ノスタルジー漂う、雨の台湾・基隆(キールン)へ。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回は台湾の旅。

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夜は前に進むのも困難なほど人出の多い基隆夜市。昼間は地元市民のための時間。

雨の基隆、舒淇の揺れる髪。

vol.17 @ 台湾・基隆(キールン)

この度の花蓮地震に際し、被災地の皆様に心よりお見舞い申しあげます。一日も早い復興を切に願います。

子どもの頃から父の仕事に連れられてあちこちの造船所のある街によく通ったので、働く海の街に親しみがある。どうにも好きなのだ。台湾の海の玄関、基隆は「雨の都」と呼ばれているそうだ。台北から列車で30分、基隆に近づくと、線路ギリギリに建つ雑居ビルのコンクリートの壁には雨が染み込んでいてほの暗く、わい雑さが漂っている。綺麗というのではないが、色気のある「絵になる街」だ。

海の反対側で低い山々が霧雨に霞んでいた。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督『ミレニアム・マンボ』の名シーン、長い髪を揺らして夜の橋を進む舒淇(スー・チー)が印象的なスローモーションは基隆で撮影された。彼女の迸るような美しさと新時代への不安や希望が見事に絡み合う、魔法のような映像だ。台湾ニューシネマに強く影響を受けた私は、ここで見る光景を侯監督や楊德昌(エドワード・ヤン)監督の作品世界と重ねて見てしまう。一方で実際に台湾に暮らす人々は、世界の目まぐるしい変化を許容するアップデート感覚に長けている。

2024年のこの地は、彼らの眼にどう映っているのだろう、次世代監督たちは台湾の鼓動をどんな形で見せてゆくのか。甘やかなノスタルジーと、未来に立ち向かう各個人の強い意識が共存する......そんな魅力的な隣人・台湾が、私はいつも気になる。

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市場の中のヘアサロン、客は寝て待て。
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夜の街灯に照らされる横丁のブーゲンビリア、台湾らしい光景。『日台万華鏡』には、いまの台湾が詰まっている。台湾在住の日本人である著者の栖来ひかりさんが現地に暮らし、考えること。ジェンダー、映画やアートに関する章もあり。6月に公開される映画『オールド・フォックス 11歳の選択』は、侯孝賢による最後のプロデュース作品、監督は長く助監督を務めたシャオ・ヤーチュエン。台湾俳優勢に交じり、門脇麦が憂ある人妻を好演し存在感を放っていた。
『ミレニアム・マンボ』
監督/ホウ・シャオシェン
2001年、台湾・フランス映画 105分

『オールド・フォックス 11歳の選択』
監督/シャオ・ヤーチュエン
2023年、台湾・日本映画 112分

『HHH:侯孝賢』
監督/オリヴィエ・アサイヤス
1998年、フランス・台湾映画 94分
Amazon Prime Video にて配信中

『日台万華鏡』
栖来ひかり著
書肆侃侃房刊 ¥1,760

*「フィガロジャポン」2024年7月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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