アルメニア、小さな国で探す物語。
在本彌生の、眼に翼。 2024.10.03
写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はアルメニアの旅。
パラジャーノフの色彩世界へ。
vol.19 @ アルメニア
旅する時、個人的な思い入れを過剰に追わないようにしたい。その場所を実際に体感した時、想定外の何かがあったほうがいい。
そうはいっても「みんげい おくむら」の奥村氏からアルメニアに絨毯の文化を探訪しに行く提案をもらった時は、どうしようもなく映画で観た憧れのイメージで頭の中がいっぱいになった。私にとってアルメニアといえば、彼の国の巨匠セルゲイ・パラジャーノフ監督の『ざくろの色』(1969年)で描き出される世界だった。
あまりにも短絡的なのだが、『ざくろの色』はそれほどに強烈な映像体験といって良いはず。ロケーションも衣装も役者たちも、映し出される独特な色彩も、一度観たら忘れられない。当時のアルメニアでしか、パラジャーノフ監督にしか作れない、唯一無二の優美さと魔力をはらんだ、まさに衝撃的な作品だ。あんな世界がいまのアルメニアにあるのかしら、いや、そもそもにあれは映画の中のこと......そう自問自答していたが、彼の地に赴くと、首都のエレバンでさえ市場で働く人々や小道の光景には、ここが独特であり続けた風土の芯の太さが感じられ、それらは軽く私の余計な予想を裏切った。
岩肌が剥き出しの山のてっぺん近くにある修道院の中で見た修道士たちの祈りの時間も、甕かめを土に埋めてワインを醸造するおじさんの手の皺も、小さな工房で絨毯を織る女性たちの優しく温かい眼差しも、アルメニアという力強い土地に育まれ息づいていた。
監督・脚本/セルゲイ・パラジャーノフ
1971年、ソ連映画 73分
DVD¥4,840、Blu-ray¥5,940
発売:シネマクガフィン
発売:TCエンタテインメント
『ジプシーの来た道 原郷のインド・アルメニア』
市川捷護著
白水社刊 ¥2,420
*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋
Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。