アルメニア、小さな国で探す物語。

写真家の在本彌生が世界中を旅して、そこで出会った人々の暮らしや営み、町の風景を写真とエッセイで綴る連載。今回はアルメニアの旅。

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ワイン作りの歴史は世界最古ともいわれるアルメニア。移動の途中で見つけた家族経営の小さなワイナリーを訪ねると、ご主人が素焼きの甕で寝かせたワイン蔵を見せてくれた。一杯飲んでいって、と満面の笑顔でお誘いを受け、リビングルームにお邪魔する。ここでいただいたワインの赤い色も、リトアニアの忘れ難い色になった。 

パラジャーノフの色彩世界へ。

vol.19 @ アルメニア

旅する時、個人的な思い入れを過剰に追わないようにしたい。その場所を実際に体感した時、想定外の何かがあったほうがいい。

そうはいっても「みんげい おくむら」の奥村氏からアルメニアに絨毯の文化を探訪しに行く提案をもらった時は、どうしようもなく映画で観た憧れのイメージで頭の中がいっぱいになった。私にとってアルメニアといえば、彼の国の巨匠セルゲイ・パラジャーノフ監督の『ざくろの色』(1969年)で描き出される世界だった。

あまりにも短絡的なのだが、『ざくろの色』はそれほどに強烈な映像体験といって良いはず。ロケーションも衣装も役者たちも、映し出される独特な色彩も、一度観たら忘れられない。当時のアルメニアでしか、パラジャーノフ監督にしか作れない、唯一無二の優美さと魔力をはらんだ、まさに衝撃的な作品だ。あんな世界がいまのアルメニアにあるのかしら、いや、そもそもにあれは映画の中のこと......そう自問自答していたが、彼の地に赴くと、首都のエレバンでさえ市場で働く人々や小道の光景には、ここが独特であり続けた風土の芯の太さが感じられ、それらは軽く私の余計な予想を裏切った。

岩肌が剥き出しの山のてっぺん近くにある修道院の中で見た修道士たちの祈りの時間も、甕かめを土に埋めてワインを醸造するおじさんの手の皺も、小さな工房で絨毯を織る女性たちの優しく温かい眼差しも、アルメニアという力強い土地に育まれ息づいていた。

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活気あふれるエレバンの市場は生鮮食品から衣料品まで何でも揃う。精肉店のディスプレイは圧巻。
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首都エレバンの東、セヴァン湖沿いにある夢のように美しい教会と修道院を訪ねた。香が振り撒かれ、修道士たちの祈りの声が響く。幻想的な光景に心掴まれた。さて、ロマの音楽が好きだ。ユーラシア大陸を跨いで旅すると、ロマの辿った道のりに接することが多く、自ずと彼らと土地の関係に関心がいく。ロマの言語はアルメニア語源の単語が多いという。『ジプシーの来た道 原郷のインド・アルメニア』は、アルメニアにおけるロマの人々の歌や詩を追った旅から生まれた一冊。
『ざくろの色』 
監督・脚本/セルゲイ・パラジャーノフ 
1971年、ソ連映画 73分 
DVD¥4,840、Blu-ray¥5,940 
発売:シネマクガフィン 
発売:TCエンタテインメント

『ジプシーの来た道 原郷のインド・アルメニア』 
市川捷護著 
白水社刊 ¥2,420


*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋

Yayoi Arimoto
東京生まれ、写真家。アリタリア航空で乗務員として勤務する中で写真と出会う。2006年よりフリーランスの写真家として本格的に活動を開始。

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