映画『ひなぎく』のマリエ姉妹に見る、チェコの街。
在本彌生の、眼に翼。 2024.06.09
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はチェコの旅。
それぞれの時代に人々が求めた自由。
vol.16 @チェコ
料理人のワインあけびさんとチェコを巡った。彼女の著書『ワイン家のオーブン料理』の撮影でワイン家の人々のいきざまに触れたのをきっかけに、その背景にあるチェコの文化や歴史、風土、料理が大いに気になっていた。あけびさんと先々代の足跡を辿る旅の中でしばしば感じたのは、私たち人間が生きる上で求める「自由」についてだった。
チェコは数世紀に渡り常に周辺国に狙われ、戦争とファシズムに翻弄され続けたのだから惨い。そうは言ってもいまのプラハの街の様子からは、30年ちょっと前まで社会がまったく違う状況であったなど知る由もないほど。街は華やかで、通りを行く人々も店も、余所者の私が気後れするくらいスタイリッシュなのだ。
一方で、彼の地で接したあらゆる世代の人たちと交わした会話からは、己の不運を嗤わらう自虐的なブラックジョークが飛び出し、こちらの予想を軽々と超えた大胆な発言が返ってくることが度々あった。そんな肝の据わった精神性がいまを生きるこの国の人々の最大のチャームポイントなのではないか。
映画『ひなぎく』のマリエ姉妹のキュートさと毒、破壊力は制作された1966年当時の彼の地の若者たちの空気そのものに違いない。活動した時代は違えど、作家のチャペック兄弟やクンデラも作品を創作し発表することで自由のために闘ったことも忘れずにいたい。「自由」がある社会は当たり前と思ってはいけない、それを維持できるよう意識的に生きねば。
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監督・脚本/ヴェラ・ヒティロヴァ
1966年、チェコ映画 75 分
ダゲレオ出版 DVD ¥3,539
『ワイン家のオーブン料理』
ワインあけび著
リトルモア刊 ¥2,530
『独裁者のブーツ イラストは抵抗する』
ヨゼフ・チャペック著
共和国刊 ¥2,750
『存在の耐えられない軽さ』
ミラン・クンデラ著
集英社刊 ¥902
*「フィガロジャポン」2024年6月号より抜粋
Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。