ワルシャワにて、ホテルの窓から中央駅を眺めながら思うこと。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はワルシャワの旅。

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ワルシャワの歴史地区は第二次世界大戦で全破壊された後、ポーランド人の手で完全に復興された。わずかに残された柱や瓦礫が再建に生かされた。一方、文化科学宮殿は1955年完成、それ以前はここにも路地や集落があったと聞いた。

シンクロニシティ弾ける街で。

vol.14 @ ワルシャワ

ワルシャワの滞在先で街の様子が見渡せる部屋をリクエストした。窓から見えるのは、奥に中央駅、眼下には大きなロータリー。街のシンボルカラーの赤と黄色でペイントされたトラムが、火花を散らしながらひっきりなしに往来する。生き物の体内を巡る血流のようで見ていて飽きない。その向こうに聳え立つのが文化科学宮殿。スターリンの置き土産、市民に愛されているかどうかは別として、ランドマークであることには違いない。

ワルシャワで個人的に訪れたかったところのひとつがマリア・スクウォドフスカ=キュリー博物館、ここは彼女の生家でもある。マリアの肉筆や思い出の品々、パリの研究室での夫ピエールとの写真などを観る。印象に残ったのは乳鉢から立ち上るラジウムの光を捉えた一枚、「1922」の文字が浮かぶ。小林エリカさんの『光の子ども』をふと思い出した。この運命をはらんだ「光」のもとを見いだした時のマリアの喜びは計り知れない。

旧市街を歩いていると女優の小島聖さんからメッセージ。今度ワルシャワを舞台にした芝居に出るから街のイメージを知りたいと。キェシロフスキ監督の『デカローグ』が日本で舞台化されるそうですよ、と一緒にいたロー カルガイドに話していたら、ホテルのロビーで『デカローグ 第6話 ある愛に関する物語』の主演女優であるグラジナ・シャポロフスカに遭遇し心底驚いた。どうやらワルシャワはシンクロニシティが起こる街らしい。

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人々が暮らす集合住宅が度々登場する映画『デカローグ』は88年の作品。いまではそんなアパートメントの真ん前にVegan Ramen Shopのネオンサインが。
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「キュリー夫人」という呼び名が浸透しているが、いまならミズ マリア・スクウォドフスカ=キュリーと呼びたい。
『光の子ども』(全3巻)
小林エリカ著
リトルモア刊

『愛に関する短いフィルム』 
監督・脚本/クシシュトフ・キェシロフスキ 
1988年、ポーランド映画 87分

*「フィガロジャポン」2024年4月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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