文・写真/髙田昌枝(弊誌パリ支局長)
夏といえば、ヴァカンス。7月14日のパリ祭の軍事パレードと花火を境に、パリはぐっと人が少なくなる。メトロもオフィスも空いていて、街はのんびりムード。夏といえば静かなパリの顔が浮かんでくる。
卒業資格試験がある中学や高校は一足早く6月末には夏休みに入ってしまうし、小学生以下の子どもたちも7月早々にお休みに突入する。2カ月もある学校休みだが、日本のようにクラブ活動やお稽古事もなければ、塾の集中コースもない。
というのも、指導教員やお稽古事の先生たちも、みんなヴァカンスだから。それに、夏休みを境に次の学年に進級するシステムのため、夏休みの宿題もゼロ! 子どもたちにとって、夏はまさにヴァカンスという言葉の本来の意味のとおり、「何もない」時間というわけだ。
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さまざまな出版社によるカイエ・ドゥ・ヴァカンス、すなわち「夏休みノート」。
ところが、そんな子どもたちを放っておいてくれない夏の風物詩がある。5月の末か、6月の初めか……書店だけでなく、ちょっと大きめのスーパーマーケットの目立つ場所にどーんと特設スタンドが出る「カイエ・ドゥ・ヴァカンス」、すなわち「夏休みノート」だ。1年間で学習した内容を、毎日問題を解きながら復習するノートで、このスタンドが出現すると、「あっ、もう夏休みが近い!」と、少しばかり焦ることになる。


左:人気番組やディズニー映画のキャラクターを使った幼児向けノート。右:中学生向きのノートはさすがにちょっと大人っぽい。
ディズニーやアニメの人気キャラクターを登場させた幼児向きから、イラストも豊富で全教科をまとめた小学生向き。中学生になると、全教科をまとめたもののほかに、数学やフランス語、英語などの教科別も登場し、ページ数もぐっと増える。普段はそれほど学校での教材以外にドリルなどを与えない親たちも、夏休みノートには弱いらしい。会社帰りに夕食の買い物をするママたちが、各社のノートをじっくり見比べる姿が目につくようになる。
一体いつから存在するの?と調べてみると、その歴史は古く、第二次大戦前の1933年にさかのぼる。ロジェ・マニャールという人物が、進級を前にした子どもたちに向けて夏休みの復習ノートを考案し、マニャール出版を設立。教育出版として発展したこの会社は、いまも本家本元の「カイエ・ドゥ・ヴァカンス」を作り続けて健在だ。いっぽう、70年代にスーパーマーケットが発達し始めると大手出版社が参入し、ナタン出版の「ナタン・ヴァカンス」や、アシェット社の「パスポート」「メ・ヴァカンス」などがお馴染みになった。現在、この夏休みノート市場は、年間2500万ユーロ規模になっているという。
大人向けの「マニュの夏休みノート」は、マクロン大統領をキャラに、政治ネタをひねったギャグクイズ集。
書店に並んだ大人のための夏休みノート。
子どもだけにお勉強させるのは忍びない!というわけでもないだろうが、最近では、「大人のためのカイエ・ドゥ・ヴァカンス」と総称されるパロディ版も書店に並ぶようになった。こちらは簡単にいえばカルチャーやスポーツ、時事問題のクイズ集で、今年1年をおさらいしようというわけ。政治ものならマクロン大統領を主人公にした「マニュの夏休みノート」。サッカーファンのための「テレフット」、ポップカルチャーの「サマー・イズ・カミング」などさまざま。アペロの話題作りに、ビーチでの寛ぎタイムに、ちょっとしたクイズで楽しむ。子どもたちのお勉強とは一味違う夏休みノートだ。
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texte et photos : MASAE TAKATA