して帰国したばかりだったこともあった。自分と縁のありそうな本と直感的に出会うとうれしいものだ。作者の言葉(あとがき)によると、この本は彼女がワルシャワに長期滞在した間に書かれたものだという。当連載にも登場しているが、私は近年ポーランドを度々訪れていることもあり、ひとり勝手にこの本に親近感を持った。ハン・ガンの捉える「白いものたち」を読み、感じ取るにつれ、人の中に残り続ける「色」の記憶について思いを巡らせた。あまたある色の中でも、白は特別で、強い意味を含んだ色だろう。清らかさの象徴でありながら、なまめかしさも孕んでいるように思う。生命の色、とでも言おうか。

現時点で私にとって最も印象的な韓国の「白」は、撮影でお世話になったパクさんのお宅の庭先に埋められた丸々とした大根、そして、私にとって忘れられない映画の一本『バーニング 劇場版』の中で観た光の色、そして、赤々と燃え盛る炎と対照的に立ち上っていく煙だ。

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雪がはらりと降った後、何気ない街の景色を変える白。
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パクさんのお宅の庭先に埋められていた甕。その中には冬の間に使う白い大根が綺麗に並んでいた。
『すべての、白いものたちの』 
ハン・ガン著 河出文庫 ¥935

『バーニング 劇場版』 
監督/イ・チャンドン 
2018年、韓国映画 148 分
Amazon Prime Video にて配信中

*「フィガロジャポン」2024年5月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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